@tirichann
苗字に買い物に誘われた。今日はオフだし、苗字もそれをわかって誘ったのだろう。どこか気分よくなりながら、俺は今日の目的を尋ねる。苗字は誕生日プレゼントを買いたいと言った。別の人のための買い出しに付き合わされているらしい。俺とのデートを楽しむためではなかったのかと落胆しつつ、俺は苗字の隣を歩く。目的が違えど、苗字と一緒に出掛けている事実は変わらない。
「どんな人なの?」
俺を呼ぶくらいなのだから男相手なのだろうか。だとしたらかなり嫌だ。女の子相手なのに俺が意見役として呼ばれているなら、結構自信がつく。
「人気。格好いい。イケメン」
苗字の答えを聞いて俺は固まる。言葉的に、男であることは間違いない。でも男の中でもそんな言葉が似合うのは俺くらいで、つまり苗字は俺の誕生日プレゼントを俺に選ばせようと誘ったのだ。遠回しな喜ばせ方にもどかしくなる。俺はすっかり気分をよくして、苗字と駅前のビルを徘徊した。
ビルにはスポーツショップも入っている。そこへ行くつもりかと思いきや、苗字は女子御用達の雑貨屋へ行った。自分の買い物をしているのかと思いきや、俺へのプレゼントを選んでいるようなので慌てて止める。
「こういうのは好きじゃないって」
「何でわかるの?」
苗字の視線が飛んでくる。俺は自分の誕生日プレゼントを選んでいると知らない前提で一緒にいるのだった。
「そこは俺を信じてよ」
曖昧に誤魔化し、雑貨屋の中でもユニセックスなデザインのアクセサリーケースを持ち出す。
「これとかどう?」
「でもそれって及川が選んでるんじゃ……」
「別に良くない?」
どうせ貰うのは俺本人なのだ。苗字は自分で選んだものをあげたいのだろうけれど、なんだかんだで自分が欲しいものを一番喜ぶだろう。だろうというか、俺のことなんだけど。
結局、苗字は男女どちらともに使えるデザインのピアスを購入した。ピアスはまだ空いていないけれど、卒業後空ければいいか。
買い物を終え、俺は上機嫌で帰った。後は貰うのを待つだけだ。商品を開ける楽しみはなくなってしまったが、苗字がどういう風にくれるかは期待が募る。
その翌日、学校へ行くと苗字が先輩に何かをあげていた。手にしているのは昨日一緒に選んだピアスの袋だ。間違えるはずもない。苗字の前に立っているのは、イケメンで名高い苗字の部活の先輩だった。もちろん女である。人気、イケメン、格好いい。苗字の言葉を思い出した。
「俺じゃなかったわけ!?」
苗字が教室へ戻ってきた後、苗字に迫る。随分痛い男になっている気がするが、それはまあ構わない。
「普通デートしながら本人に選ばせないでしょ」
苗字はそう言うが、苗字ならやりかねない何かがある。俺は裏切られたような気持ちでいっぱいだったが、苗字が「デート」と言ったのですっかり毒気を失っていた。デートだったなら、まあいいか。おとなしく着席する俺は、なんとも単純である。