賢者の島の夏祭り。
美味しい食べ物と音楽と共に愛する人と過ごす、至福の夏のひと時。
ツイステ二次創作、シル監ラブストーリー第35話。
※創作女監督生の名前が出ます
※捏造設定あり
@natsu_luv
太陽の光が大地を照らす暑い季節が賢者の島にも訪れた。
ある夏の日の週末、私はシルバー先輩と一緒に麓の街へ出掛けていた。
この時期の麓の街では、観客船の港の近くで夏祭りが行われるという。
ティールーム・ルミナスも出店しているとマジカメで知った私は、さっそくブースへと足を運んだ。
店主のキャスリーンさんがブースの中でフルーツティーの仕込みをしている。
その姿を目で捉えた私は、タイミングを見計らってキャスリーンさんに声を掛けた。
「こんにちは!」
「あら、いらっしゃい。今日のフルーツティーも美味しい果物がたくさん入ってますよ」
「そうなんですね! では、フルーツティーを二つください」
「ありがとうございます。さぁ、どうぞ」
にっこりと朗らかな笑顔を浮かべたキャスリーンさんからフルーツティーを受け取り、私達はベンチへと向かった。
白桃やメロン、さくらんぼといった果物がたっぷり入ったフルーツティー。
ひと口飲むだけで、果物の香りが漂ってくる。
「美味しいですね」
「よく冷えたアイスティーが身体に染み渡るな……」
「あれ、あっちの方にカフェ・アルゴーのブースが見えますよ」
「フルーツティーを飲み終わったら、次の目的地はそこにするか」
フルーツティーを堪能してから、私とシルバー先輩はカフェ・アルゴーのブースへ行ってみた。
こちらのブースではサルサソースを使用したポークカツサンドを販売しているらしい。
暑い日にはスパイシーな味の料理がよく売れる、そう店主のカノープスさんがブログに綴っていたのを以前見かけた。
ブースの近くからスパイスの芳醇な香りが漂ってくる。
ちょうどサンドイッチが出来上がった頃合いに、私はカノープスさんに声を掛けた。
「こんにちは! ポークカツサンドを二つお願いします」
「いらっしゃい。ちょうど出来立てだよ。はい、熱いうちにどうぞ」
「ありがとうございます」
いつもと変わらない穏やかな笑顔を浮かべながら、カノープスさんが私達にポークカツサンドを渡してくれた。
こんがりトーストされた食パンに新鮮なトマトとレタス、スパイシーなサルサソースと揚げたてのポークカツがぎゅっと挟まっている。
食欲が落ちてしまいがちな暑い夏の日にも、ペロリと食べられそうだ。
「美味しいですね。ポークカツも揚げたてサクサクで、お野菜もたっぷりです」
「少し辛めのソースが食欲を促進してくれるな」
「私でも食べられる辛さで安心しました」
「そうか、それは良かった」
「あっ、あちらに何かステージのようなものが見えますよ」
「食べ終わったら、近くまで行ってみるか」
サンドイッチを食べ終わってから、私達はステージの近くまで足を運んだ。
ちょうど準備を終えたスタッフさんがマイクで観客たちに呼びかけた。
これから、ステージ上で行われるカラオケ大会の参加者を募るという。
「カラオケ大会か……。腕試しに参加してみようかな」
「いいんじゃないか。夏祭りに来ている観客たちにニコルの歌声を聴いてもらえる良い機会だ」
「ちょっと照れちゃいますね。では、受付に行ってきます」
私は受付に向かい、参加手続きを済ませた。
今回のカラオケ大会は老若男女問わず、規定の人数まで参加者を募るらしい。
参加者が揃ったとスタッフさんの一人が知らせに来た。
スタッフさんの指示で、私は舞台袖で他の参加者たちと開始の挨拶まで待機することになった。
シルバー先輩は観覧席へと向かった。
定刻になり、カラオケ大会の司会者さんがステージに上がった。
「お待たせしました! 只今より、夏祭り恒例行事のカラオケ大会を開催いたします!」
挨拶が終わってすぐ、夏祭りの会場に拍手の音が鳴り響いた。
司会者さんが私を含む参加者たちをステージへと呼んだ。
これから歌う順番をくじ引きで決めるという。
くじ引きの結果、私は一番最後になった。
個人的に最もプレッシャーのかかる順番になってしまったけれど、きちんとパフォーマンスができればそれでいい。
最初の参加者がステージの中央へと歩いていった。
金色の長い髪とターコイズブルーのカチューシャとワンピースが印象的な美しい女性だ。
彼女が選曲したのは、私もよく聴いているメロディックスピードメタルの楽曲だった。
声変わり前の少年のような美しい声で、彼女は観客たちを圧倒していく。
彼女の独特の歌声は、難曲のひとつだと言われているこの楽曲の音程をほぼ正確になぞっている。
最後の高音シャウトが響き渡った途端、観客たちはスタンディングオベーションを行った。
「見事な歌声でしたね。今回は最初からレベルが高いですね!」
「お褒めいただき、ありがとうございます。観客の皆様も、最後まで聴いてくださって光栄です」
「さて、採点に進みましょう!」
今回のカラオケ大会の審査は機械を使用して行われる。
モニターが映し出した点数は九十五点、一曲目からかなり高い点数だ。
私が優勝するには、この高い点数を超えなければいけない。
緊張感が漂う中、私は他の参加者たちのパフォーマンスを舞台袖で観ていた。
次の参加者はリリア先輩と雰囲気がよく似た、赤茶色の髪の小柄な女性だ。
黒を基調とした少し奇抜な装いの彼女が選んだ楽曲は、リリア先輩がたまに歌っている有名なメロディックデスメタルだった。
私よりも小柄な彼女は、見た目からは想像もつかない程のデスボイスを楽曲の冒頭から響かせていた。
サビでは打って変わって、彼女は愛らしいクリーンボイスで高らかに旋律を歌い上げていった。
楽曲が終わると、またしても観客たちはスタンディングオベーション。
とても麓の街の夏祭りで行われているカラオケ大会とは思えない。
赤茶色の髪の女性の歌の点数は九十三点だった。
彼女は少し悔しそうな表情を浮かべつつ、舞台袖に引っ込んだ。
歌の採点が終わった後、次の参加者であるすらっとした姿勢の老紳士がステージに上がってきた。
彼は一礼した後、今回選んだ楽曲について話し始めた。
「この楽曲は私の一番思い入れのあるものです。様々な合唱団で歌ってきた経験を活かして、ステージに歌声を届けたいです」
「ありがとうございます。それでは、観客の皆様もオペラの名曲をお楽しみください!」
荘厳なイントロが流れ出し、ステージ周辺の空気が一変した。
老紳士は声高らかにトップテノールの歌声を響かせている。
観客たちは皆揃って静かにステージを眺めていた。
老紳士が歌い終わった後、またしてもステージ周辺に拍手の音が鳴り響いた。
採点結果がモニターに映し出された。
先程の女性と同じく、点数は九十三点だった。
老紳士は深々と一礼し、ステージを後にした。
カラオケ大会はまだ前半戦だ。
だけど、そうとは思えない程にレベルの高い参加者たちがひしめき合っていた。
老紳士の後の参加者たちも、それぞれが圧倒的な歌声を披露していた。
だけど、皆揃ってトップバッターの金髪ロングの女性が出した九十五点を超えていない。
カラオケ大会も後半戦に差し掛かり、私の順番も迫ってきている。
次に呼ばれたのは、黒いキャップを被った金髪に褐色肌の若い男性だ。
彼はどんな楽曲を歌うのだろう。
順番がやってくることに緊張しつつも、私は引き続き舞台袖からステージの様子を眺めた。
褐色肌の男性が選んだ楽曲は、有名なR&B女性歌手のヒットソングだ。
この美しいバラードはかなりの難曲としても知られている。
それでも、彼は物怖じせずにステージの中央に立ってマイクを構えていた。
イントロが流れ出し、Aメロが始まった。
出立ちからは想像もつかない程の柔らかく優しい声で、彼は歌詞に描かれた切なる想いを丁寧に歌い上げながら観客を魅了していく。
サビに入ると、褐色肌の男性は見事な高音ボイスを披露した。
観客の中には涙を流している人もいる。
彼が歌い終わった後、拍手がしばらく鳴り止まなかった。
モニターが映し出した点数は九十四点、彼もトップバッターの女性の点数を超えられなかった。
褐色肌の男性は眉尻を下げた表情を浮かべながらも、観客たちに手を振ってステージを降りた。
いよいよ私の順番が回ってきた。
徐々に速くなっていく鼓動を抑えようとしていたら、観客席にいたシルバー先輩が舞台袖まで来てくれた。
「ほとんどの参加者さんたちが九十点以上の点数を出してますね。それでも、暫定一位は変わってないのか……」
「ニコル、大丈夫だ。お前の歌声ならば、観客たちを魅了できると信じてる」
「シルバー先輩、ありがとうございます。行ってきます!」
シルバー先輩の言葉に背中を押され、私はステージの中央へと向かった。
いつもは後ろに先輩方がいらっしゃるけれど、今日はステージに立つのは私だけ。
司会者さんに今回歌う楽曲を選んだ理由を尋ねられた。
私はありのままに選んだ楽曲について答えた。
「この楽曲は私と私の恋人が好きな楽曲なんです。加点も狙いますが、心を込めて歌います」
「ありがとうございます。これはまた、メロディックスピードメタルの名曲ですよ。それでは、さっそく聴かせていただきましょう!」
司会者さんの合図が終わってすぐに、讃美歌のようなイントロが流れ出した。
これから私は観客たちを希望の世界へと導いていく。
私は後ろで演奏している先輩方を思い浮かべながら、軽音部のライブと同じように旋律を歌い上げていった。
最後のサビを歌い上げ、私ひとりのステージが終わった。
観客たちの拍手が鳴り止んだ後、カラオケ機械による採点が行われた。
「さて、ニコル・シャーロンさんの点数は……九十六点です! 今回の最高得点が出ました!」
「ええっ!?」
「よって、今回のカラオケ大会の優勝者はニコル・シャーロンさんです! 皆様、もう一度盛大な拍手をお願いします!」
「ありがとうございます……!」
温かい拍手を贈ってくれた観客たちに、私は深々と礼をした。
他の参加者たちもステージに上がってきて、私に激励の拍手を贈ってくれた。
司会者さんが私をステージの前方へ呼んだ。
優勝賞金を貰い、私はステージを降りた。
そして、舞台袖で待っているシルバー先輩の方へと真っ直ぐに向かった。
「ニコル、よくやったな。おめでとう」
「ありがとうございます」
「あの楽曲は俺のことを想って選んでくれたのか……?」
「えへへ、その通りです」
素直にそう答えると、シルバー先輩が眉尻を下げて微笑んだ。
そして、愛おしむように私をぎゅっと抱きしめてくれた。
ステージの周辺を離れ、私達は飲食ブースの方へと向かった。
すると、キャスリーンさんが私に声を掛けてきた。
「ニコルさん、優勝おめでとう。カラオケ大会のステージ、ブースの中から眺めていましたよ」
「ありがとうございます。嬉しいです」
キャスリーンさんだけでなく、カノープスさんをはじめとする他の出店者さんたちもカラオケ大会のステージを見ていたという。
そろそろ、陽が沈み始める時間だ。
私はシルバー先輩と手を繋いで、ナイトレイブンカレッジ行きのバスの停留所へと歩き出した。
今日の麓の街の夏祭りも私達の最高の思い出のひとつとなるのだろう。