オメガバ🐑🐸第16弾、遂に番が🐑さんだと知った☕さんと🐸さんの赤裸々トークです。
ネタバレは特にありません。
@rikka_trpg801
本能だけ?
夜。宿舎の面々はそれぞれ風呂に入ったり、ゲームをしたりと好きなことをして過ごす時間である。
そんな、本来ならまったり過ごしているはずの時間に、帰代は聖の部屋で気まずい顔をして座っていた。正面には薄っすらと笑みを浮かべた聖が陣取っている。
「俺は医者ってわけじゃないけど、一応この宿舎の皆の健康管理を任されてるんだよ」
「……ああ」
それは帰代も心得ている。実際宿舎のメンバーも、ちょっとした怪我や軽い風邪なら聖を頼ることが多い。
「この宿舎はαにβにΩにって揃ってるから、それぞれのバース性に配慮した対応も必要なんだ」
「……そうだな」
無用な事故を避けるために、宿舎のメンバーは互いのバース性や番の有無を共有し合っている。加えて聖は健康管理のために、発情期の周期など更に一歩踏み込んだ情報も知らされていた。
「変ちゃんが番持ちってのは聞いてたよ。発情期休暇の周期もね。でもさ――――」
帰代をじっと見つめる聖は、表情こそ薄っすら笑みを浮かべているが、目は一切笑っていない。
「番がαで、変ちゃんが抱かれる側ってなってくると、健康管理上配慮すべき点も変わってくるわけ。情報は正確じゃないと困るんだよ」
「……」
黙り込んだ帰代から視線を逸らさず、聖は微笑みながら宣った。
「というわけで、ちゃんと説明してくれるよね?」
先日盛大に迷惑をかけた帰代に、その追及から逃れる術はなかった。
「なるほどね……」
番になった経緯から今に至るまでを説明させられた帰代は、羞恥で僅かに赤くなった顔でそっぽを向いていた。
αの自分が上位のαであるとはいえ、嘉羽にビッチングされかけたこと。その嘉羽の暗示のお陰でαでいられること。発情期にΩ的な役割を果たしていること。そのどれもが帰代のプライドを傷つける事実だ。
「確認だけど、第二性は今もαでいいんだよね?」
「ああ、そうだ」
定期的に検診を受けているが、帰代の第二性はαの判定が出ている。αとしてのフェロモン量は以前より少し減少したが、ほとんど誤差の範囲内だ。
「発情期の前に体調を崩すことは?」
「基本的には、ない。というか、明確な発情周期はない。一定以上の期間を置いて番に会ったときに起こる感じだ」
二ヶ月という周期は、本能的な欲求を適度に発散できる周期として見定めたものである。試したことはないが、会いさえしなければ半年だろうが一年だろうが発情せずにいられるかもしれない。
「なら休暇前の配慮は不要、と……むしろ休暇後の体調は? 腰とか辛くない?」
「問題ない!」
流石に発情期を終えた直後は半日ほど身体を休める必要があるが、その分も考慮して帰代は休暇日数を申請している。出勤する頃には万全の体調に整えていた。
「了解。なら、基本的にはこれまでの対応でいいね。番さん忙しそうで中々会えなさそうだし、上からの休暇変更願いは無しってことくらいかな?」
「いや、別に少しくらい伸びても――――」
「前不機嫌になってたみたいだけど?」
以前休暇中に急遽仕事に駆り出された時のことを指摘されれば、帰代は黙るしかない。急なスケジュール変更の苛立ちで周囲に刺々しいフェロモンをばら撒いて、聖や神無に迷惑をかけてしまったのだ。
「というか、別に変ちゃんじゃなくても番持ちの発情期休暇を変更なんてさせちゃ駄目なんだよ。俺たちは仕事が仕事だから無理が罷り通っちゃってるけど、下手すると寿命が縮みかねないんだからね?」
発情期をまともに過ごせないと、特にΩは著しく身体に負担がかかる。それが積み重なっていけば、身体にガタが来るのも早まるのだ。
「変ちゃんも、発情期にΩ側ならその点を忘れないで。身体を壊してからじゃ遅いんだよ?」
「わかってる……あいつも、休暇中の呼び出しは問題だって言ってた」
本当に上に抗議したかどうか帰代は知らないが、あれ以降休暇中に呼び出されたことはない。帰代の脳裏をいつもの笑みを浮かべた嘉羽の顔が過ぎった。
そんな帰代を見て、聖はそれまでの医学知識持ちとしての真面目な態度を崩す。
「番があの嘉羽羊介って知った時には心配になったけど、ちゃんと愛されてるんだ?」
にまにまと頬杖をついた聖に、帰代がくわりと目を見開く。
「誰が!?」
「変ちゃんが。海外にいたのに文字通り飛んで来てくれたし、落ち着くまで傍でケアしてくれたんでしょう? 愛されてるね」
確かに嘉羽は仕事中だったにも関わらず、帰代のために急遽帰国した。薬で強制的に引き起こされた発情期は約二日に及んだが、その間普段の発情期と同じように寝室に籠りきりで、あまり覚えてはいないがおざなりな対応をされた記憶はない。
しかし、それが愛などというものに起因すると思われるのは心外だった。
「あいつも俺も、本能だからやってるだけだ。そもそも、愛だの好きだので番になったわけでもない」
帰代はこれからもαとして生きるために、仕方がなく嘉羽の番になったのだ。もし他に方法があれば、番契約など結んでいなかっただろう。
憤慨する帰代に、聖は「そう?」と首を傾げる。
「少なくとも、番になろうと思うくらいにはお互いにプラスの気持ちがあったってことでしょう?」
「最初に説明したが、俺は他に方法が無いから仕方なく――――」
「変ちゃんはそうかもしれないけど、彼は違うんじゃない?」
指摘されて、帰代は咄嗟に言い返せなかった。
「彼にとっては、変ちゃんがΩになろうが関係なかったんじゃない? 協力者ではあっても、飽くまで協力関係を結んでいるのは公安であって変ちゃん個人じゃない。Ωになることで変ちゃんが担当を降りることになっても、他の誰かが派遣されるだけだ。彼はそれで困らないでしょう?」
「それ、は……」
帰代の脳内で、番になった時の記憶が蘇る。
「あいつは、俺がαのまま番になれば、子供もできないし他のΩも寄って来なくなるからと言っていた。丁度良い虫よけだったんだろう」
「たったそれだけの理由でなるには、番って重い関係だと思うよ? ただの虫よけのために定期的に日本でまとまった休暇を取ったり、電話一本で変ちゃんのピンチに駆け付けたりする?」
聖の言うように、嘉羽が帰代を番にしたことで払ったコストは少なくない。メリットよりもデメリットの方が大きいのではないかと、帰代も思っていたのだ。
当の嘉羽は本能に振り回される自分自身を楽しんでいるから問題ないと言っていたが、帰代が同じ立場であれば面倒だと思ったかもしれない。
しかし、それも番であるからこそと言ってしまえば、それまでだ。
「番になってからの本能にはあいつも驚いていたようだし、番になること自体は軽く考えてたんじゃないか? 不利益が重なるなら解除すればいいだけだしな」
嘉羽からなら番契約の解除ができる。それをしないのは、損害が許容範囲内に留まっているからだろう。
溜息混じりに言った帰代に、聖が急に表情を改めた。
「……軽々しく解除なんて言わないで。された側は、一生苦しむんだよ?」
「……悪い。失言だった」
つい先日も、番契約を解除された被害者を目にしたばかりだった。
帰代は自分がそのようになるのを想像できないが、それこそ本能からくる衝動が思いもよらない言動を引き起こすのだろう。
「変ちゃんの番は、番契約が邪魔になれば解除するとか言ってるの?」
「いや、番契約の解除についてあいつが何か言ったことはない」
「会話に出てこないってことは、考えてもないってことかもね? やっぱり愛されてるじゃん」
「だからそれは愛なんてもんじゃなくて、番としての本能で――――」
今度は聖が溜息を吐く番だった。聞き分けの無い子供を見るような目が帰代を映している。
「すべての番が本能だけで相手を大事にするなら、番契約解除なんて問題は起こらないんだよ」
「っ!?」
真理だ。番を守り、労り、尊重する――そのすべてが本能に由来するものであるなら、この世に契約解除に至る番がいる理由がわからなくなる。
「ついでに聞くけど、変ちゃんは番さんと発情期以外でもセックスしたことあるでしょ?」
「なん……!?」
何故わかるかという疑問はそのまま答えになってしまうと呑み込んだが、その帰代の態度もまた答えだった。
「番を持つことだけが目的だったなら、最低限発情期だけ一緒に過ごせば問題ない。それ以外でも接触を持とうとしたり、守ろうとしたりするのは少なからず情があるからだと思うよ」
αとしての本能だけではなく、帰代に対する情がある――そんなことは考えたこともなかった。嘉羽と性欲というのもかつては縁遠いものという認識だったが、嘉羽と愛は今でも結びつかない。
混乱した様子で黙り込んでしまった帰代に、聖が苦笑する。
「少なくとも、この間の番さんとの様子とか、番休暇の後の変ちゃんのすっきりして元気な様子とかを見てると、愛し合ってる仲睦まじい番としか思えないんだけど」
聖の言う『愛し合っている仲睦まじい番』というのが自分たちを示す言葉としてあまりにずれたものに感じ、帰代は咄嗟に首を振る。しかし、その頬には赤味が差していた。
「何馬鹿なことを言ってるんだ! あいつとは、番として義務的な付き合いをしてるだけで――――」
「えっ? 変ちゃん気付いてないの? 薬の所為もあるだろうけど、あの時の変ちゃんめちゃくちゃ番さん好き好きオーラ全開だったよ?」
聖が帰代と番が揃っているところを目にしたのは、マンションの寝室でのワンシーンのみだ。あの時の記憶は一応あるが、帰代はそれこそ本能に突き動かされて番を求めていた。
「全部薬の、本能の所為に決まってるでしょーが!」
そう、あれは本能だ。抱き締められて安堵したのも、抱き締め返したのも、泣きそうな声で名前を呼んでしまったのも、すべて本能の所為なのだ。そうに違いない。
決して、嘉羽のことを恋しく、愛おしく思っていたからではないのだ。
「え~? まあ、薬が入ってる状態でちゃんと判定するのは無理か。でも、番さんの方も変ちゃんのこと好きって感じ出てたよ?」
「どこが!?」
「靴を脱ぐ時間も惜しいって感じで入って来て、変ちゃんを大事そうに抱き締めてたし……ついでに俺たちに対しては、邪魔者はすぐに出て行けってオーラ出てたし」
その行動も本能と無関係とは言わないが、それ以外の感情の存在を否定することもできない。
いつの間にか熱くなった顔で、帰代はこれまで嘉羽と過ごした時のことを思い返していた。嘉羽はほとんどいつも笑みを浮かべているが、帰代はその笑みが深くなる瞬間を何度も目にしている。
細められた赤い目の中に在る感情は、いったい何だったのだろうか。
茹った帰代を見つめながら、聖はこれ以上はパンクしそうだと追及の手を止める。しかし、最後に一言添えるのも忘れなかった。
「態度だけじゃなくて、たまには素直に言葉でも伝えた方がいいよ」
「~~~~うるさい!」
抑えることを忘れた怒鳴り声に、ドアの外に近くの部屋の住人が集まってきてしまう。
経緯を説明するわけにいかない帰代は、まだ赤味の残ったままの顔で、彼らへの言い訳に追われることになるのだった。
(あとがき)
オメガバ🐑🐸、今回はようやく🐸さんの番が誰か知った☕さんとの赤裸々トークでした。このシリーズの🐑🐸は本能を言い訳にしていちゃついております。というか、書き手が本能を言い訳にいちゃつかせております。
最初は本能の占める割合が大きかったかもしれませんが、少しずつそれ以外の感情も伴って来てるのでは? 🐑さんあたりは順序立てて整理して行ったら気付けるかも? 🐸さんは気付いても自分で否定しそうですが……