@tirichann
「苗字〜、付き合わないか?」
ボーダーでの飲み会のことだ。流れで成人が集まっているテーブルに座らされた名前は、太刀川に絡まれていた。太刀川のグラスはかなり減っているので、本気で名前を好きなわけではなくただ単に酔っぱらって絡んでいるだけだろう。それでも素面に戻った後も「折角だから」と付き合い続けそうなのが太刀川だ。
「あ?」
困った顔をする名前の代わりに、二宮が返事をする。太刀川は名前を挟んで隣に座っている二宮を見た。
「何だ二宮、お前苗字のこと好きなのか」
そういう話を、本人を挟んで左右でしないでほしい。名前はそう思うが、酔っ払いには言っても無意味だろう。
「好きじゃないが太刀川にこいつを渡す気はない」
好きではないと言いつつ自分のものにしようとする二宮に困惑する。せめて好きだから自分のものにしたい、と言ってくれた方が反応に困らない。今の二宮は、安全な場所から名前争奪戦に参加しているみたいだ。
「好きじゃないなら別にいいだろ」
太刀川も二宮の言葉に思うことがあったのか、好きではないと言ったことをトリガーにした。すると二宮は自分の主張を変える。
「今好きになった」
本当に勝手な人だ。そもそも太刀川のものではなく自分のものにしたいと思う時点で好きなのではないかと思うが、二宮は名前が好きなど認めたくないのだろう。どことなく見下されている感じがする。
「それほどの仲か?」
二宮は普段から名前を好きそうなそぶりを見せないし、今も名前の隣にいて何をするでもない。
「じゃあ何だ、キスでもしたら満足か」
二宮は名前に手をかける。
「二宮さん、ちょっと」
「おー、やれやれ」
太刀川は自分が名前と付き合おうとしていたことも忘れて場を盛り上げていた。太刀川の付き合いたい気持ちも本気ではなかったのだろう。そして太刀川に乗せられている二宮も、相当酔っているのだろう。
二宮の唇が近付いてくる。後日この件で二宮に綺麗なお辞儀を見せられたのは、名前だけが知るところだ。