@tirichann
「付き合ってください」
仕事中に突然そう言われ、私は唖然とした。何も私は華々しい職業をしているわけではない。一日単発の、ティッシュ配りだ。目の前にいる少年はどこか身なりが悪く、言ってしまえばみすぼらしい。どうして、という顔をする私に対して、少年は片言で答えた。
「ティッシュ、無料で」
「それが仕事だから」
それ以上でも以下でもない。好意のある人にティッシュを配っていたのでは、私はとんだビッチだ。
「じゃあ俺が好きでくれたわけじゃねぇのか……」
少年はわかりやすくうなだれた。ティッシュを貰っただけで好意があると勘違いするくらい、恋愛に縁のない人生だったのかもしれない。あるいは、ティッシュ一つで心が揺らいでしまうくらい貧しいのかもしれない。少年の外見的に後者だろうなと思う。
なんとなく可哀想に思ってしまった私は、多分同情しているのだろう。何か少年にあげられるものはないかと探し、ポケットから出てきたのは古びた飴だった。
「これあげる」
多分だけど、こういう人は食べ物が一番喜ぶ。もっとお腹に溜まるものを持っていたらよかったのだけど、生憎これしかなかった。
少年はただの飴を輝いた目で受け取り、私を見上げた。
「今度は、仕事じゃねぇよな」
少年は仕事のティッシュで気があると勘違いしたのだ。私情でまた何か渡せば同じ勘違いを生むとわかっていただろうに、どうしてあげてしまったのだろう。私にもわからない。
もうあげてしまったものは仕方なく、私は少年に懐かれた。私がティッシュを配る横で片っ端からそれらを回収していく少年に、同じバイト仲間が眉をひそめている。今日クビになったら、少年と一緒に乞食でもしようか。そう考えるくらい、私は少年に気を許していた。