@libel_no_uraura
「のう、良いではないか?この私が口添えしてやると言っておるのだ。」
でっぷりと肥った男に酒臭い息を吹きかけられ、思わず顔を顰めそうになる。近衛として職務中であるから耐えたが、非番であったなら盛大に顔を顰めていただろう。
本日の夜会会場となるホールの警備の為、リンクの所属する近衛隊は各所に配置されていた。リンクはホールから休憩室への廊下付近を持ち場として配置されており、休憩室を利用する者に怪しい動きをする者が居ないかを監視しつつぴしりと立っていた。
夜会が始まり、参加者に酒が回り始めた頃、その貴族の男は赤ら顔をしてリンクに絡み始めた。尻を撫で、肩を抱こうとする男に「戯れはお辞め下さい。」「自分は職務中です。」と拒絶の意を示すが、男は意に介さず執拗にリンクを休憩室へ連れ込もうとする。
近衛の家系出身ではあるが、リンクは平民だ。貴族相手にあまり手荒に拒絶する事はできない。強引に休憩室へと連れ込もうとする男に、面倒だな…がまずいな…に変わり始めたその時、リンク達に影が差した。
思わず視線を上げると、そこには━━━━━ムチムチパツパツのシャツがあった。否、ムチムチパツパツの上品なドレスシャツを着た男が居た。胸元のボタンは豊かな胸筋に今にも弾け飛びそうである。
「嫌がっているだろう。」
ムチパツ男が貴族の男を咎めるように見る。貴族の男は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「ぐ…国境警備にお忙しい辺境伯が中央の夜会に何用かね。」
「生憎と、俺も招待を受けているのでね。」
王家直々の招待者であることを示すブローチが襟元に光っている。
貴族の男はムチパツ辺境伯に嫌味が通じなかった事に不満そうに唸り、しかしリンクの尻を撫でる手は離さなかった。
「…だが私とこの近衛の事は君には関係無かろう?さっさと行きたまえ」
リンクの尻を揉みながら男は辺境伯へ犬猫でも追いやるように手を振る。男からの辱めと辺境伯への無礼に模範足れと自らへ言い聞かせ耐えるリンクの眉間に皺が寄ったのをムチパツの辺境伯は見逃さなかった。
「彼は職務に忠実な近衛だ。貴方の誘いには乗り気ではないようだが?」
近衛隊には給仕に扮し会場を警備している者もいる。ムチパツの辺境伯が示す先の給仕の一人がこちらを見ているのに気付き、悔しそうに男は唸った。これで退いてくれるか…安堵した矢先、リンクの肩を強引に引き、連れて行こうとする。一瞬の安堵に油断したたらを踏んだリンクは、バランスを崩し男の方に倒れ込みそうになった。ほくそ笑んだ男がリンクを受け止めるべく手を伸ばす。
バチィン!と何かが男の額を打った。驚いた男は尻餅を付き、リンクは反対の腕を引かれ弾力のあるものに包み込まれる。近衛の制帽が落ち、垂れてきた前髪の隙間から見えたのはドレスシャツだった。ボタンがひとつない。先程男の額を打ったのはムチパツの胸元を支え切れなかったボタンだったのか。
胸元に抱え込んだリンクを安心させるかのように辺境伯が微笑む。それは柔らかな光差す森のような、暖かな笑みだった。リンクは思わず頬を染めた。
貴族の男は近衛隊により連れて行かれ、リンクはしばらく呆けたまま辺境伯のムチムチの胸に抱かれていた。
その後暫く、悩ましげにため息をつくリンクの姿が見られ、ついにリンクに春が来たのかと騒ぎになった。当の本人と言えば、辺境伯のムチパツを思い出しては(ムチパツのボタン、凄かった。武器になるかもしれない。)と自身の薄い胸を撫でていた。
まさかその辺境伯と近いうちにまた邂逅することになろうとは思っても居なかったのである。