@tirichann
「本棚を買ったんだけど組み立てられなくて放置してるんだ」
そう言ったのは、会話の流れだった。決して目の前の本橋さんを誘いたいわけではないが、結果的にそうなってもやぶさかではない。本橋さんはと言うと、前のめりにうちへ来ることを提案した。
「なら僕が組み立ててあげるよ!」
本橋さんは性に対して奔放ではないと思っていたので、少し意外だ。とはいえそのルックスは十分に魅力的で、私は彼を家に招いた。彼は一応でも大義名分を果たさないといけないと思っているのか、すぐに本棚を探した。
「これ? じゃあ組み立てるね」
道具まで持ってきて、随分本格的だ。もしかして本当に本棚を組み立てることが目的でやってきたのだろうか。いや、そんなはずはない。いい大人が異性を部屋に招く意味をわかっているはずだ。同じことを伊藤ふみやという男に言ったら、彼は本棚など目もくれずに私を押し倒した。
何故今伊藤ふみやのことを思い出したのかはわからないが、私は本棚を組み立てる本橋さんを見ていた。長い間格闘しているところを見ると、DIYが得意ではないのかもしれない。それなら尚更、私の体が目当てなはずだ。だというのに、彼は本棚を組み立てて颯爽と帰ろうとしてしまう。
「待って、何で帰るの?」
私は思わず彼を呼び止めた。相当苦労したのか、額に汗がにじんでいる。彼は清々しい笑顔で言った。
「もう組み立て終わったから」
まるで私のことは眼中にない。私は信じられない思いで尋ねる。
「この家に来た目的は何?」
「奉仕すること! 君は僕に奴隷としての負荷を与えてくれるよね」
私は呆然とした。本橋さんは、誰かに何かを命令されるのが好きなのだ。そんな人は見たことがない。彼は本当に、私の言うことを何でも聞いてしまうのだろうか。
「じゃあ今ここでセックスしろって言ったらするの」
気付けば私の方が彼とセックスすることに必死になっている。家に上げたのに手を出されないのでは女の名折れくらいに思っているのかもしれない。
彼はというと、恍惚とした笑みを浮かべた。
「それもいい負荷だね」
私とセックスすることに喜んでいるのではなく、「負荷」を与えられることに喜んでいるのだろう。私とのセックスを負荷と言われるのは初めてだ。腹が立ったので、そのまま本橋さんを追い出した。しかしセックスなしで本棚を組み立てて帰るのもまた彼の思い通りのようで、どこか納得できないのだった。私は本橋さんに何を求めているのだろう。