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待ち人来りて

全体公開 了遊 1813文字
2025-09-07 23:01:22

「運命を導くアクセスコード9」の無配です。
いつもの両片想い了遊

Posted by @d9_bond

 藤木遊作に避けられているかもしれない。

 ふと浮かんだ考えに、了見は頭を抱えた。
 何かしたわけではない。ただ、このところ顔を合わせる機会が増えたがゆえに気づいたのだ。遊作は了見の顔を見るとすぐにその場を離れる。


 了見は基本洋上で過ごしているが、自宅に帰る機会もある。補給で寄ることもあれば、仕事で必要があっての上陸もある。単純に休暇ついでに自宅に空気を入れに帰ることもある。
 そして最近わかったことだが、藤木遊作は鴻上邸のすぐ近くを通る海辺の広場によく現れる。
 広場と言っても、整備された道路沿いにベンチが並ぶばかりの場所だ。景色は良いがそれだけなので、観光地として賑わうのはスターダストロードが見られる日くらいのものだ。
 それだけに普段からひとけがなく、了見は散歩や気分転換でこの一帯を歩くことがあった。

 最初にそこで藤木遊作を見つけたのは、彼が相棒を伴って帰還してさほど経たない頃だった。
 相棒についての処遇はさておき、彼自身との確執はない。過去が無くなった訳ではないが、少なくとも遊作は了見に対してむしろ感謝のようなものすら抱いていたように思う。
 とにかく偶然の遭遇であり、了見は驚いたが遊作も驚いていた。その時は多少会話したとも思う。互いが目の前にいることに驚き、遊作は了見が変わりないことに安堵を見せた。そしてここへよく来るのか聞かれたので、気晴らしで来ることもある、と答えた。正確な会話はともかく、ニュアンスはそのようなものだった、はずだ。

 その日以降、了見はたびたび海辺のベンチで藤木遊作と遭遇した。
「了見」
 こちらを見つけると遊作は決まって、名前を呼び、笑みを見せる。やわらかでささやかな笑みだ。
「今日も来たのか」
 と、そう了見が言ったのは何ということもない、ただの相槌だ。だが決まって遊作は少し困ったような顔になる。
「もう帰るところだ。邪魔をしたな」
 言いながら立ち上がり、さっさと背を向けて行ってしまう。
 いつもこんな具合だ。夕暮れ、了見が息抜きで外へ出るといつもではないがベンチに座っている。そして一言二言の会話でその場を離れてしまう。

(やはり不自然だ)
 自宅のリビングでソファに掛け、了見は考える。考えすぎて電気もつけずにいたものだから部屋はすっかり暗くなっていたが、考えに没頭していて気づいていなかった。
(偶然というには多いが、そうでないというのなら意図が分からない)
 頻繁に了見の生活範囲に現れながらも、こちらが現れると帰ってしまう。一度、遠目にいるのが分かったので様子を窺ったが何もしていなかった。ぼんやりと海を眺め空を眺め、海に陽が沈む様を眺めている。結局何をやっているのか気になって声をかければ、いつもと同じくひとことふたことだけ会話をして帰ってしまう。
(目的が何にしろ、私はやはり避けられ──)
 考えが振り出しに戻りそうになり頭を振る。
(──いや、結論を出すのは早い。考えろ。私を忌避するのは当然としても、それならば私が来ると分かっている場所に何度も来るのは)
 と、そこまで思考を巡らせたところで了見は小さく息を詰めた。
 気づいてしまった。
 遊作がベンチに来ることも了見がそこへ顔を出すことも、こうも繰り返される以上は偶然ではありえないのだ。

 星々が瞬く中、了見は邸宅を出て海辺へ続く階段を降りる。
 いつもの場所へ向かうと、日も暮れたというのに遊作がいた。
「藤木遊作」
 呼べば、遊作はパッと振り返り笑みを見せる。
「了見」
……今日も来たのか」
「ああ。少し、星を見ていた」
 言いながら立ち上がる。
 了見は、遊作が次の言葉を口にする前に歩み寄り、その手を掴んだ。
「まて」
 大きな目が見開かれるのを見つめ返し、掴んだ手を離さないよういくらか力を込めながら尋ねる。
「お前は、私を待っていたのではないのか」
「──!」
 遊作はゆっくり瞬くと、いつもの少し困ったような顔をした。
 ややあって、小さく頷く。
「そうか」
 了見は知らず安堵して、微笑した。
「ならばもう少しだけ時間をくれないか」
 告げれば遊作はきょとんとして、了見をまじまじと見た。そんな遊作に了見は目を細める。
「待ちくたびれたか?」
……まさか」
 はにかんで、そっと手を握り返す。
 宵の中で見つめる翠玉に、星の光が映っていた。


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