月蝕ってDのおめめみたいだよねっていう突発おねスタメガ
@fao_scherzo
オプティックの前に翳されていたペンライトが退かされ、光度の変わった視界に目を瞬かせる。
慣れてきた視界に顔を上げれば今度は目の前でひらひらと手を翳された。
「見えますか?」
「……ああ」
視界に不具合が無いとわかると漸く診察をしていたスタースクリームが息をつく。
先程の戦闘でオプティマスのアックスが顔を掠った。避け損ねた刃がメガトロンの両目を斬り裂き視界奪ったのと、呆然とこちらに手を伸ばすオプティマスにカノン砲の一撃を喰らわせたのは同時だった。
失くした視界の中、音を頼りに砲撃を続けていたが、それを止めさせ撤退を促したのもスタースクリームだ。
砲撃に巻き込まれる危険も省みずメガトロンに組み付き、カノン砲を逸らしながら落ち着かせると、そのままメガトロンを抱えて処置室へと駆け込んだ。
数時間後には焼き切れた回路は繋ぎ直され、割れたオプティックも新品へと取り換えられた。
馴染むまではまだ暫くかかるだろうが、数時間ぶりに回復した視力に辺りを見渡せば、スタースクリームが呆然とこちらを見据えていた。
「どうした?」
「──ッ!!」
「……スタースクリーム」
両手で顔を挟まれ、無理矢理顔を上げさせられる。覗き込んでくるスタースクリームの顔は幽霊でも見たかのように憔悴し、震える口元が何かを言おうとしては閉ざされる。
「──見えて、いるんだよな……?」
「ああ。視界に問題はない」
「…………だったら、いい」
「──?」
痛みを堪えるように、絞り出された声にどうしたのかと離れていくスタースクリームを追って、ふと傍らの鏡が目に入った。
映し出された自身の姿は、目を潰される前と何も変わらない。
ただ一つ、そのオプティックの色を除いては。
──嚇怒に灼かれた赤いオプティックは、夜明けの記憶を呼び戻すような、かつてと同じ金色に光り輝いていた。
■
たかが目の色が戻っただけ。
メガトロンは何も変わってなどいない。
今もそうだ。
変わらぬ怒りを燃やして、淡々と配下に指示を飛ばしオートボットにクインテッサの殲滅のために自らの手足同然のシーカーズを動かしていく。
分かっている。分かっているのだ。
だが、それでも──。
(物足りねぇ……)
こちらを射抜く柔らかな光が、世界を映しこむ黄金の宝玉が、灼熱の残滓を溶かしていく。
目に映る全てを燃やし尽し、見渡す荒野を深紅に染める紅玉が見る影もない。
憎悪と嚇怒を象る炎を圧し固めて嵌め込んだような、煮え滾る溶鉱炉を思わせるような、鮮烈な輝きが失われてしまった。
「スタースクリーム」
「……んだよ」
あまりにも態度に出過ぎていたか。
窘めるように呼ばれた名前に振り返れば、ショックウェーブとサウンドウェーブが呆れたように立っていた。
「言いたいことはわかるが我慢しろ。まだメガトロン様の機体と馴染んでいないだけだろう」
「オ前ガ危惧スル程、彼ハ簡単ニ揺ラギハシナイ」
「わぁーってるよ、そんなこたぁよ。俺が言ってんのは、士気に関わるって話だっつーの」
事実それも嘘ではない。
第一、この二人だってそうではないか。
センチネルを引き裂き名乗りを上げた彼にスパークを捧げた。そうして彼と同じ焼き印を受け入れたばかりか、怒りに染めたオプティックと同じく、メガトロンと同じくわざわざオプティックの色を赤に変えたのは彼らを筆頭に一人二人の話ではない。
それほどまでに、色を変えた彼の目は強烈に鮮烈で、一般兵から見れば彼のオプティックに映るだけでも至高の栄誉であったはずなのに。
「あれじゃ盲いてくれてた方がまだマシだったぜ」
吐き捨てるようなスタースクリームの言葉に、呆れた気配は見せながらもそれでも二人から否定の言葉は上がらなかった。
■
それから数日経っても、メガトロンのオプティックは陽光を反射した月光と同じ、柔らかな金色のまま。
そろそろ換装したパーツも馴染んでいい頃合いなのだが。
「痛みや違和感は?」
「特には無いな」
「……他のパーツよりも繊細な箇所です。僅かでも違和感があれば言ってください」
定期健診でも問題は無し。
数値も全てが正常となれば、一体何が原因なのかが分からない。
元々、メガトロンのオプティックは金色だった。
それが、裏切りと欺瞞による怒りで憎悪の色に染め上げられた。
そもそも感情によって色が変わるなど聞いたことが無い性質だ。
それだけの感情の昂りが無ければ変わらないのか。しかしそうであれば、今の彼はあの時程の怒りを抱いていないという証明になってしまう。
そんなはずはない。
そんなことは許されない。
まだ何も成していないのだ。
クインテッサの殲滅も、プライムの打倒も、何一つ。
それなのに、たかが時間の経過で怒りが収まったなど、そんなふざけた話があって良いわけがない。
何か原因があるはずだ。
何か見落としているはず。
何か──。
「ふっ……くく……っ!!」
「……どうかしましたか?」
突然、堪え切れないとばかりに笑い始めたメガトロンにスタースクリームは目を丸くし、次いで呆れたように笑い続ける主を見下ろす。一体誰のためにここまで必死になっていると思っているのか。
「いいや? お前は随分、俺の目に固執してるようだと思ってな」
「……ディセプティコンなら、全員そうでしょうよ。アンタのソレは象徴だ」
「そうだな。だが、中でもお前は特に、拘るだろう?」
挑発するかのように眇められる金色は、どこかあどけなく幼さを滲ませる。
初めてスタースクリームと出会った頃よりも鮮明な金色。
怒りを忘れたかのように、静かな月光を携えるそのオプティックに、スタースクリームは口元を歪める。
「そりゃぁそうでしょうよ。アンタにそんな色は似合わねぇ」
頬に手を添えて、親指の先で目元を強く擦ってみても、メガトロンは微動だにせずただ真っ直ぐにスタースクリームを見据えていた。
「なぁ、アンタ覚えてるか? 俺を殴り負かしてくれた後だった。アンタの目が変わったのは」
昏い黄金が、陰を落とした黄昏へと色を変えた。
その変化を、スタースクリームは見逃さなかった。
「次はアイアコンで。アンタが、その手で、親友を殺した後だ。今思い出しても背筋が震える。その目が赤に染まったのを見た時、確信したよ。ずっと待ち望んでいた王は、アンタだったってな」
「…………」
知れず指先に力が入り、彼の目元に傷を付ける。
僅かに指先がずれただけでも視力を奪われる危険があると言うのに、相変わらずメガトロンは動かない。
「そこまで言うのなら、お前が塗り替えろ。元々お前が変えた色だろう?」
「……お望みならば、何度でも」
請われるままに、法悦に濡れたため息を零し、恭しくも啄むようにそのオプティックへと口付けを落とす。
「ん……ぅ……」
微細なセンサーが集まる箇所への刺激に、反射的に身を捩るメガトロンを抑えつけ、口付けを落としたオプティックに舌を這わせていく。舌先がオプティックを追いなぞるたび、微かな電流が舌に乗る。
痺れるような感触すらも愉しみながら、舌先で飴玉を転がすように、舐め溶かし金の光を消してゆく。
じわり、じわりと侵蝕するように。
端から広がる鈍い赤に笑みが零れる。
金の月を嚙み砕き、赤い夜を取り戻そう。
金色から黄昏に。
黄昏から、赤色に。
ゆっくりと広がり覆い尽くすその色に、恍惚とした笑みを見せて再び口付ける。
ああ、やはり。
彼にはこの色が良く似合う。
怒りと憎悪に染まった灼怒の赤色。
それはまさにディセプティコンの色。
そうして何より──。
(────俺が塗り替えた、俺の物だ)
ゆっくりと口を離せば、いつもの通り。
何処までも苛烈で鮮烈な赤い色。
見る者全てを魅了し威圧する輝きが静かに射抜く。
狂乱と破壊を宿した炎の色が、スタースクリームを捉えて逃がさない。
互いに刻んだ烙印を確かめ合うように、どちらともなく唇を重ねて貪り合う。
どこか甘い鉄の味が、口の中へと広がった。