@tirichann
新しくHAMAツアーズに入ってきた苗字は、とにかく運がいいらしい。道を歩けば雨が上がる。偶然セールに出くわす。飲食店でおまけをされる。それは誰かと一緒にいる時も有効であり、不幸体質の凪は苗字と一緒にいる時だけ普通でいられた。
「苗字さんと一緒にいると何も不幸が起きない、すごい……」
凪にとっていいのは、凪まで幸運になることではなく普通にでとどまることだ。もし凪にまで幸運が起こっていたら、凪は運を調整するために大量の花を配らなければいけないだろう。
苗字の幸運体質は凪の不幸体質を相殺し、平凡な人間でいさせてくれる。凪は思わず苗字に言っていた。
「オレと一生一緒にいてくれませんか」
苗字は目を瞬いた後、「はい」と告げる。隣で見ていた夏焼が思わず尋ねた。
「それってプロポーズじゃないの?」
言葉だけとればそうだ。しかし、凪にとって恋愛感情はない。
「利害が合うから一緒にいるだけ」
「でも、苗字さんは幸運が全部なくなっちゃうんだよね?」
運を相殺されているのは苗字もだ。せっかくの幸運がなくなっていいのだろうか。夏焼が苗字の方を見ると、苗字は秘密だと言うように唇に人差し指を当てていた。どうやら、鈍い凪が気付かないだけで苗字は凪に惚れているらしい。凪と一緒にいられるならそれだけで幸運なのだろう。
野暮なことはしまいと夏焼は部屋を出て行った。果たして凪が苗字の思いに気付くのはいつになるだろうか。