加州清光曰く、油断も隙もあったもんじゃない。
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@fu_re_re_ra
「おや、お酒が切れてしまったね」
ぽた、と徳利から最後の雫が落ちる。月明かりの下、縁側に並んで、共にゆったりと古い昔話に花を咲かせていた石切丸は、宗近に向けて柔和な微笑みを浮かべた。
「もらってこようか。三日月さん、なにがいい?」
「うむ、では、そうだなぁ、なにか……うん、軽やかな飲み口の物を」
石切丸が場を離れてまもなく、奥の方で加州清光や大和守安定、堀川や和泉守たち新撰組の刀たちと楽しそうに語らっていた主人がこちらを見て「あっ」と表情を綻ばせた。
「みかちゃーん」
宴の最中、三日月が独りになったのを見てとったのか、ほわほわと微笑みを浮かべながら手を振って話の切れ目に席を立つと、ととと、とあどけなく寄ってきて隣に座った。
宗近が微笑み返すと、主は幼い童のようににぱっと笑った。
「みかちゃん、ご機嫌だね」
「うむ、良い夜だ。そら、見事な月を肴に、な」
空に浮かんだ望月に向けて盃をかざす。
たぷん、と揺れた酒に月影が映り込む。
主は「わーっ、ほんとだ、すっごくおっきなお月さまだねえ」と縁側にぷらんと素足を無防備に投げ出して笑った。
宗近を相手に他愛無いお喋りに興じる主は始終楽しそうで、誰とどんなふうに遊んだとか、どこで何を一緒に見ただとか、刀剣男士たちと過ごした些細なそれらを、まるで値千金の宝物のように、取り留めなく思い付くままに口にする。
そんな、降り注ぐ月光に照らされ、天真爛漫に笑う主人の横で。
宗近は慈雨のように「うむ」「そうか」「ああ」と他愛無い相槌を降らせて微笑んでいたが、そんな三日月に彼女はいつまでも嬉しそうだった。
宵闇に鈴虫が高らかと歌っている。
明るい夜空を見上げると、彼女はいとけなく笑って満月を指をさした。細い指先が月をなぞる。
「あのねあのね、この前ね、歌仙とお話ししたんだけどね」
「うむ」
「ひと昔前の小説家さんがアイラブユーを『月が綺麗ですね』って訳した話だったんだけど、風流で綺麗な言葉だよねぇ」
「うむ、そうだなあ」
「あれ、でも、よく考えたら、みかちゃんはいつでも綺麗なお月さまだから」
「うん?」
「みかちゃんのお名前、いるだけでいつでも愛してるだね」
三日月宗近と主が並んだ縁側の後方で、皆と呑んでいた加州清光が酒を吹いた。
げほっ、ごほ、と派手に咽せる清光の背を、安定が「あー、あー」とあきれ混じりにさすっている。
それらを尻目に、双眸を細めた三日月はゆるりと優雅に微笑んで「ははは、俺の主は言葉遊びが好きだなあ」と穏やかに笑い返すに留めた。
その後も二、三、言葉を交わしていると石切丸が戻ってきて、無邪気な主は空の徳利とツマミの皿を見ると「あっお皿、みっちゃんに持ってくね」と空き皿と徳利を持って流し場へと入れ替わりに去っていった。
主が場を離れると、途端に加州清光がガバッとテーブルに突っ伏して「もぉやだぁ、俺のあるじすーぐ俺以外のやつ口説くーっ!!」と泣き上戸を始めた。