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すべて世は事もなし

全体公開 TF 1 4847文字
2025-09-10 01:00:34

リクエストありがとうございました!
「もざみち55再会後あたりで、メガ様にギリギリ無理そうな要求するターミナス(全部お見通し)と、何とかそれに応えようと頑張るメガ様のタミメガ」になります!

ターミナス:戦前に行方不明になったメガトロンの先生みたいな先輩炭鉱夫。400万年間コールドスリープされていた。
一応詳細もこっちで偏見ばかりのざっくり説明してるので気になる方は参考までにどうぞ。長いけど。
【ざっくり紹介】ターミナス

すべて世は事もなし

「メガトロン」
……ターミナス」

コールドスリープされていたサイバトロニアンが続々と起き出して、状況の説明に奔走するロストライト船員に、寝ぼけているサイバトロニアン達の喧騒からそっと抜け出す白銀を見つけてターミナスはその後を追いかける。
声を掛ければ、振り返ったメガトロンのその手には動物型のサイバトロニアンの残骸が抱えられていた。

罰が悪そうに視線を逸らすメガトロンに並んで促せば、彼はそのまま外に向かって歩き出す。大切に抱えられた残骸を見て、ターミナスは何も言わずにただメガトロンの隣に立った。

辿り着いたのは、この惑星に点在するホログラム像の台座の一つ。プレートに刻まれた名前は、確かメガトロンが抱えているサイバトロニアンの名前だったはずだ。

「ラヴィッジ?」
「彼の名だ。随分と古くから、共に戦ってくれた同胞の一人だった。ディセプティコンを立ち上げた頃から、傍にいてくれたんだ」
「ディセプティコン……

台座の下に膝をつき、メガトロンはそっとラヴィッジを降ろすと土を掘り返し始める。その意図を察して、ターミナスもまたメガトロンと共に穴を掘り始めた。
土は柔らかく、指先が簡単に沈み込む。関節に土が入り込み、二人の手を鈍く汚していく。掘り返すたびに香る土くれの匂いは、まるで400万年前の鉱山を思い起こさせた。
出来上がった小さな穴に寝かせるように残骸を置き、掘り返した土を被せていく。最後のひと掬いを落とすと同時、メガトロンが小さな友人の名を呼べば、囁くように風が青い花を静かに揺らした。

「メガトロン。聞かせてくれないか? あの後、お前がどんな道を歩いてきたのか」
…………自分を、見失っていたんだ」

ターミナスにとってはメガトロンと別れたのは昨日のことで、メガトロンにとっては400万年も前のことだと聞かされた。意識を失う寸前に見た見かけないサイバトロニアンがおとぎ話のネクロボットであり、彼がターミナスを鉱山から連れ出し助けてくれたのだと。
ターミナスがコールドスリープについていた400万年間、メガトロンが何をしてきたのか。彼はぽつぽつと話してくれた。

メッサティーンから逃げて、漸く辿り着いた鉱山で一人で生きていたこと。
鉱山を閉鎖すると言うデシマス議員に反発し暴動を起こしたこと。
ケイオンに逃げ延び、裏闘技場のチャンピオンになったこと。
そこで戦力を集め、議会を襲撃したこと。
センチネル・プライムを倒したこと。
ディセプティコンを立ち上げたこと。
400万年の、戦争のこと。

終戦を決意し、所属を変えたことを。

淡々と語られるメガトロンの声を静かに聞きながら、戦闘用に調整されたメガトロンの機体に目を向ける。何度も換装してきたのだろう、真新しいパーツは既に大小さまざまな傷跡で覆われていた。

「頑張ったな、メガトロン」
……やめてくれ。俺はただ、間違えた道を進んできただけなのだから」

思わず手を伸ばして彼のメットの上から頭を撫でてやれば、彼はそっとターミナスの手を退かして視線を逸らす。褒められることはしていない、と告げるメガトロンに構わず再び頭を撫でてやれば今度は拒絶されなかった。

「間違えてなどいないさ。誰かがやらなければいけなかった。お前はそれをやっただけだろう」
「それでも……これだけ多くの同胞が犠牲になった」

一面に広がる青い花。
これらはスパークの残滓を閉じ込め発光している命の花なのだと聞いた。ターミナスを助けたネクロボットは、こうして死者を記録していたのだと。そのスパークが散った原因となった者の像に、わざわざ植え付け記録を残し続けていたと。
今二人がいるのは、ラヴィッジと呼ばれた動物型のサイバトロニアンの像があった台座。彼は、メガトロンの部下であり友人であったのだと。先の戦闘でメガトロンから離反した部下に殺されたのだとも聞いた。
先程埋めた、二つに引き裂かれた残骸を思い出す。

「メガトロン。顔を見せてくれ」
…………

俯くメガトロンの頬に手を添えて、そっと視線を合わせる。
戸惑うように揺れる赤いオプティックにターミナスは微笑んだ。

自分を見失っていた、と。
変わってしまったようで怖かった、と。
彼はそう言うが、なんてことはない。ターミナスのよく知る『メガトロン』だ。

「お前はよくやったよ。よく頑張った。他の誰が否定しても、私はお前の正しさを知っている」
「ターミナス……

今にも泣きそうな顔で見上げてくるメガトロンに、ターミナスは安心させるように笑いながら何度でも頭を撫でてやる。400万年も一人で戦い続けてきたのだろう。機能主義社会を否定するために、多くの犠牲を払ってきたのだろう。本来は喧嘩すら嫌っていたメガトロンが、戦闘用の機体を用意するほどに。
後悔ばかりだと言うが、メガトロンがいなければあのセイバートロン星がどうなっていたかなど考えたくもない。彼がいたから、今があるのだろう。
自らの努力も偉業も、全てを否定しかねないメガトロンにターミナスは両手を広げて問いかける。

「抱きしめても?」
「ん……

そっと身体を預けてくるメガトロンを両腕でしっかりと抱きしめた。腕の中で彼の重みが増す。白銀の肩口に頬を寄せ、長年の戦場に固まった緊張を解くようにその背を撫でる。
機体はアップグレードされて以前よりも大きくなっているのに、こういうところは変わらない。努力家で理想家で、甘え下手。他機との触れ合いも苦手だったか。思えば彼とこうしてハグをしたのも今日が初めてだった。
周囲に好意を隠さない癖に自身に向けられる好意にはやけに鈍感で、警戒心が高く壁を作る癖に、一度心を許した相手には際限なく懐くものだから、どれだけ心配させられたものだったか。

……キスをしても?」
「たーみなす……?」
「だめか?」
…………

逃げ道を探すように彷徨うオプティックに笑って、その目元にそっと口付ける。驚いて丸く見開かれたオプティックに、もう一度、と顔を寄せれば今度はオプティックを細めて光が落ちる。強く目を瞑って耐えるようなメガトロンに唇を重ねて触れるだけの戯れを繰り返した。

心配していたのだが、この様子ではまだ誰にも機体を許したことは無いらしい。それが嬉しくもあれば、ほんの少しばかり、スパークが軋んだ。400万年、戦い続けてきたと聞いた。その400万年の間、彼が真に頼れる相手はいなかったのだろう。右腕であった部下ですら、心の底から信じることができなくなっていたと吐露した言葉を思い出す。

再会してから、メガトロンの表情は憂いを帯びた物ばかり。メッサティーンとて楽しかった思い出など僅かも無いが、それでも、ここまで追い詰められてはいなかっただろう。
胸に抱かれた赤いバッジを指先でなぞっていく。今の時代、バッジで所属を示すと聞いた。
赤いバッジはオートボット。マトリクスに選ばれた、真のプライムに率いられる者たち。
対してメガトロンが立ち上げたディセプティコンは、紫のエンブレムを掲げていたのだと。
本来であれば、そのバッジがここに取り付けられていたはずなのだろう。似合わない赤いバッジを指先で強く擦る。

そのままゆっくりとメガトロンの機体を地面に押し倒し、重ねた唇を静かに離す。見上げてきたオプティックは驚きと戸惑いに揺れていた。

「たーみ──」
「メガトロン。……いいか?」
「え、……ぁ、それ、は……

弱々しく押し返して来る手に力は殆ど入っていない。少し抵抗するだけで簡単に退かせるだろうに。
困ったように顔を逸らすメガトロンに、肩に触れていた手を滑らせていく。白銀に浮かび上がる大小さまざまな傷を撫でながら、ゆっくりと下腹部へ。

「たーみなす……っ!」
「いやか?」
「──っ、そういう、わけじゃ……ただ、その、ここじゃ──だから、あの……戻らないと、だし、ろでぃます達が、」

焦ったようなメガトロンの声に顔を上げて問いかければ、彼はしどろもどろに何かを言おうと口を動かす。真っ赤に輝くオプティックを反射し、白い頬が赤く色づく。
嫌なら嫌だと言えばいいのに。必死に言い訳を考えては無意味な単語を絞り出す様が可愛らしくて笑ってしまう。

……ふふ。冗談だ。揶揄い過ぎたな」
「え……?」

立ち上がって笑いかければ、メガトロンは中途半端に起き上がった体勢のまま、オプティックを丸くする。戸惑うメガトロンに、今まで良く無事でいてくれたものだと苦笑が零れてくる。

「ほら、戻るのだろう?」
「あ、ああ……

手を差し出せば、何も疑わずにその手を取る。少しは警戒しても良いものだろうに。『ターミナス』が相手というだけでここまで無防備を晒すのか。

「後で、お前が書き続けた論文を読ませてもらっても?」
……構わないが、あれは俺の主観で書いている。あまり参考にはならないと思うが……
「それでいいんだ。お前が見て、感じてきた物を知りたい」
…………幻滅、するかもしれない。酷い事を、たくさんしてきたから……
「するものか。言っただろう。私はお前の正しさを知っている。お前の努力を知っている。例えお前自身がお前の成したことを否定しようとも、私はそれを肯定するよ」
…………

顔を逸らすメガトロンの頬に手を添えて、真っ直ぐに彼の揺れるオプティックを見据えて告げる。一体誰が、メガトロンを否定すると言うのだろう。彼がいなければ、彼が立ち上がらなければ、あのディストピアが完成されていたのだろう。
それに比べれば、400万年の戦争など些細なものだ。この花の数を前にして、メガトロンはこれだけ多くの同胞が犠牲になったというが、違うだろう。メガトロンが戦ってきたから、機能主義は瓦解した。それだけ多くの同胞が自由を手にしたのだ。戦うことすら許されなかった者たちが、戦う道を選ぶことができたのだから。

……そろそろ戻ろう、ターミナス」
「ああ、そうだな」

施設の方が騒がしくなってきた。何かあったのかもしれない。
ターミナスから逃げるように告げるメガトロンに、それ以上ターミナスはメガトロンに言葉を投げかけはしなかった。

ここまで一人で戦い続けてきたメガトロンに、これ以上戦いを強要することはできないだろう。
何よりも心が傷付いている。今はゆっくり休ませよう。傷が癒えたら、それでもまだ彼が自身を否定するのなら、その時は自分を肯定できるように道を示してやればいい。
焦ることはない。
彼はこうして、生きてくれていたのだから。──それだけで、今は充分すぎる。

最後にこの場に眠るラヴィッジに別れを告げるメガトロンに、確かにこの場所は不適切だったかと思い直す。

「メガトロン」
「なんだ?」
「時と場所を選べばいいんだな?」
「え、あ……

目を丸くして固まったメガトロンのオプティックが徐々に強くなり、頬が赤く染まっていく。絶句する彼を置いて歩き出せば、後ろから慌てて追いかけてくる足音が。

「ちが、ターミナスそれは……っ! さっきのはそういう意味じゃなくて、だから、その──俺はただ、あの、そうじゃなくて……っ!」
「はははっ!」

穏やかな風が吹き抜け、一面の青が揺れている。
すべて世は事もなし。
ひとひらの平穏に、今は身を任せてもいいのだろう。


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