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ラーレは尽きない

全体公開 神無三十一受け 4 15 3305文字
2025-09-10 16:53:14

カルみと 好きって言いたい話
シナリオネタバレあり

 

 「お風呂上がっ……りまし、た」
 「あぁ、おかえり」

 やけに上擦った声を上げて風呂場から顔を出した恋人が、いつもより長く風呂に浸かっていたらしい赤い顔のままリビングへと歩いてくる。
 のぼせたのではないかと心配になった縞斑がそんな神無を目で追えば、神妙な顔をした彼は無言のままちょこんと縞斑の腰掛けるソファの隣に座った。
 いつもは縞斑に早く髪を乾かせだとか、お風呂上がりのアイスはすぐに溶けるからノーカウントなのだとか賑やかに話す神無だが、今夜は口を噤んで俯いたまま動かない。

 「……?」

 はて、自分は何か神無を怒らせるようなことをしただろうか。
 無口な彼を横目に見た縞斑は、そう首を捻って己の行動を振り返る。
 冷蔵庫で大事に冷えていたプリンには、間違いなく手を出していない。しかし、他にも神無の家には至る所にお菓子が貯蔵されているため、知らず縞斑が小腹を空かせて摘んでしまうこともあった。

 「神無ちゃん、何か飲む?」

 このまま観察していても埒が開かないと考え直した縞斑は、返事の有無で機嫌を図ろうと声を掛ける。

 「え、あ、な……なに?」

 ところが神無は縞斑の予想に反して、びくりと大きく肩を揺らすと動揺した様子でおろおろと視線を彷徨わせたまま首を傾げた。
 その反応を見ておやと内心で呟いた縞斑は、そんな神無の様子に気がついていないていを装って言葉を続ける。

 「飲み物、お風呂上がりにいつも飲むでしょ?」
 「あ……あぁ、うん、のむ、牛乳のむ」

 壊れ掛けた機械仕掛けのおもちゃのようにかくかくと何度も頷いた神無は、未だ熱の冷めない赤い顔のままキッチンへと早足で向かった。
 その背中を見送った縞斑は、ひとり口元に手を当てて考える。

 「これは怒ってるというより……

 恋人としての付き合いも長くなり、神無の考えがある程度分かるようになってきた縞斑は、これまでの経験を頼りに答えを探った。

 「うわっ!?布巾布巾!」

 そうこうしている間にも、牛乳をこぼしてしまったらしい神無の慌てた声がキッチンからは響いている。
 そんな神無の動揺を正しく汲み取った縞斑は、彼がおずおずとリビングに戻ってソファに座ると同時に顔を覗き込んで口を開いた。

 「なにかあった?」

 ぎくりと肩が跳ねて、神無が僅かに後ずさる。
 ソファの背に受け止められて逃げ場のないまま困惑する神無へじっと視線を送れば、彼は露骨なほどに視線を泳がせ始めた。

 「な、なにが……
 「いや……悪いことしたあとみたいな顔してるから、何かやらかしたのかなと思って」
 「やらか……へ?!してない!それはしてない!!」

 縞斑の言葉を聞いて意外そうにぱちくりと目を瞬いた神無は、ぶんぶんと首を横に振って否定する。
 その反応を見た縞斑は勘違いを認めて頷くと、何故か安堵のため息を吐いた神無はちらりと縞斑の顔色を伺ってから口を開いた。

 「この前……ディーノと話をしたんだけどさ」
 「ディーノちゃんと?」
 「うん。そのときに、ええと……思ってることはちゃんと言わないと伝わらないなって感じて、」

 先日、神無はディーノと喧嘩をした。
 内容は些細なもので、神無がディーノに自分の思いを伝えないままでいたことにより、神無の感情を想像して動いたディーノが空回りしてしまったのだ。
 どうしてそんなことをしたのかと尋ねる過程で、神無はディーノとの対話が足りていなかったことに気がついて大いに反省したらしい。
 次の休みはディーノと二人でゆっくり過ごそうと思うと昼間に話を聞いていた縞斑は、その経緯を察して相槌を打つ。

 「……それで、その…………そういえば俺、先輩にいつも伝えてないなと思って、言おうとしたんだけど、」
 「俺に伝えてないこと?」

 ディーノとの話を通して、想いは伝えなければと強く思った神無は、縞斑に普段秘めている感情を伝えようと今日1日努力していたのだと言う。
 明るく元気に表情を変える神無から読み取れない感情は少ないが、確かに彼はこと恋愛において照れが勝って口を噤む時があった。
 納得した縞斑が神無に向き合って話を聞く姿勢を取れば、ごくりと唾を飲んだ神無が意を決した様子で口を開く。

 「えっと、その……おれ、ちゃんと先輩のこと……す、す……

 どもる神無を前に、縞斑は目を瞬いた。
 神無の伝えたい想いにある程度の察しはついたが、今日はこちらから行動を取らずに見守っていようと静観を決める。
 ところが、そんな縞斑に向けて極限まで顔を赤らめた神無が言い放った言葉は予想の斜め上を超えたものだった。

 「す……スキレットで食べたアヒージョ美味しかったよな!あの帰代先輩が宿舎で作ってくれたやつ!!」
 「……うん?」

 室内に一瞬の沈黙が訪れる。
 赤い顔のまま固まる神無を見た縞斑は、ひとまず目の前の突貫で作った話題の舟に乗っておこうと相槌を打った。

 「あぁ、うん。そういえばそんなこともあったね」
 「ね!ね!今度また行った時に作ってもら……じゃなくて!!」

 そのまま舟を漕ぎ出そうとしたところで我に帰った神無は、慌てて会話を切り上げるように声を上げると居住まいを正す。

 「えっと、俺が先輩に言いたいのは……、その……………す、」

 次こそはなるかと縞斑がじっと視線を合わせた。
 そんな彼の眼差しを受けた神無は、あまりの恥ずかしさにぐるぐると目を回したまま新しい突貫舟をこさえてしまう。

 「スキミング対策!最近物騒だから先輩もしといた方がいいと思う!!」
 「うーん、うん。検討しとくね」

 ……ーーー。

 「ゔーーーーーッ!!」

 惨敗である。ソファのクッションに顔を埋めた神無は、声にならない声で泣き声を上げながらじたばたと両足をばたつかせた。
 この期に及んで素直になれない自分に癇癪を起こす神無の一方、縞斑は彼があとどれほど『すき』から始まる単語のレパートリーを持っているのかという別の興味が湧く。
 神無の語彙が尽きるまで観察していたい気持ちもあったが、さすがにそこまで放置するのは不憫だと考えた縞斑はそっと腕を伸ばして彼の頭を撫でた。

 「せんぱい……
 「他にも伝えたいことがあるんじゃない?」

 言葉を促すように助け舟を出せば、涙目のまま顔を上げた神無が小さく鼻を啜ってこくりと頷く。

 「す……す、」
 「うん」
 「………………すき、だよ……?」

 最後は尻すぼみした蚊の鳴くような声だったが、見越して耳を澄ませていた縞斑は確かにその言葉を聞き取って微笑んだ。
 俯いた赤い顔を上げることができない神無に両手を伸ばすと、ようやく素直に言葉を口に出来た彼を労うように抱き締める。

 「うんうん、俺も好き」
 「な……なんでそんなさらっと言えるんだよ!?」
 「神無ちゃんがたくさん練習してる間に、俺も心の準備が出来たからかなー」
 「は?!練習なんかしてないし!!」

 告白される心構えを随分前からしていた縞斑だが、神無にそのつもりは一切なかったらしく、照れたようにじたばたと腕の中で彼が暴れた。
 そんな照れ屋な彼を逃さないように抱きしめて背中を軽く叩いた縞斑は、言い聞かせるように穏やかな声を掛ける。

 「心配しなくても、いつも伝わってるよ」
 「……ほんと?」
 「まぁでも、ときどき言葉にしてくれるともっと嬉しいかな」

 恋人から愛を囁かれて悪い気はしない。そう素直に伝えれば、うぅと呻いた神無がおそるおそる縞斑を抱きしめ返す。

 「……頑張る」
 「うん、楽しみにしてる」

 果たして神無が愛を告げることに慣れるのが先か、それとも彼の『すき』から始まる単語のレパートリーが尽きるのが先か。
 どちらに転んでも楽しみに変わりないと小さく笑った縞斑は、未だ腕の中で悔しげな顔をしている神無の機嫌を戻すべく風呂上がりのプリンを提案しようと口を開くのだった。



 


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