X以外のSNSでの投稿にはPrivatter+がおすすめです
Xフォロワー限定公開・リスト限定公開の停止について

イマジナリー牧がえっちなお姉さんみたいになってきて焦る台の台牧

全体公開 VWV 単発・短編 3 6 6407文字
2025-09-14 14:02:54

最終回後で途中までしっとりなのに結果的にバカの台牧。酒の勢いで寝てた過去あり。
牧師死んでますが回想で死後の分も取り戻す勢いで元気ですし台風も結果的に元気です。

Posted by @neastrig

 最初に忘れるのは声で、次に姿、最後に匂いらしい。
 ナイブズが読む本の記載に「そもそもなんで忘れるの? 」と素朴な疑問を口にして、当時はまだ比較的優しかったはずの兄に「何を言っているんだ」という顔をされたのはちょっとだけ印象的な出来事だ。
 そんな僕に、ナイブズの代わりに答えてくれたのは言うまでもなくレムだった。
「忘れることで新しいことを覚えたり今これからのことを考えたりしやすくするためよ。容量を減らして処理を軽くする感じかしら。私たちは貴方たちほどのメモリを積んでいないから必要なことね」
 その答えに、とても悲しくなった。プラントは忘れるということと縁遠い。得意ではないと言っていいだろう。今日この日を自分やナイブズが覚えていてもレムは忘れていくという事実がひどく悲しかった。
 レムはそんな自分の寂しさを知ってから知らずか「それとそうね、心を守るためかもしれない」なんて付け加えた。
「守るため? 」
「そう。素敵な思い出が強すぎると後ろばかり見てしまうし、苦しい思い出が鮮明だと歩けなくなってしまうから。きっと、前に進むために私たちは忘れるの」
 だから、ヴァッシュももしもいつか忘れても気にしちゃだめよ。
 そんな見当違いのレムの言葉に、しかし訂正するのも悔しくて膨れていたらナイブズに肘で突かれて余計にむくれてしまった。そんな記憶が、百五十と数年経過した今でも僕の頭にはしっかりと残っていて。
 レムの言葉の意味を、後ろを見ずに前を歩く辛さをこれ以上なく痛感してさえいた、そんな日々のことだった。


 ここ一年ほどで、やっとアイツの姿を思い浮かべることができるようになった。
 ずっと名前を口にするのも顔を浮かべるのも辛かったのに乗り越えたのは、多分彼のホームで見たアルバムの数々のおかげだろう。まだ幼い日の彼の写真はとても少なかったけれど、それでもなかなか背の伸びない少年がふえていく弟妹らに囲まれて笑ったり怒ったり疲れて眠ったりしている様子はきらきらとして見えた。
 そして僕と歩いたあの頃の姿は写真にはなく僕の記憶の中にしかないのだと気付いてから、僕は意識して彼を思い浮かべるようになって、最近やっと慣れてきた、といった次第だったのだ。
 気付いたら、空に語り掛けるのがレムばかりではなくアイツの名前にもなっていた。レムが守った人たちが生きている。そしてお前が連れてきた僕は今も笑ってるよ。それが寂しいけれど心底誇らしいと思えてからはかつてレムを何度も浮かべたように、アイツを何度も浮かべるようになっていた。
 多分、ここまではよかったんだ。ここまでは。そうだよな……ウルフウッド?
 そんな風に僕は今日も語り掛ける。酒場の、一人席で。そしてまた見るのだ――あれを、あの間違いとしか言えない彼の姿を、今日も見てしまうというのに、懲りずにまた心の中で声をかけてしまうのだった。

 今日は酒をちびちびと隅っこの席で舐めている。今日もまた散々だったなあと振り返るのは、地球軍と賞金首に追われた日中の出来事だ。いや、それだけならいつも通りなのだが、乱闘が飛び火していって昨晩世話になったばかりの食堂に火がついてしまったのだ。慌てて消火活動に入ろうとすれば重火器も突入してくるものだから、看板娘直々に「あなたはこっちに来ないで! 」と大きな声を出され、当然だと思いながら昨晩の礼も今この時の謝罪もそこそこに次の街までトマで全力逃走する羽目になったのである。
 不幸中の幸い、地球軍と賞金首が激突してくれたおかげで追手は撒くことができた。また、こっそり赤の他人のふりをした電話で火はボヤ程度でおさまったとも確認できたのだが、それでもまたやらかしてしまったという思いは小さい煙を上げ続けている。
 君がいたらもう少しうまくやったのかな。それとも、もっと大事になって、でも二人で分け合うから笑い話にすることもできたんだろうか。それもさすがに不謹慎かなとぼやけば、空席の喫煙者が小さく笑った。
『そう気にすることやないやろ』
 そして、声が聞こえる。まだ声は忘れていなかったと毎度安堵するこれ自体は別にいいのだ。もう慣れた。だが。
『トンガリも頑張っとんな、いい子やな~よーしよしよし』
 幻覚がにんまりと笑って頭を撫でてきたのだから、たまったものではない。誰だこれは。僕の知ってるウルフウッドじゃない。絶対にだ。アイツなら「何しけた顔しとるんじゃ」と殴ってくるところだろうに。誰なんだこれは。
 僕は今度こそ人目をはばからずわんわんと泣き始めてしまった。それにかかる声といえば「しゃーないやっちゃな、ええ子ええ子~」だ。絶対に言わないだろ、絶対にそんな優しい声出さないだろ。そんな僕の嘆きを無視した幻の親友はそれでもよしよしと頭を撫でてくる。
 僕の最近の悩みはこれだ。幻のウルフウッドが日に日に歪んでいくという問題に直面していたのだ。
 記憶にない優しさは、僕に忘却をつきつけてくる。笑顔がなんだかむずがゆく、あと、なんかちょっと夜になるとえっちなお姉さんみたいな幻覚になってくるのでこう、いただけない。
 なんてひどい悪夢だろう。君がいたら大笑いしてから怒ってくれそうなのにそんな姿はついぞ浮かんでこないのが最悪だった。
 もう一度君を失うかもしれない恐怖に僕は大泣きをする。そんな日が続いていた。

 酒場が閉まると言われ、しくしくと泣きながらすでに部屋をとっておいた宿に移動した。白い無精ひげの親父がやっている、小さな宿だ。少し傾いたそれは金欠の旅人にはありがたいもので、そういう連中の需要を知ってか一回は申し訳程度のバーとなっている、そんな安宿だった。
「おう、兄ちゃん飲んでいくか」
 部屋に戻ろうととぼとぼ入ってきた僕に声をかけたのは、やはりこの宿の主人だった。殆ど片付けられたカウンターに、しかし酒とコップが少し残っている。洗浄の甘いガラスはちょっと黄色くてあまり衛生的とは言えないが、ちょっとみじめな気分の今にはちょうどいいように思えて、僕は申し訳程度の逡巡の後に頷くとささくれた椅子に腰をおろしてしまっていた。
「なんだ、目が真っ赤じゃねえか。女にでも振られたかい」
「それならまだよかったんですけどねえ、ちょっと飲んだら昔を思い出しちゃいまして」
「昔? 」
「そ。一回友達と二人旅してた時期があったんですよ。そいつとはもう離れ離れになってたんですけど、だんだん忘れてる気がして寂しくなっちゃって。僕と同じくらい……いや背が少し高くて、男前なんですよ、そいつ」
 牧師で、でも物騒な十字架背負ってて。
 気付けば、なぞるようにあいつの特徴をあげつらっていた。覚えている、忘れていない。そう確認するように。
 低くて、タバコで擦れて、その割にはよく通る声をしていた。鷲鼻に乗せたサングラスは似合っていたけれどとても牧師には見えなくて。笑うと人より大きな犬歯が見えて、子供っぽくさえあった。怒鳴った時もその歯がよく見えて迫力があったっけ。背中はとても大きくて、荷物のために少し猫背になっていることもあったけれど、すらりと伸びた手足はバランスがよく、どうしてか様になっていた。
 あげていけば、いくらでもアイツの特徴は出てきた。ガンたこの位置だって、爪の長さだって言えそうで、だからこそ寄りにもよってあいつの言動が歪み始めている事実が悲しかった。
 思えば、ひどい絡み酒だったろう。酔っ払いの突然の思い出話、しかも知らない男の特徴リストアップが始まったのだ。突拍子もなくつまらない話に違いなかった。
 だというのに主人は気にした風もなく、宿代につけておくぞと言いながらお代わりを入れてくれるのだから付き合いのいい男だと、その時は思っていた。
 それが勘違いだと知ったのは、一通り話し終えてぴたりと黙り、それでも何杯目かのそれを飲み干したときだった。
……? 」
 金のためかさっさと黙らせるためなのか、どんどんとお代わりを足していた店主の手が止まっていたので、僕ははてと首を傾げた。さすがに飲みすぎということだろうか? ちょっとだけ冷えた頭でやっと思い至って、僕はちょっぴり縮こまってしまう。
 お水をもらおうかな。声をかけようとしたところで、店主がじっと僕の顔を見ていることにやっと気が付いて、はてと再度首を傾げた。もしかしたら、バレたのだろうか?
 だがしかし、やっと口を開けた店主の口から出てきた言葉は「兄ちゃん、もしかして何年か前にうちに泊まらなかったか? 」なんて、予想だにしないものだった。
「へ? 」
「いやあ、あんたのいう友達の牧師ってのが俺が何年か前……それこそ地球の連中が来る前とかに泊めた二人組の片方とそっくりそのまんまだったからよ。そんでよーく見ればアンタもその相方に似てるんだわ。ただそいつ、もっと金髪でそれこそつんつん頭で……
 店主は、言いながら棚の奥にある手配書の束を持ち出してきた。ゲッと声をあげて腰を浮かせれば店主はゲラゲラ笑って「やっぱりそうかい」「今更通報しねえよ」と探し物を出しもせずにカウンターに戻ってくるのだから、僕は面食らってしまった。
「いやあ、あってたならよかったよ。英雄さんでも大悪党でもいいんだけどよ、それこそ人違いなら下手なこと言えねえからさ」
「は、はは……そんなもんじゃないですよ、いやほんとに」
 もう一度座り直せば、店主はやっとお代わりを注いでくれた。口をつけてから水にしてもらい損ねたことに気が付いて、呷らずにちびちび飲む形に戻してみたりする。
「なんだ、あの牧師さんとはもう一緒じゃないのかい。仲良さそうだったし、あんたら二人の様子は面白かったからまた会いたかったんだがね。酒の席であんたらの話を出すと毎度受けてたからよ、ちと残念だな」
 ええ、本当に。そう動こうとしたはずの口は震えて動かず、代わりにまた一口酒を舐めた。
――そうか、ここは君と泊った宿の一つか。
 言われてみれば、記憶の奥底にあった。あの日は今日と違って前の街でもめることはなかったけれど、そもそも賞金首に気が付いた君がすぐにバイクを出してくれたんだっけ。そして日も殆ど沈んでから辿り着いたのがこの宿で、ああ、飲んだのって今日の酒場と同じだったかな。記憶を飛ばすほど飲んで、二人して部屋で目を覚ましたのはうっすら覚えている。
――……そういや、何度か明らかに一線超えてそうだった夜の一つだったよな。忘れようなんて言葉もそのうち面倒になって言わなくなった頃だ。
 酒が入って記憶もなく同じ部屋、全裸で目を覚ました。忘れようとかなかったことにしようなんて話がでたのは最初に二、三回までで、何度か続いてからは「は~朝だ朝だ」なんて言いながらお互い確認すらしなくなっていた。僕もこればかりは覚えていなくて、ただそれをよかったと思っている。
――でも、覚えていたかったな、今になってみると。
 こういうことが積み重なって忘却していくのだろう。酔った記憶と同じように、泊まった宿が君と泊ったそれだと気付かないで旅立っていく。そのうちこうして他に覚えている人が教えてくれることもなくなって、過去になっていくのだ。
 寂しいね。
 グラスに移った黒髪に微笑んでみた。レムでもウルフウッドでもない男はいい年をして泣きそうな顔で笑っているから二人から怒られそうである。
「いやあ、本当仲良かったよな~! 」
 ずるりと肩から力が抜けた。そうだ、この店主がいたのだった。空想の世界に旅立ちかけていた酔っ払いは、思い出を共有できる男に申し訳なさ半分で笑顔を向けた。向けてから、あれと思う。
 店主の顔が、にやにやとなんというか、妙な顔をしているのだ。
「いやね、俺もさぁ、あんたともう一回会えると思わなかったから結構言いふらしちまったの悪いとは思ってるんだよ。だから酒のお代わり分はおごりでもいいんだけど、その分詳しく聞いてみてえと思っててよ」

 夜、随分盛り上がってよしよしプレイしてたの、あれあんたの趣味であってる?

……へ」
 何か、こう。今度こそ幻聴が聞こえた気がする。なんて? 僕は頬をひくひくとさせながら店主に問うた。ナンノハナシデスカ。心当たりがないとアピールしてみた。
 だが、店主も酒が入っているらしい。隠さなくていいからよ! とゲラゲラと笑っている。
「いやあ、うち壁が薄いからよー! カップルとかは断ってんだ! でもあんたらまさかあれだけ激しくヤりだすとは思わなくてなあ! 不幸中の幸い、あの日の客はあんたらだけだったからオレくらいしか聞いてねえけどよ! 」
 あ、やっぱりヤってたの!? センチメンタルに思い浮かべていた過ちの可能性を結構がっつり確定にされてしまった僕は、だがしかしそれ以上に衝撃的な先の言葉をプラントらしく忘れることができず。
「いや、その、はい、そうかも。いやそれよりさっきのよしよしなんとかってほうが気になってるっていうか」
 改めて聞き返すという愚行をおかしてしまったのが、全ての始まりで終わりだった。
「あ!? そりゃおめえさあ! あの物騒な兄ちゃんがよぉ! えっちなお姉ちゃんみたいな声でヨシヨシ~ってしてる声だよぉ! オレの部屋隣だしあの兄ちゃん声潜めてねえから聞こえちまってなごめんな! がはは! でもがんばれがんばれって息子に応援してもらうのはいい趣味してるぜさすがに人間台風って思ったもんで、いやあ、あれは眠れなくても面白さで釣りがくるってもんでよお! 」
……………………………はい? 」
 僕はなんだかこう、心当たりがあるフレーズが続いて真っ白になった。かちんこちんだ。だが、親父さんは楽しくなってきたのか、先ほど僕が丁寧にあいつを思い浮かべたのと同じくらい丁寧に、その晩の様子を語ってくれる。

『よしよし、トンガリはえらいなあ、はいおっき、おっき』
『なんや乳好きやなおどれ~、ええでええで、よーしよしよし』
『犬か赤ん坊かわからんな、いやこれだけ元気な息子おるんは犬か? だはははは』

 聞けば聞くほど、記憶の奥底から蘇ってくるのは酒とともに忘れたはずのあいつのこう、えっちな様子だった。なんかそう、僕がレムレム言ってるのを揶揄されたのが最初で、酔った僕が甘えたいんだと駄々をこねたのが始まりだった、ような気がする。やだ、なんで忘れてたんだろう僕、いやそれよりなんで思い出してしまったんだ、僕。
「お、その様子じゃあんたの趣味か! まあ牧師もノリノリだったし、あんたら相性よかったんだなあ! 」
 いやあ、改めて勿体ないな。親父の声に、そうですねと頷きかけて僕はその勢いのまま突っ伏した。そして五秒して跳ねるように起き上がり、くるりと踵を返す。
「なんだ? 酒まわったか。夜風あたってくるか? オレはもう片付けちまうから、水飲みたかったら部屋で飲んでくれや」
 なんとか頷いて、それが限界だった。僕は勢いよく宿を飛び出していた。
「ああああああ!!!! う、う、う、ウルフウッドのバカやろ~~~!!! 」
 大きな声を出しながら走った。街の家のいくつかに灯りがつき「うるせえ! 」と各所から怒鳴られた。僕だけ。僕だけが恥ずかしい思いをして、めちゃくちゃに怒られた夜だった。
 あいつは怒鳴ってくれなかったが、なんだか記憶の向こうで「よーしよしよし」とにやついていたので、面白くなかった。

 僕は忘却が苦手である。そして今日ほど忘却という機能を欲した夜はなかったが、勿論ついぞ忘れることはなく、何なら時々思い出してはベッドを転がる羽目になることを、この時の僕はまだ知らなかった。



投稿にいいねする


© 2026 Privatter All Rights Reserved.