吸死世界の吸血鬼達は、尻にグッと力を込めると、姿が鏡に映る…という設定を知って以来、どういう時なら映るのかなぁ、と考えていました。と、同時に夜の者と結ばれる運命を選んだ者達は、鏡に自分しか映らない事について、何か思うものがあるのでは…とも考えていました。
シーン1は、つき合って間がない本編の時間軸で、意外な瞬間にドラルクさんが写る事に気づいたヒナイチくんの視点から書いております。94展で、ヒナイチくんの前では恰好をつけたがる的なコメントがあったそうなので、ちょっと絡ませてみました。
シーン2以降は、近々うまく書けたら追加でアップします。そこからは、ログイン限定になる予定です。
@kw42431393
「ああ、よかった。このドラドラちゃんの目に狂いはない。血珊瑚の紅も、白い肌に映えて素晴らしい。おっと、このブローチも…と。」
「すまないな。今度女子会に着る、服選びにつき合って貰って。」
「とんでもない。私こそ、いつも手伝わせて貰って光栄だとも。ヒナイチくんったら、何でも似合っちゃうんだもの。選び甲斐があるというものだ。」
「ちん…そ、そう人前で誉めるな。恥ずかしいぞ。」
試着室から出て、改めて鏡の中に映った自分を見る。そこには、恥ずかしそうに頬を染めた自分だけが映っている。隣にいる夜の眷属である彼は、鏡には映らないからだ。
「…。」
ドラルクが付けてくれた、竜鱗を象ったブローチを撫でる。彼が選んでくれたワンピースは、少し襟ぐりが開き過ぎている気もするが…自他共に認めるうなじ好きな吸血鬼だ。
彼らにとって、食欲をそそる部位であり…その、性的に魅力を感じる場所としては、非常にポピュラーな性癖だと聞く。
お互い想いを打ち明け合い、心を寄せ合った間柄とはいえ、私は吸血鬼対策課に身を置く者だ。薄手のショールとかカーディガンを羽織った方がいいかもしれない。
「フフ、相変わらずお堅いねえ?勿論、そちらも見繕わせて頂くとも。それを、見ていいのは…。」
不穏を滲ませた声に、隣に立つお前を見上げる。 時折、私を怯えさせ、魅了してやまない捕食者としてのドラルクが、私を見下ろしていた。
「…私だけ、だもの。そうだろう?」
「うん…。」
再び、視線を鏡に戻す。鏡を見る度、映ってるのが自分だけだと実感する度、切ない想いがこみ上げてくる様になったのは、いつからだろう。
一緒にいて楽しい、一緒にいたい、永遠に一緒だ…そう言った言葉に、嘘はない。
嘘はないが、鏡に並んで立つ度に…どう足掻いても私達は違う世界の住人なのだと、突き付けられる様に感じるのだ。
「そういう所は、変わらな…んっ!?」
急に肩を抱く、枯れ木の様な手に力が籠った様に感じられた。そして…
「ちょっ…ひ、ひほまへで…!」
顎にヒヤリとした感触がしたと同時に、長い舌が咥内に侵入してくる。さほど、回数は重ねていないが、頭がジン…と痺れる様な感覚に流されそうになる。
でも、ここは人前なんだ。独占欲の強い吸血鬼にとっては、また別の考えがあるのかもしれないが、私達にとっては違うんだ。だから、ちゃんと言わなくては。
「ぷはっ…こら!ドラルク、おま…えっ!?」
「アハハ、ゴメンゴメン。なんか、シリアスな顔してるんだもの。揶揄いたくなっちゃって…。」
困った様に笑いながら、改めて、彼は私を引き寄せる。軽く睨み上げると、誤魔化す様に額に口づけを落として来た。
「…で、なんだって?」
「え…いや、その。」
続く言葉は、口から出てこなかった。
微かなリップ音を聞きながら、私の目は、彼の後ろの鏡から目が離せない。
本来、私しか映らないはずの鏡。
そのはずなのに、今、目の前でうっすらと細長い影が、映っているのだ。
「あぁ…消えてしまった。」
「うん?さっきから、何かいるのかね?」
もっと言うと、それより前からだ。
ドラルクが私の顎に手をかけて、力強いディープキスをしてきた時…
「なあ、ドラルク。」
「どうしたの、お嬢さん?もしかして、嫌だった?」
…くっきりと、鏡に彼が写っていたのだ。
ドラルクは芋虫以下のクソ雑魚ではあるが、208年も生きて来た古めの吸血鬼でもある。怖くて聞けていないが、それまでの長い年月の間に、様々な女性とつき合ってきたのではないか…少なくとも、私はそう思っていた。
「ううん。嫌じゃない…失礼かもしれないが、さっき緊張してたのか?そ、その…キス、した時。」
これまでが、餌付けし甲斐のあるハムスター扱いだったのだ。ハムスター相手に、緊張などするとは思えない。
でも、思い上がりかもしれないが…そうしてくれたのなら嬉しいとも思う。
今まで、私はずっと緊張して目を閉じていたから、気づかなかっただけなのか?
これまでも、彼は私とキスをしている間…
「フフフ。な~んだ、バレちゃったか。」
返ってきた言葉は、意外なものだった。
照れ臭そうに笑った顔は、とても私の10倍以上生きている吸血鬼とは思えないほど、可愛らしかった。
「そうだよ、緊張しない訳ないじゃないか。だって、ヒナイチくんだもの。出会った時から、欲しいなって思ってたレディだもの。いつだって、自信なんかなかったよ。」
「ちん。そ、そうだったのか。気づいてやらなくて、すまない。」
「全然!それにしても、隠せてると思ってたのにな~。残念だな~。」
ふざけてみせる彼の胸に、耳を当てる。その表情とは裏腹に、その虚弱な心の臓はドキドキと早鐘を打つような音を立てていて、とても嬉しかった。そして、それまで抱えていたモノ達が、霧の様に晴れていくのを感じていた。
「安心した。やっぱり、私達は一緒なんだ。」
苦手だった鏡に、こっそりと視線を戻す。ボンヤリと再び、細長い影が浮かび上がってきていたのだ。そして…
「一緒だよ。だから、ずっとこの中で安心しておくれ。」
「ああ。」
腰に回された手に、力が籠る。
鏡の中には抱き合った私達の姿が、くっきりと浮かび上がっていた。