続きもので書いている、人魚姫ドラヒナのお話です。この話(焼き尽くされた、氷の心 https://privatter.net/p/11535541)から、少し経ったお話です。無事に契約を完遂し、魔女を生き返らせて、想い人と新婚生活と療養生活を満喫するヒナイチ姫。近づいてきた繁殖期に気づき、旅立つ前に、ある儀式を行います。
3P目のリンクから、追加した初夜シーンに飛べます。18歳未満の方は、4Pから続きをどうぞ。
2024/04/26 に上げました。
@kw42431393
海と陸が繋がって、3週間が経った。
一気に両世界の者達が動くと、受け入れ側も大変だが、まだまだ帰郷目的の者達が優先だ。
さほど問題を起こす事はないし、お互い歓迎モードになっている。
さっき、少しだけサンゴ礁に顔を見せてきたが、城下町は未だにお祭り騒ぎだ。シンヨコ王国もそうだという。
『おい、ヒナイチ。魔女殿…もとい義弟殿は、どうだ?』
義弟…違和感があるな。ドラルクの方が、ずっと年上だし。まぁ、元々老け顔だし。
「ん、だいぶ体力も回復してきたみたいだ。先週、私の肉の効果が切れて心臓が止まったけど…数時間で目覚めたから。たぶん、あと1週間は元気だと思うぞ。」
普通の人魚達の肉で、魔女が健康でいられたのは24時間。私の肉で、2週間か。
私の肉でも、お前の病気を治す事は出来ない。死ぬ直前に不老不死の薬を飲ませて生き返らせたから、効果が切れると、ドラルクは突然苦しみだして、その場で死んでしまう。
数時間後目覚める頃には、デスリセットされて何でもなく笑っている…でも、見ている側は辛いな。
『ここで眠ったら、二度と目覚めないかもしれない…と子供の頃から怯えていたのだよ。今は必ず目覚めるって分かっているし、傍に貴女がいるから怖くはない。気にしないで。ねえ、そんな顔をしないでおくれ。』
私達の望みは、元々同じものだった。その上、契約までちゃんと結んで今がある。その笑顔は嘘じゃない。でも、やっぱりいつだって元気でいて欲しい。
だから生き返らせたら、すぐにでも、ロナルド王子達と蓬莱島へ飛んで行きたかったんだけどな。
でも、まだドラルクのお父上達…竜子公夫妻から連絡が来ていないんだ。
『いつの間にか、蓬莱島周辺の潮の流れが変わっているんですよ。』
そう、サンズが言っていたんだ。サンズは、かつて母国で疫病が流行った時に、船で精鋭部隊を連れて上陸している。ドラルクの治療薬を作るにあたって、彼女は再び下見に行ってくれていたらしい。
『サンズちゃん達は、ドラルクに埋め込まれたパスポートのおかげで、少々の嵐でも問題ねーぐらい泳げます。でも、あれはさすがにサンズちゃん達…いや、お前でも厳しいかもしれません。』
潮の流れ…いくら強大な魔力を持つ魔女でも、それを変えるのは難しいだろう。でも…
『お父上、数年前から冬眠中の竜大公様を起こしてくれ。』
ドラルクを救う事を条件に、私が竜子公夫妻と契約を結んだのは、そういう事だったんだ。勿論、両世界の交流を反対している者達を説得して貰う為に、彼のカリスマに期待していたからなんだけど。
一番の目的は…彼の力で潮の流れを変えて貰う為だ。
「焦る必要はないだろう。丁度、待ち時間と思えばいい。今日あたり、お前も時期だな。それも含めて、ちゃんと休んでおけ。」
「うん。ありがとう、兄さん。」
そう言って、故郷を後にする。そうだな…考えようによっては。
不老不死の薬を作る為に、左手を切断した私にも、思ったよりダメージがあったんだ。あの事件の後、しばらく寝込んでいたから、パトロールもこっちの仕事も休ませて貰っていたんだよな。
それに一人と一匹を置いていくには、魔女は寝たきりだった頃のダメージが尾を引いていて、心配だったんだ。
やっと少し、骸骨みたいになっていた頬も、丸みを帯びてきた気がする。
だから、そろそろいいかな…
そっと、自分のお腹に手を当てる。人魚達にもよるが、私の血筋は卵生だ。卵胎生の者もいるし、胎生の者もいる。強めに押すと、柔らかい感触がする。それに、なんだか心が浮ついている…大好きなあいつの元に早く飛んで帰りたいぐらいだ。
長命種である私達は繁殖能力が低く、次の繁殖期までの周期も長い。ここを逃すと、次は数十年後になるかもしれない。
私だって、親友と子育ての相談とか、子供達を連れて遊びに行ったりしたいじゃないか。
「タコとは、繁殖方法がちょっと違うからな。サンズに貰った燕の子安貝があるから、受精は問題ないけど。大丈夫かな…魔女。」
本棚からサンズに借りた閨房術の本を取り出すと、私はドラルクが待っている別宅に戻る。
そういえば、魔女にこの本を見せると、いつも困った様に苦笑いをするな。どうしてだろう。
「おかえりなさい、お姫様。」
「ヌヌヌリヌイ!」
「ただいま!魔女、ジョン。」
兄と交わした契約を果たした私達は、晴れてれっきとした夫婦になったんだ。なのに、癖かな。
ついつい、今でもドラルクは「ヒナイチ姫」「お姫様」と呼ぶし、私もつい「魔女」と呼んでしまう。
『呼びやすい言い方でいいよ。変わらないもの、私達は。』
そう言ってくれるけど、その内『貴方』って呼んだりするのかな。何だかくすぐったい気がする。
「いい匂いだな。今日のおやつは、何だ?」
「はいはい。勿論、用意しておりますよ。こちらにおいで。」
変わらないヌねえ。ヒナイチ姫は。
やっと、この時間が帰ってきたんだ。ロナルド王子達は、兄のヒヨシ王から領地を分けて貰って、サンズと慣れない領地経営に、次の希望者達の抽選や世話に、忙しいらしい。
だから、彼らがいないのは少し寂しいけど…落ち着いたら、またここでお茶会だって出来るはずだ。
「おいしい、おいしい。」
「ヌイヌ―、ヌイヌ―。」
ジョンと並んで、魔女が並べてくれたクッキーを頬張る。元気になったドラルクが作ってくれたクッキーは、今日も、そして、永遠においしい。永遠に焼いてくれるって、契約したんだから。
「それはよかった、晩御飯も期待してて?」
「うん!」
晩御飯か、今日は何だろうな。タカアシガニがウニを持ってきてくれていたっけ…ウニは今が卵を持っていて旬…そういえば、言い忘れる所だった。
「なぁ、魔女。」
「どうしたの?ヒナイチ姫。」
骨ばった、赤いマニキュアで彩られた手を取って、頬ずりする。
サンズには、「お前達には、デリカシーってもんが…」と言われるが、仕方ないだろう?
目の前にいるのは、お互い命を賭けても欲しいと願った相手で、そうすると契約した相手だ。
頬ずりした後、その手に口づけをする。一本一本、私が大好きな指を、音を立てて口に含む。
ドラルク達にも察しがついたのだろう。いつの間にか、隣でクッキーを頬張っていたジョンがいなくなっていたのだから。
「魔女ドラルク。そろそろ、お前と交わした契約を果たしたい。体は、大丈夫か?」
「そうだね。今朝、目覚めのお茶を持って行った時から、貴女はずっとソワソワしていたもの。」
シュルリ、と紫の触手がこちらに伸びる。
私もその足を握り返すと、いつもどおり、8本の足は優しく肩や腰に巻き付いて、ローブの中に招き入れてくれる。
…やっぱり、まだちゃんと回復してないな。
元々ガリガリだけど、頬を胸に押し付けると、浮いたあばら骨の感触が痛々しかった。
「でも、お姫様こそ大丈夫かね?私達、体の作りが違うから。」
どちらも同じことを考えているんだな。でも、今日だって決めたんだ。
いつ来てもいいように、この数日間、二人共飲み物に混ぜて、燕の子安貝を服用している。
魔女の体が治ってからにするべきなんだろうけど、そうすると間に合わないもの。
「私は、大丈夫だ。それじゃあ、始めるぞ。」
私はこけた頬に両手を添えて、口づけようとした…が、その唇は魔女の人差し指に抑えられる。
あれ?何かおかしい所があったかな?
「ここではちょっと…お部屋に行こう?本当は、私だってずっとこうしたかった事だから…ちゃんとしたムードも必要だよ?」
そうか…うっかりしていたな。魔女に手を取られて、寝室へ向かう。
二人で並んで、大きなアコヤ貝のベッドに腰かけて…
「ふ…っ。」
魔女の長い舌が入ってくる。とても優しくて、頭が痺れる様なこの感覚。
その間も、8本の足は私を大事に撫でてくれる。
私には腕が2本しかないけど、少しでもその感覚を返したくて…普段は丸められている1本の足に触れる。
そっと、解いて指の腹で撫でて…
「あ!?ちょ、ちょっ!!」
あれ?どうしたんだろう?
交接腕はこの足で合ってるし…人間と違って、触っちゃ駄目だったのかな?
そう思って、魔女を見上げる。驚いているみたいだけど、頬が紅潮して、うっとりして…嫌そうには見えない。続けていいよな…たぶん。
「はむっ…んっく。」
「ま、待って待って!!そこから、いい出汁とか出な…っ!!あう!!」
サンズに借りた本を真似て、口に含む。弾力のある感触を舌で楽しむ。
これでいいのかは分からないけど、ロナルド王子は彼女にこうされると、喜ぶらしい。
何より、魔女のその声を、もっと私が聞きたいんだ。あと、割と美味しい気がする。
「あむっ…ふっ。」
「ひ、ヒナイチ姫!む、無理!!精莢が出ちゃう!!ごめん!離すよ!?」
魔女の必死な声に、私も交接腕を口から離す。イカの精莢は口内で刺さるから危ないけど、タコも駄目だったのだろうか。
「はぁ…はぁ…もう!また、あの本の真似をして!」
「すまん…もしかして。気持ちよくなかった?」
上目遣いで見上げる。元々武芸一辺倒だった私は、こういう知識は皆無だった。
もしかして、タコにとってタブーなのかな?
「そんな訳ないでしょ…はぁ。本当に貴女って子は。そんなに興味あるの?」
覗き込んでくれる顔は、とても優しかった。よかった、ダメじゃなかったらしい。
だから、私は例の本をおずおずと差し出した。
興味はある…ぞ。サンズから色々聞いているし…お前にしてやりたいなって、思ってるから。
「サンズがな。この前、これをロナルド王子とやったって、言ってたんだ。私達も出来るのかな?」
困った様に、笑いながらページを捲る魔女に、私はそのイラストを指さした。
どんなイラストかって?どうと言われても、実は私にもよく分からない。
「聞いてみたら、サンズが顔を真っ赤にして飛び回ってたんだ。どうかな?」
「ん、ん〝ん〝…り、陸と違って浮力が働くから…なんとか。がんば…頑張れば、たぶん。」
難しそうな顔をしているな。
病み上がりだし、無理しなくていいんだぞ?
「い、いや…大丈夫!何回、心臓が止まっても平気だし!私もその…。」
そこでお前は言いよどむ。首を傾げて、フードの中を覗き込む。照れたような顔で、魔女はこう言った。
「こ、こんな体だからね…お嫁さんも子供も諦めていた所があるのだよ。だから…その。技術は期待しないで欲しい。で、でも!私も貴女に満足して欲しいし…子供だってほ、欲しいもの。だから、心配しないで。」
頑張ってみるから…そういうお前が可愛くて、私は改めて、その薄い唇に口づけをした。
こちらから追加した、二人の初夜シーンに飛べます → 旅立つ前に…幕間(人魚姫ドラヒナの初夜シーン https://privatter.net/p/11748563)
18歳未満の方は、そのまま4Pから続きをお楽しみください。
「よう。ドラルク、ヒナイチ。具合どうだ?」
「出産祝いという程のものではないですが、手土産のイチゴです。ヒナイチの好物なの、知ってるですよ。」
それから数週間経った頃、ようやく両国の行き来も落ち着いてきた頃…いつの間にか4月に入っていたのだ。
ロナルド王子達が遊びに来てくれたのは、すっかり春となってからの事となる。
海と陸を繋げる計画の時は、しょっちゅう来てくれていたし、私達も陸に来ていたから、なんだか、懐かしい気がするものだ。
私達もあれから…うん。まあ、うまくいったとも。伊達に長生きはしてないからね。
知識はあるから、ヒナイチ姫をちゃんとリード出来たとも…ヒナイチ姫が激しく私を求めてくれるものだから、3回ぐらい死んでも悔いはなかっ…。
いや…ものの例えだとも。ジョンまで、そんな目をしないでおくれ。
「うん!もう大丈夫だぞ。なぁ、1個だけ摘まんでいいか?」
「…全部、食べそうですね。」
ジト目のサンズが、イチゴを私にに渡してくる。この流れる様な、二人のやり取りは、見ていてとても気持ちがいいものだ。それは、ロナルド王子も同じらしい。
「さすがっスね。俺もしそうだなぁ、と思ったもんな。」
ヌフフ、さすが親友ヌね。分かってるヌよ。
「う~、ロナルド王子だけじゃなく、ジョンまで酷いぞ。」
揶揄われてむくれた、可愛い人魚姫の頭を撫でようとして…いや、いつまでも子供扱いしてはいけないかな。
だって、貴女は立派な一人前の魔女で、何より…そう思って、頬にキスをした。
「クスクス…そんな顔をしないで。早速、イチゴタルトにしようかね。残りは、イチゴジャムにしてもいいし。」
もっと美味しくしてあげるから…そう言うと、彼女は弱いのだ。
「うー、魔女が言うなら…。」
「変わらないですね。ところで、ヒナイチ。卵は順調に育っていますか?」
「おかげさまでな!そろそろ、大丈夫だと思うんだが。なあ、聞いてくれ。魔女ったら、心配性でな…」
女性二人が、クッキーとお茶を飲みながら、女子トークに花を咲かせているのを見ながら、私はイチゴを持ってキッチンに向かう。
イチゴは、サンズ姫が言う様に彼女の大好物だ。さらに、命の恩人である友人夫妻も来ているのだ。
腕の振るい甲斐があるというものだ。
「…なぁ。ドラルク。」
いつの間にか、ついて来ていたロナルド王子が、声を潜めてついてくる。
いや、まぁ。男同士だから、言いたい事は、分かっているよ。
「先を越されるのは、悔しいけどよ。ヒナイチの事情があるもんな。おめでとうよ。」
頬をポリポリと掻きながら、ロナルド王子がそう言ってくれる。
本当に、あの時生き返ってよかったと思う。
やるだけやったから、契約さえ完遂すれば悔いはない…そう言ったけど、もっと素敵な事が待っていたのだから。
「ありがとう。君達には、本当に感謝している。そういえば、さっきヒナイチ姫もサンズ姫に言ってたけど…そうだね、少しだけなら。」
そうヌね。きっと、この子達が孵化したら、ロナルド王子達の事を『おじ様』『おば様』って呼ぶのかもしれないヌから。
そう言って、私は閉じていたローブの前を寛げる。
君達にこそ、まず見て貰いたい。この未来を迎えられたのは、君達のおかげだから。
「こりゃあ…あれか。ほら、その。あー、あれだ。お前のじいさんは、竜だもんな。」
懐から下げた袋を開けて、ロナルド王子の方に向ける。
まだ、何も姿は見えないけれども…こんなに阿漕な生き方をしてきた私でも、そう思えるのだね。
とてもとても愛おしい。
「タツノオトシゴの育児嚢を真似て、作ってみたのだよ。見てやってくれるかね。あ、でも握りつぶしてはいけないよ?」
「うるせえ、ゴリラ扱いすんな。どれどれ…」
そう言って、彼は袋の中を覗き込む。真っ直ぐな視線がゆっくり袋の中を一巡した後、彼は晴れやかな笑顔でこう言ってくれた。
「…ありがとよ、見せてくれて。それにしても…本当によく頑張ったな、ヒナイチ。」
ロナルド王子もそう思うヌしょ?皆、とても可愛いヌ。ヌンも早く会いたいヌ。
そう言って、ロナルド王子とジョンが覗き込んだ袋の中。
その中で、私達の願いの結晶が…5つの卵が光っていた。