@tirichann
「ごめんね」
最後に会った時、カートはそう言って私に触れた。もう私に触れられなくなるかのような触り方だった。その時抱いた予感の通り、カートは私の前から姿を消した。噂で軍に入ったと聞いた。
大抵の場合、軍に入るのはサイボーグ化が目的だ。軍に入れば安い費用でサイボーグになれる。軍に入りたくて入る人はあまりいない。カートは、サイボーグになるのだ。「ごめんね」と言ったカートの顔を思い出した。それが金属アレルギーの私への、最後の挨拶だったのだろう。
それから数年が経った。大抵の人がサイボーグ化を完了して軍から出てくる頃合いだ。私はカートが近くで働いているという噂を聞いて、カートに会いに行った。カートはやはりサイボーグとなった姿で私を見て、それからすぐに目をそらした。私達が触れ合うことは、もうできなかった。
「飲めば?」
それでもカートの元に通い続け、カートを諦めずにいた時、話しかけてきたのはカートの方だった。差し出された缶ジュースを開けるのに手間取っていると、カートが開けてくれる。その際に力のあまり缶に穴を開けて、「まだ慣れないんだよなこの体」と言っていた。
私はジュースを飲んだ。一気に飲み干した。それから、「またここで会ってくれますか」と聞いた。
「別にいいけど」
「けど」の続きは、触れ合えないというような言葉だったのだろう。私はカートの了承を得て週に数度カートとベンチで話している。これが付き合っていると言うのか、言えるのかわからない。でも私はカートが好きで、多分カートも私が好きで、触れ合うことだけができなかった。触れ合いたいという気持ちにならないためにわざと会話を盛り上げないようにしているみたいだった。もしかして、カートを見つけ出さずにあの時きっぱりと別れた方がよかったのかと思うこともある。でもそんなことは、神様しかわからないだろう。
私はまたジュースを飲んだ。今度はカートが缶を壊すことなく、きちんと開けてくれた。カートがサイボーグの体に馴染んでいる証拠だった。私はそのことを、少し寂しく思った。