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何れ来たる終わりまで

全体公開 神無三十一受け 3 42 2153文字
2025-09-16 16:53:55

カルみと 先に死にたい話
シナリオネタバレあり

 

 叶うことなら、君より先に死にたいな。

 ぱちりと、微睡んでいたはずの目の前の瞳が驚いたように丸く開かれて瞬く。
 そんな神無の反応を目の当たりにした縞斑は、ふと頭の片隅で思った独り言のような本音が口をついて出てしまったことに気がついた。
 じっと言葉の真意を探るような紫水晶の純粋な瞳に捉われたことが気まずくて、縞斑はその場の空気を散らすようにへらりと小さく笑う。

 「って……言ったら怒る?」
 「……頭ごなしには怒らないけど、理由次第では?」

 複雑そうに眉を寄せている神無だが、彼だってもう人の話を聞かないまま怒るような子供じゃない。縞斑なりに思うことがあるなら、それを聞いた上で判断するべきだという思いを言外に伝えれば、彼は大袈裟に眉を下げて見せた。

 「うーん、言うの勇気いるなぁ」
 「言わないなら言葉そのままの意味として受け取って怒るけど」
 「はは、そう言われると可能性に賭けるしかないね」

 縞斑がそのまま逃げてしまわないように、上手く退路を封じた神無は得意げな笑みを浮かべる。
 誰に似たのだろうかなんてちらりと視線を上げれば、サイドテーブルの鏡には苦笑いを浮かべた自分の顔が映っていた。
 二人並んだベッドの中、逃さないと言うようにぎゅうと縞斑に抱きつく神無の頭を撫でた彼は、出来る限り誠実に言葉を選んで話し始める。

 「そんなに難しい話じゃないよ。ただ、取り残されるのはいやだなって思っただけ」
 「取り残される……

 神無と過ごす時間は、何物にも変えられない幸せだ。そう思えるのはきっと、この時間にいつか終わりが来ることを知っているからである。
 神無が居なくなった世界を想像をした縞斑は、言葉では説明のしようがないほどの恐怖を覚えたのだ。
 ひとりは寂しくてたまらない。幸せな時間の中で消えてしまえたらどれほど幸せだろうか。
 十年近く相棒とその妹を探し続けた孤独の時間は、縞斑のことを随分臆病にしていた。

 「……けど、それは君も同じだ」

 神無だって、家族を失う孤独を知っている。
 縞斑が相棒を失ってぽっかりと胸に空いた穴を神無で埋めないように、神無もまた失った家族の空間を縞斑で埋めようとはしなかった。
 神無は大切な人を失う苦痛も、その後の孤独も、それが誰かに代わることはない事実も知っている。 
 「俺は、自分が苦痛に思うことを分かっていながら君に押し付けようとしてる。勝手だなと思ってね」
 「……先輩ったら、難しく考えすぎ」

 自分の恐れている恐怖を避けるために呟いた独り言は、神無を同じ恐怖に突き落とす身勝手な行為だ。
 そう眉を寄せる縞斑を見上げた神無は、ふっと笑うと仕方のない子供を宥めるようにそっと頬を寄せる。
 柔らかな温もりに触れて僅かに眉の皺が和らいだ縞斑と視線を合わせると、神無は言い聞かせるような声色でゆっくりと言葉を続けた。

 「そんな心配しなくても、先輩は俺より13も年上なんだよ?一緒におじいちゃんになったら順当に先輩を見送った後に俺なんじゃない?」
 「それは…………そうだけど、」

 神無の言葉を聞いた縞斑は、鱗が落ちた様子でぱちりと大きく目を瞬く。
 彼の語る未来の話は途方もなくて、縞斑が想像すらしていなかった優しい世界の話だった。

 「……天寿を全うするなんて、考えてもなかった」
 「あはは。そりゃあ人生何が起こるか分かんないけど、普通は銃撃戦で死ぬかもって思う人の方が少ないと思うなぁ」
 
 二人の仕事は時に、銃弾の飛び交う危険な現場を走り回ることがある。
 明日生きているという保証すらないこの仕事を長く続ける縞斑には、歳をとって穏やかに息を引き取る自分の姿が想像もできなかった。
 一方神無はそうではないらしく、未だイメージができずに首を捻る縞斑を見上げて微笑んだ彼が頬にキスをする。
 幸せそうに蕩けたアメジストの瞳には、そんな未来を信じて疑わない希望の光が輝いていた。
 
 「『先に死にたい』じゃなくてさ『一緒に長生きしようね』でいいじゃん」
 「…………、」
 「一緒におじいちゃんになって、先に待っててよ。俺もきっとすぐ行くだろうから、そしたらディーノとアサギリが来るまでのんびり待とう?」

 名案だと言うように首を傾げて見せる神無を見つめていた縞斑は、両手を伸ばしてぎゅうと強く抱きしめる。

 「俺、神無ちゃんのそういうところ好きだよ」
 「へへへ、俺も先輩のそういうとこかわいくて好き」
 「うーん……可愛いって言われるのは少し複雑だな……

 きゃっきゃと無邪気に腕の中ではしゃぐ神無へ、縞斑はこの胸の奥に湧き上がる愛おしさが少しでも伝わるようにキスをして微笑んだ。
 窓の外に穏やかな光を湛えた満月が昇り、今日も夜が更けていく。
 繰り返す毎日が儚いものだと分かっていながら、明日も続くと信じてしまう矛盾した感情を抱えて、縞斑は困ったように笑った。

 どうかこの先も、変わらない平和な日が続きますように。
 そう心の内で願いを込めて、縞斑はそっと目を閉じる。腕の中で得意げに背を撫でる神無を抱き寄せて、彼は微睡みに意識を溶かすことにしたのだ。




 


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