@tirichann
「付き合って。賢者様を最悪な気分にさせたいから」
そう言ったオーエンによって、私達の付き合いは始まった。キスもセックスもしていないし、本当に付き合っていると言っていいのかはわからない。けれどオーエンは、私に優しくなったように思えた。私を見る目もどこか特別な気がする。
ある日よろめいた私の両肩を押さえるオーエンは、紳士そのものだった。
「ありがとうございます、オーエン。もういいですよ」
そう言ってもオーエンは離さない。私が段々意識しているのを見透かしたように、意地悪な笑みを浮かべた。
「本気で僕のこと好きになった後に思いっきり突き放してあげる」
私はオーエンが「最悪な気分にさせる」と言っていたことを思い出した。私の肩を解放するオーエンの手の離し方は、「突き放す」と言うほど乱暴なものではなかった。今は優しいこの触れ方が、いつか荒々しいものになるのだろう。でも、と私は考える。
「オーエンが突き放さなくても私達はいつか別れるのではないでしょうか? 私は異世界人ですし……」
私は突然この世界へやってきた人間だ。いつ元の世界へ戻るかわからない。オーエンと付き合って、オーエンが突き放す前に私の方がオーエンを突き放してしまう可能性がある。
オーエンは興がそがれたとでも言うように目を細めた。
「何でそういうこと言うの?」
「もういい」と言ってどこかへ行ってしまう。意地悪ができないと知ってつまらなくなったのか、本気で私と付き合いたかったのかはわからない。多分前者なのだろう。だが一時でもオーエンが私に優しくしてくれたことは、私の中のオーエンの印象を変えた。オーエンはもう私を最悪の気分にさせる計画をしていないけれど、その通りになったらどうしようと思った。