@xxxyueyunxxx
ひらり、ひらりと空を紅葉の葉が舞っていた。
その鮮やかな赤は、空の青によく映えている。
紅葉の葉はやがて地面に落ちて、道路を赤色に染めていた。――秋ならではの光景だ。
綺麗な葉は、次々と落ちてくる。地面に落ちたあとの紅葉よりも、落ちる前のものの方が断然良い感じだ――地面に落ちる前の紅葉の葉が欲しくなった朝恵は、ひらひらと落ちてくる葉に、手を伸ばした。
あと一歩で紅葉の葉に手が届く、と思ったところで朝恵の小さな手は宙をかく。狙っていた紅葉の葉は、地面に落ちてしまった。
「はっぱ、おちちゃった……」
しょげていたのは一瞬だけ。紅葉の葉はまだたくさんある。次々と落ちてくる葉に、何度も朝恵は手を伸ばし続けた――
落ちゆく葉は、なかなかに手強い存在だった。どれもこれも、あと一歩というところで取れないのだ。結構長い時間頑張っていたが、朝恵の取れた葉は一枚も無かった。
「どうしても、二まいほしいのに……でもあとちょっとだけ、がんばろうかな」
再び朝恵は紅葉の葉に手を伸ばし始める。夢中になっていたから、その様子を見ている者がいるのには、全然気付かなかった。
「――何をさっきから頑張っているんだ、朝恵ちゃん?」
「おにいちゃん!」
声をかけられた方を振り向くと、そこには背の高いすらりとした男が立っていた。朝恵が世界で一番かっこよくて優しいと思っている男、真雅だ。ウェーブした黒髪と、黄色の瞳が今日も綺麗だった。
「あのね、おにいちゃん。わたし、もみじのはっぱがほしかったの」
「紅葉の葉、か? ……ここに落ちているのではいけないのか?」
「おちているのよりも、おちるまえの方がきれいでしょ?」
「なるほどな。それは一理ある。――だからさっきから、朝恵ちゃんは懸命に手を伸ばしていたのか」
――どうやら真雅は、少し前から朝恵の様子を見ていたようである。
「そうなの。わたし、ほしいからがんばるの」
「そうか。――よし、俺様もやってみるか」
朝恵と並んで立った真雅が、その大きな手を紅葉の方に伸ばす。何枚かの葉はすり抜けて落ちていったが、一枚の赤い葉が手の中に残った。
「――こんな感じだな」
「すごい、おにいちゃん! 一回でとれちゃうなんて」
「俺様は、朝恵ちゃんより手が大きいからな。――ほら、これを朝恵ちゃんにあげよう」
「いいの、おにいちゃん?」
「勿論だとも。これは朝恵ちゃんにあげるために取ったんだからな」
真雅が朝恵の手に紅葉の葉をのせてくれた。それは小さくて可愛い、赤い葉だった。
「おし花にしたら、ずっとおいておけるかな」
「出来るかも知れないな。また調べてみると良い」
「わたし、また本をしらべてみるね」
朝恵の分の紅葉は真雅が取ってくれた。出来れば、もう一枚――これは何とか、自分の手で。
「おにいちゃん。このはっぱ、もっていてくれる?」
「それは構わないが、どうしたんだ?」
「もう一まい、ほしいの」
朝恵は真雅に紅葉の葉を預けると、また手を空へと伸ばす。――あと一歩だから。あと少しだから、きっと取れる――!
「とれた……!」
ついに一枚の葉を、朝恵はその小さな手の中に掴むことに成功した。少し大ぶりで、鮮やかな赤が目にも美しい葉だ。
「お、取れたな。良かったな、朝恵ちゃん」
「うん。わたし、どうしてももう一まいほしかったから。――はい、おにいちゃん。これ、あげる」
「――こいつを、俺様にか?」
真雅がその鋭い瞳を僅かに丸くしている。朝恵は真雅の手を揺らすと、取ったばかりの葉を渡した。
「わたしの分と、おにいちゃんの分をとろうと思ってたの。だから、これはおにいちゃんのね」
「これは、良いものを貰ってしまったな。――ありがとう、朝恵ちゃん」
紅葉の葉を、真雅は空にかざして見つめている。その横顔は、いつも以上に穏やかに思えた。
「さて、朝恵ちゃんも疲れただろう。ずっとここで頑張っていたからな。――俺様と一緒におやつにしないか?」
「いいの、おにいちゃん?」
「ああ。今日は栗まんじゅうを人にいただいてな。朝恵ちゃんが一緒に食べてくれたら、俺様は嬉しいぞ」
「おにいちゃんのお店の、じゃまにはならない?」
「それは大丈夫だ。今日は店を休みにしているからな」
「じゃあわたし、おじゃまします」
真雅がその大きな手を差し出してくれる。
ふたりは手を繋ぐと、秋晴れの道をゆっくりと歩いていったのであった。