@tirichann
「えっ!? 俺にくれないの!?」
出来上がったぬいぐるみを見て、古森は大きな声を上げた。というのも、古森は名前が毎晩夜なべしてぬいぐるみを自作しているのを知っていたからだ。古森自身も、そのぬいぐるみの完成を楽しみにしてきた。名前は明らかに古森を想ってぬいぐるみを作っていたし、当然古森が貰えるものと思っていた。しかし、名前はぬいぐるみを大事そうに抱えたままだ。
「そうだよ。これは自分用だから」
「でも俺のぬいぐるみだよね」
ぬいぐるみには特徴的な眉や前髪の分け目も再現されている。これを別の誰かと言い訳するのは無理がある。古森がぬいぐるみを指させば、名前は当然のように頷く。
「うん。手作りの」
手作りで古森を模したぬいぐるみを作るくらい、古森のことが好きなのである。じゃあちょうだいよ、と言いそうになったのを察したのか、名前は古森からぬいぐるみを隠すようにした。
「私も推し活するために苦労して作ったんだから、そんなに欲しいなら自分で作って」
自分で自分のぬいぐるみを作るなど変な話だ。それに、学生時代のマネージャーの御守りしかり手作りには憧れがある。好きな人、恋人となれば尚更だ。
「何に使うわけ」
「家に飾ったり、一緒に出かけたり……」
聞けば聞くほど、古森自身の役目を奪われている気がする。古森は自分のぬいぐるみに彼女を寝取られるのではないか。そんな不安すら生じる。
「本物の俺でよくない?」
「ダメなの!」
名前はぬいぐるみを抱きしめた。ファンの子がぬいぐるみを持っているのは知っていたが、何も恋人の名前までぬいぐるみに頼ることはないだろう。自作してくれるのは嬉しいけれど、何とも複雑な気持ちである。ぬいぐるみに魂が宿っていると言うならぬいぐるみの前でセックスをして見せつけてやろうか、とすら考える古森は、性格が悪いのかもしれない。