この間思いついてからなんか書きたいけど人選ぶな・・・と思ってた話。エロはないです。
同棲編は気が向いたら書きます。原稿の気分転換なのでかなり短め
@neastrig
長いようで短く思える旅の果て、僕は「もし生まれ変わるなら人間がいいな」と思っていた。
プラントとして生まれたことを後悔していないし、よかったと思っている。だから、次があるなら今度はあの賑やかな人間たちと同じ生き物として生きてみたいという好奇心に過ぎなかった。
ただ、欲を言えば、知った人たちとまた会いたいとも思っていた。できるなら平和な時代、平和な国がいい。少し追われるくらいはいいし、銃だって嫌いじゃない。だけど人が死ぬ日が少ないような場所で今まで歩いてきたいろんな人々のなるべく多くと笑い合いたい。
可能であれば、君とまた、今度こそ明日を生きたい。
並べてみると欲張りで、薄れる意識の中で大笑いできないことが惜しく思えた。それほどおかしかったのだ。幸せだったのだ。穏やかに欲深く次を夢見ることができる最期だなんて、僕にはどれほど贅沢なものだろう。
思えば、多分ここで欲をかきすぎたのがいけなかったのかもしれない。
僕は、想像の埒外から襲い来るような最悪の再会をする羽目になったのだから。
僕の知る地球よりもう数百年後、色々あって地球人類の生活文明はそこそこの後退をしたらしい。
宇宙の技術やワープなどの機械文明はプラント含めて発展を保っていたがそれはそれ。日常生活までその水準に達していた人類は長い時間をかけて特に享楽的で特に不健康で、しかしそこそこ身体という資本を使う時代にまで生活レベルをさげていった。
具体的にいうと、発展しすぎて人間の衰えが加速し、これはまずいぞと運動を再開する中年のごとく人類は宇宙に飛び出し始めた少し後くらいまで文明を巻き戻したのである。
僕が生まれ育ったのはそんな時代のジャポン。大昔に聞いたレムの故郷だ。
そこそこ、並より少し裕福な家庭で生まれ育った僕は前世の記憶なんぞを引き継いでしまっていたが、その頃にはそういう人間が多かったせいで元プラントだとかもバレずに済み、普通に育てられ、学校に通い、友人を作り、気が付けば大学生となっていた。
そして、まだ数ヶ月ほど酒は買えないが色々と制限がなくなる十九の春、僕は大学二年生になった。この日はそんな季節の、なんということのない夜のことだった。
「悪ィ、ヴァッシュ。先にこれ返してくるよ」
「私も、会員証更新してくる」
「わかった、僕も借りたい映画ないか探してるから終わったら声かけて」
同じサークルの友人たちとの飲み会――残念ながら僕はまだソフトドリンクの――の後のことだ。アパートを借りている僕は、同じ方向の友人たちといわゆるレンタルビデオショップに来ていた。
レンタルビデオショップは近年流行り出した「古代レトロブーム」から生まれたショップである。
手間をかけることをよしとするこの時代、古い文化が再興することが多かったが、これもその一つだ。あえて物理データを貸し借りし、パッケージを開けてセットするところから楽しむというワビサビが売りの特殊な形式を持つ。これが若者に大ウケして五年でブームを越えて定着し、今では僕らの生活に染みついた存在となっている、それがレンタルビデオショップというものだった。
「でも、さすがに久しぶりだなあ。大学受験の間は怒られるから借りることもできなかったし」
ディスクがおさまっているらしいケースをひとつひとつ見ながら歩く。これ昔借りたな、面白かった。こっちはデータで楽しんでからパッケージも借りたっけ。あ、小さいころこれ見たら泣き止むんだって何度かアレックスが言ってたやつだ。
パッケージングされたとはいえ、名作はデータで楽しんだものも多い。懐かしい思い出をなぞっていると、後ろからドンと体重がぶつかるように乗っかった。
「よう、ヴァッシュ! お前またつまらなさそうなコーナーばっかり見てるな」
「トム、いきなりぶつかるなよ。だいたいつまらなくなんかないだろ? この忍者シリーズとかお前好きだって言ってなかったっけ」
「おいおい、そりゃ最高に決まってるだろ? でもよ、そういうのはデータで持ってるんだって。それよりさ、俺らもう十八を越して十九、今年は二十歳になるんだし? お前もいい加減レンタルショップの真のメリットってやつをそろそろ味わった方がいいんじゃないかって思うんだけどよ」
どうだい。ぐいぐいと押してくるトムはハイスクールからの友人だ。そして言いたいことは概ねわかるので「どうしようかな」なんてぼやきながら僕はトムが見るカーテンに視線を向ける。
十八歳未満の方はご遠慮ください。
カーテンにそんな文字がプリントされているその空間は、僕ら若者にとってのドリームランドだ。そう、つまりはエロビデオコーナーなわけでして、僕も記憶がどんなにジジイだろうと身体が盛り時なので興味がないわけもなく。
どうしようかな。もう一度呟きつつ、悲しいかな、僕も若者だ。欲望に忠実に僕はトムとかに歩きでそのコーナーに向かってしまい。
死ぬほど後悔する羽目になったのである。
「わーお……なんだか景色が一気にピンクになったね」
「ライトが暗かったり色ついてるわけじゃねえんだけどな、やっぱりAVこそパッケージであるべし。レンタルショップの醍醐味だって先輩の話はマジだったって俺も最初に入った時は感動したもんだぜ、なんなら今も感激してる」
僕は深々と頷きながら、しかしいざ目の前にすると恥ずかしくなってしまって薄目で各コーナーを見る。聞けばトムはすでに先輩に借りて見たことがあるらしい。しかも狙っている女優がいるとか言う話で、そのくせ名前で探しながら「いやこの女優もいいな」と浮気をしている、そんなムラついた若者丸出しの状態だった。
だが、僕もなかなか情けないものだ。そんな貸し借りに澄まして参加してこなかった僕は教えてよともいえず、結局チラッチラ視線をやって「あ、かわいい」「ちょっとえげつないのはやだな」などと半端な選び方をする、そんな情けない姿をただ晒していた。
「お、あった! 」
トムが嬉しそうに手を伸ばしたのは、Nのコーナーだ。Nか。どんなお名前の女優さんだろうか。ナディアとか? ニーナとかも可愛らしい。でもノーラなんてどうだろう、きっと包容力のある素敵な女性に違いない。
夢想を勝手に広げていた僕は、どれどれとトムが手に取ったパッケージを見て。
「いやあ、よかった! ニコラスの拷問シスターシリーズ、俺もう一回見たかったんだよ! 」
「は? 」
固まった。
「お、ヴァッシュ。お前も見るか? 今一番熱いセクシー女優、ニコラス・D・ウルフウッド! 先輩曰く一昔前の清楚系、スレンダー系、かわいい系の時代をこの一年で塗り替えた歴史の転換点って話でな! いや最高なんだよ」
話が入ってこない。なに? 今一番熱いセクシー女優の名前が、なんだって? パッケージがなんかすごい勢いで誤字してるなびっくりしたーって思ってたら僕の耳まで悪くなったみたいなんだけど。ちょっとやめてよ。まだ写真を直視できずにタイトルとその後ろに映るケツしか見てないのに。ちょっと今びっくりしてさ、視線も動かせないんだから。
動揺のまま、僕はなんだかとても懐かしい名前がふられたケツをじっとりと眺めつつ、トムに再度問いかけてみることにした。
「……え、ニコ? なに? 」
失敗した。さすがにこう、違うだろという思いからちょっとよくわからない問いかけになった。
これを勘違いしてくれたらしいトムは「ああ、ちょっとびっくりしたな」と笑顔で肩を叩きながら「ニコラスは男性名なんだけど、そういう芸名なんだよ。でもこれがまたしっくりきてさ」とあろうことかその待望のパッケージを僕に握らせてくる。
「ひえ」
「お前うぶなふりやめろよなあ、意外ときついのいけるっぽいの知ってるんだからな。ほら、これちょうど先輩に借りたシリーズの一本目なんだけどさ」
「えっと、そ、ひえ」
「いやあ、タッパがでかい、胸もデカい、胸を支える肩もでかい、ってのに腰がきゅっとしまってんの最高だよな。デビューして一年ものすごい速さで新作出してるんだが、この拷問シスターシリーズは特にそれが映えててさあ」
なに? なんで? 僕はなんでもいいから再度問いかけたかったが、熱く早口で語るトムの声を止めることができず「ひえ」と再度声を出しながら、今度こそそのパッケージをガン見してしまっていた。
パッケージには、とても知った顔がそれはそれは楽しそうににんまり笑って、シスター服で男の上にまたがってカメラに振り向いている。なんかあれ、こういうエッチなのでシスターって言っちゃいけないんじゃなかった? なんだっけ。なんていうんだっけ。
僕は現実逃避のあまりそういう無駄な知識に脳のメモリを割きながら、それでもパッケージをじっくり見て、裏返して、読んで、見て、もう一度裏返した。なんかずっと知った顔が修道服っぽい姿で知らない男にオラついている。
「ご、拷問ってこのシスターが、する側なんだ……」
それ今僕が聞くことじゃなくない? 僕の心の叫びは、だがしかし僕を止めてくれないし、トムのことはもっと止めてくれない。
そうなんだよ、わかってくれるか。語りだすトムはにこやかに僕にシリーズの他のディスクや、果ては別の彼(彼女? )の出演作を握らせてくる。
「なんつうかな、ギャップも勿論あるんだけど、それでも基本はニコラス優位なんだよ。楽しそうに翻弄されるのがたまらなくてよ……あ、ディスクにはレンタル用のコードもついててな、VRバージョンも見れるようになってるんだけどあれは飛ぶぜ? 騎乗位が個人的には最高なんだが」
トムは言いながらさらに乗せてきたのは「暗殺者ニコラス・ザ・パニッシャーの〇んこパニッシング」とかいう最悪のタイトルにぴっちりスーツのあいつが決め顔してる(でもなんか乳首までシルエットわかるのが嫌)パッケージに、ナースもの、学生ものなど多種多様で、僕は情報の洪水でおぼれ死にそうだった。
そもそもさっきデビュー一年って言ってなかった? なんでAVで生き急いでいるんだコイツ。お金に困ってるの? それならめちゃくちゃ悲しいんだけど、なんか全部楽しそうなので判断に困る。
思考が少し冷えたことでやっと息継ぎができた。タイミングがいいのか悪いのか、ちょうどよく今借りられるものを乗せ終わったらしい。トムはご機嫌な顔を見せて手を止めた。悪気なんてどこにもなかった。
「で、どれにする? 」
どれって、とりあえずニコラスって連呼するのやめてくれない? 喉まで来ていたその言葉をぐっと飲み込んだ。彼に罪はない。この友人のためになけなしの理性を総動員させた僕は。
「………借りてきます、全部」
ぐっと歯を食いしばりながら、もうこちらに使う理性が枯れていたのでまっすぐレンタル受付へと直進することになったのだった。
さて、それから一年後。
「トンガリ、トンガリ! これ! 前に現場で分けてもろたコンドーム出てきた、めっちゃ光るんおもろいやつ! な、な、今度使わんか? 」
「だからぁ! AV女優時代の話僕にふるのやめてって言ってるじゃん! 」
がっぽり稼いでご機嫌の友達と再会、酔った勢いからの同棲をして今に至るのだが、これはまた別のお話。