@tirichann
「ちぇー、雨かー」
放課後空を見上げる菊丸の横顔は不満げだ。窓の外には大粒の雨が降っており、とてもではないが屋外スポーツはできない。いつも私を苦しめるフットワークや、何百回と続く素振りもできないだろう。
「ラッキーって思わないの?」
内練もしんどいが、外でやる日に比べたら時間も短く済む。女子テニス部に所属する私は、雨が降ったら楽できるくらいに思っていた。けれど菊丸は、不思議そうな表情をしている。全国を目指して部活に励んでいる菊丸と、私の練習の感覚が同じはずないのだ。
「ごめん、菊丸は真剣に部活やってるんだよね」
急に恥ずかしくなって下を向いた。いつも練習に身を入れず、男子の誰が格好いいという話ばかりで盛り上がっているのが馬鹿みたいだ。菊丸を前にしたら、私はとてつもなく小さな人間である気がする。
菊丸は首を振り、その視線を空から私へ向けた。
「ううん。今日だけはラッキーかも」
菊丸が指さしたのは置き傘置き場だ。ほとんどの人が傘を持って部活に向かってしまっていて、残っているものは少ない。それこそ私と、部活仲間の傘くらいだ。多分菊丸は自分の傘を持っていない。
菊丸の言う「ラッキー」の意味がわかって、私は唇をかみしめた。菊丸は部活が終わったら、私と一緒に帰る気だ。私だって、部活に手を抜くことはあってもサボりはしない。
「苗字なら傘入れてくれるよねっ!」
私は曖昧に頷くことしかできなかった。菊丸には悪いけど、ずっと雨が降ればいいと思う。