◼︎《鶴と椿〜金打の誓い》https://privatter.net/p/11330710が前提。
◼︎他のありし日、鶴丸国永の刀剣指南https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=25634649や白鞘https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=25674074、大倶利伽羅編https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=25488847あたりとも薄ら繋がってる。
◼︎この時、加州と主との間にあった出来事は《加州清光〜オーダーメイドの愛〜》https://youtu.be/BS5uoDlyF5E?si=aXEOhWnkUIn21dtl にて。
@fu_re_re_ra
金色に花咲く
ありし日、錵の話〜赤椿、開花前線より〜
「沸?? ってなぁに?」
「名刀に現れる砂金の如く美しい鋼の微粒子のことさ。光に当てると綺羅星のように煌めく」
不思議そうに首を傾げる主人へ、鶴丸国永は自らの美しい刀身をかざしながらこう教えた。
「水を沸かした様に似ていることからそう呼ばれるが、金に花と書いて錵とも呼ぶなあ。金色に花咲く。つまり美しく輝くという意味だ」
「美しく輝く…」
「ああ。まさに刃文の美しさを象徴する、上作の証だな。たとえば鶴丸国永は小粒の錵が厚くついてる」
「あっ、このキラキラのこと!?」
「その通り。これがよく出ていると『錵が強い』とか『錵よくつく』と呼ぶぜ」
金砂を撒いた星空のように輝き、まばゆい。
きらり、と光にかざしたその刀身は、透き通る夜空ように美しく冴えて煌めいている。
「剣が時に『鋼で出来た人工の宝石』と称えられるように、刀それぞれにこうして二つとない美しい輝きが浮き上がる。線状に現れた錵が金筋と砂流しだな」
「どう違うの?」
「金筋はうねるように揺らめく。より直線的に流れるのが砂流しだ」
「ゆらゆら揺れるのが金筋、ほうき星みたくまっすぐめが砂流し?」
「その認識で合ってるぜ。一方、より低温で焼き入れられて細かに霧状に現れるものは匂と呼ぶ」
「きらきらの霧……天の河?」
「きみは綺麗な喩えを使うなぁ。そうだぜ、刃に現れたものが刃錵で、地鉄に現れると地錵と名が変わる」
鶴丸は主と横並びにぴたりと座って、自身の刀身を少しだけ鞘から抜いた状態で見せながらそう教えた。
万に一にも彼女に怪我をさせることがないよう、刃先を上外に向けながら、慎重に光源に掲げて煌めかせる。
「金筋はオレにもあるが、そうだな、物吉貞宗のものを見せてもらうといい。脇差の彼は狭い範囲に金筋と砂流しと小沸と地沸が美しく同居しているから、見比べてみるにはもってこいだろう。きっと快く見せてくれると思うぜ」
「うん、後でお願いしてみる!」
嬉しげに笑う彼女に、鶴丸は軽やかにウィンクしてみせた。
「どうだい? 刀の見分け方はだいぶわかったんじゃないか? ま、基礎中の基礎に限るがな」
「うん、みんなが少しずつ教えてくれたから、ここに来た時よりうんとわかるようになった! 最初は『わっ、きれいだな〜!』ってことしか分からなかったから。ありがとう鶴るん、もっと勉強がんばるね」
「まっ、気長にやればいいさ。先は長いんだ、あんまり焦ると疲れるぜ?」
「うん、ありがとう心配してくれて。でも、頑張りたいから。少しでも多くみんなのこと知って、早く仲良くなれたら嬉しい」
「充分さ。たとえ刀そのものにまるで関心が無くても審神者は最低限務まるし、その中で刀をもっと知ろうって心づもりがあるだけで、こっちも士気が違うしな。焦らずのんびり身につけていけばいいさ。先は長いんだからな」
「うん、ゆっくりがんばるね!」
「そら、そろそろ刀装の出来を見てやる時間じゃなかったか? 亀甲がお待ちかねだと思うぜ」
「あっ、ほんとだ、もうこんな時間! ありがと鶴るん、行ってくるね!」
パッと立ち上がった彼女は、にこっと無邪気に、たんぽぽの蕾が綻び咲くように笑った。
「あのね、鶴るん」
「うん?」
「綺麗な刀を見せてくれてありがとう、嬉しかった」
「礼には及ばんさ。第一、これはきみのものだ。いつでも好きな時に好きなだけ眺めるといい」
「でも、嬉しかったから。だからお礼言いたかったの。ありがとう」
そう言って彼女は、本当に心から嬉しげに笑った。
手を振りながら、たたた、と作装部屋へと走っていった主を見送って、パチン、と刀を鞘に納めた鶴丸は、膝を立てて立ち上がった。
振り返ると、渡り廊下の柱の向こうで加州清光が、書類束を抱えて、こちらに物言いたげな目を向けている。
「ん? なんだ、急ぎのやつは終わったと思ったが、まだ残ってたか?」
「いや、今日はこれで全部だけど。ずいぶん変わったもんだな、と思ってただけ」
「はは、自分でも驚いてる」
白銀漆の太刀を両肩に渡すように担いだ鶴丸国永が、投げ出した片足を交差するようにしながら、軽やかに苦笑した。
「あの時期のオレを知ってるのは初期刀殿だけだしなあ。まあ何を言われても文句言えん自覚はあるぜ」
「別に…そんなんじゃないけど」
ぷいっと視線を逸らした加州は、そのまま書類束を抱えて内務室へと歩き去っていった。
この本丸にまだ初期刀と初鍛刀しか居なかった頃、加州には、刀のことを教えるという名目で主に刃を向けて試した姿を見られている。
その頃に比べれば、そりゃあ別刃と言われてもおかしくない振る舞いをしている自覚はある。
未熟だったのは彼女じゃない。達観したつもりで穿った見方しかできなかったオレの方だ。
「さて、そろそろ貞坊が遠征から帰ってくる頃だな。光坊は厨で手が離せんし、もうちょい人手が欲しいところだが、資材がなあ。彼女、狙った刀をぴたりと鍛刀できるのは助かるんだが、一度に使う資材量も驚きの豪快さなんだよなあ」
とと、とこんのすけが駆け込んできて、加州清光の名を呼んでキョロキョロした。
鶴丸は人の良さそうな笑みを浮かべながら、驚きを求めてこんのすけを手招いた。
「近侍ならついさっき通ったぜ。入れ違いだったな。ところで、そりゃ何の知らせだい?」
「催し物です」
「ああ、この時期の催し物っていうと、確か……」
こんのすけが咥えた書類を近侍の代わりに受け取って、鶴丸は口角を吊り上げた。
「渡りに船だな。大阪城か」
「第一部隊隊長、加州清光」
「任せて」
「隊員、物吉貞宗、亀甲貞宗、燭台切光忠、太鼓鐘貞宗、鶴丸国永」
「お任せください、あるじさま!」
「ご主人様の命令とあらば」
「かっこよく決めたいよね」
「派手に決めようぜ!」
「驚きの結果をきみにもたらそう!」
最後に、殿に置かれた鶴丸国永がくるりと舞うように一礼してそう笑った後、「ふむ」と思案するように顎を擦った。
「さて、できれば早い段階で博多藤四郎を迎え入れることができればいいが」
「博多、とーしろ??」
「う〜ん、なんて言ったら良いかな。小判が大好きで商売根性たくましい短刀だよ」
不思議そうに首を傾げた主に、清光がそう補足した。
「大阪城はあいつの独壇場だからなあ」
「彼がいてくれると小判の収穫量が増えるからね」
「やっぱ大阪城ときたら、あいつの力借りたいとこだよな〜」
口々にそう話す刀剣男士たちの言を聞き、主はふんふんとよく頷いた後、小首を傾げて加州を見上げ、こう訊ねた。
「その刀が来てくれたら、かしゅーたち嬉しい?」
「そうだね、大阪城への道は定期的に開門されるし、やっぱ博多は居てほしいよね」
「そっか!」
にぱぁっと主は笑った。
「じゃあわたし、いっぱい気合い入れてがんばるね!」
「? うん、そうだね?」
清光は曖昧に相槌を打った。
さて、審神者は進軍する方角を決める時、賽子を振るのが決まりだ。
これは方角の吉凶を占うもの。いわば神による方違えの概念だ。
神としての性質を持つ彼らのため、刀剣男士の進軍は、こうして特殊な賽子で吉方向を占いながら行うことになっている。
「あのね、南がきらきらしてるよ。だから、南に行ってほしくて」
「きらきら???」
第一部隊の隊長である加州清光は、主からの通信を受けて困惑した。
「えっと、ごめん主、どういう意味? それに、大阪城での方角決めは、賽子が必要で」
「賽子は多分大丈夫。嫌な感じがしないから。ちょっと待ってね」
賽子を振るう音がして、出た目が共有される。
目は見事に『午』、つまり南だった。
「探し物がそっちにあると思う。とてもきらきらしてるから」
「きらきらって…?」
「んーと、これはね、銀の砂を撒いたみたいな……あっ、そう、地錵! 鶴るんが教えてくれた、地錵みたいな感じ! もしかして、綺麗な地錵がついた刀が、そこにいるんじゃないかなぁ」
博多藤四郎は、確かに銀の地錵のよくついた、地鉄の美しい刀だった。
主人の言を疑うわけではないが、半信半疑で清光は進軍した。
そうして、進んだ先。初回、大阪城10階にて。
加州清光率いる第一部隊は、見事に一発で彼を見つけた。
「俺の名前は博多藤四郎! 博多で見出された博多の藤四郎たい。短刀ばってん、男らしか!」
「……ほんとに居た」
加州は思わずそう呟いた。殿から鶴丸が飛び出して目を輝かせると「おお! こりゃ驚きだな! 幸先良いじゃないか!」と笑った。
結果として、この大阪城では、太鼓鐘と入れ替わりに博多をそのまま部隊に迎え入れ、練度の低い彼を護りながら慎重に50階層まで進軍することとなる。
たった一日の収穫は、目を疑うほどおびただしい量の小判と、博多、後藤、信濃、包丁、毛利藤四郎の参入だった。
博多は10階、後藤は20階、信濃は30階、包丁は40階、そして毛利が50階で初回ドロップしている。
こうして、あふれんばかりの小判を抱えて帰還した加州清光は、額に手をやって『待った』をしながら、難しい顔をした。
「ごめん、ちょっと理解が追いつかない。あれ、大阪城ってこんな感じだっけ、いくら博多がいたって、たった一回でこんなに小判出るものだっけ???」
「ひたすら無限に千両箱、千両箱、千両箱、千両箱でしたね…」
「というか、こんな狙ったみたいに博多くんたちが順繰りドロップするなんて……」
「ちょっと見ない間に大阪城の仕様変わった?」
「いや、そういう知らせはないはずだけど……でも……」
「ははは! こいつぁ驚いたな! どういう絡繰だ? まったく、彼女といると飽きんな!」
隊長として成果を主へ報告した清光は、最終的に訝しげにこう訊ねた。
「ねえあるじ、何かした?」
「えっとね! みんなが嬉しいように、いっぱい気合い入れたよ!」
「気合いかぁ……うん、そっかぁ…?」
この本丸では、たびたびこういったことが多発した。
今思い返せば、あの時点でもっと深く考えておくべきだった。
そう清光たちは振り返る。
「不思議なあれこれを、何でもかんでも『幸運』で括りすぎてた」
「ああ。物吉まで簡単に引き寄せるような幸運な加護持ちの主だからって、先入観を持ち過ぎてたな」
故に刀剣男士たちは、段々と感覚が麻痺していったのだ。
政府の山姥切長義に指摘されるまで、無邪気な主人を『異能』という目で見たことがなかった。
主の能力は、蓋を開けてみれば、刀剣男士たちにも縁の先を辿らせないような、どこかの古き神の強力な寵愛の上に成り立つ、キリシタン式の祈りと祝福と守護が多層に重なったその強固な繭の奥、巧妙に厳重に二重三重に隠された──事象改竄能力だった、と山姥切長義からは告げられている。
それを刀剣男士たちの縁と守護が、過剰に押し上げてしまっていると。
膨大な金色の霊力の流れを祈りに乗せて、善意と幸運で方向性を指針し、触れたものを清めて理想的な状態へ改ざんする。
そうしてノイズを取り去った事象をじっくりと覗き見て、良き気を放つものを手繰り寄せ、選び取って手に掴む。
彼女の場合は触れる周囲に作用しているが、これがもし自分自身に向いていれば、神下ろしに最適な肉体を作り上げる、まさに巫女や神子の素質だ。
彼女はそれを無意識に触れたものに分け与え続け、刀剣男士という神を下ろすに相応しい場を作り上げていると。
道理で、方違えの賽子が望む方向を指すわけだった。
彼女が『誰かのため』という引き金で祈った方角が清められるのだから、賽子が清められた方角を方位磁石のように指すのは当然だ。
そう、彼女が賽子を操っているのではない、賽子の方が勝手に彼女の望む方角に吸い寄せられていたのだ。
キリシタンの祈りを中心に二重三重に加護が織り上げられた多重加護者。多層に重なった祝福のせいで、ただでさえ斜を通したように彼女の力は読みづらい。
自分たちとは力の流れも大きく異なり、キリシタンの加護とはここまで太っ腹なものかと一様に思い込んでいたが、山姥切長義が言うには「そんなに都合が良いものなら政府が一律に矯正して取り除くはずがないだろう」とのことだった。
そうして、明らかに過度に順調に進みすぎていたこの本丸の気風は、自然と刀剣男士側にも安堵と慢心を呼び寄せていて。
ほどなくして、最初の大きな戦試練が訪れることになる。
検非違使の襲来だった。
明らかに慮外の襲撃だった。軍師役として付いた鶴丸国永に導かれながら慎重に指揮を取っていた彼女は、彼から教わった通りに、一つの時代での滞在時間も回数も正確に記録し、検非違使の襲撃を正しく避けながら行軍していたはずだった。
検非違使が湧くほど長く滞在していないはずの、その時代に。
なんの前触れもなく検非違使は沸いた。
後の山姥切長義の調査によれば、これも歴史修正主義者の息のかかった前任の仕業だったらしい。
本来、先行する刀剣男士の痕跡を一度確実に排してからでなければ、同じ時代に同じ任務で二つの異なる本丸の部隊は配属されない。
しかし、その時その時代に、実は意図的に二重に部隊が配属されていたそうだ。
そうして、検非違使にすら臆さぬほどのベテラン本丸の部隊の気配が呼び寄せた、最高レベルの検非違使に。
あろうことか、新人の彼女の部隊だけで、襲撃を許してしまったのだった。
この時、被害は甚大。
短刀、太鼓鐘貞宗、および信濃藤四郎は重傷で意識喪失、戦線崩壊。
第一部隊隊長、加州清光は、意識の無い短刀の破壊を防ぐために重ねて重傷を負い、本丸に唯一与えられた御守りを発動。石切丸は脚を致命的に負傷し行動不能。物吉貞宗は重傷一歩手前。
殿を務める燭台切光忠だけが中傷の状態だった。
この時、彼女と鶴丸国永から出た緊急命令は、二手に分かれた撤退。
最も傷が浅い燭台切が可能な限り仲間を背負って逃走。機動で勝る物吉貞宗が検非違使を引き付ける指示が出た。
時は既に帰還予定だった夕暮れ時を超え、夜戦にもつれ込んでいる。
この時、陽が落ちると同時に脚を負傷した石切丸まで全て抱えて撤退可能な膂力を持つのは中傷の燭台切光忠だけ。
物吉の役目は、他の五振りの素早い撤退と引き換え。御守りはもう無い。
つまりこの危機、折れる危険が最も高いのは、間違いなく物吉貞宗だった。
全員で撤退するのはもはや不可能だ。
彼女の指示は、犠牲を最小限に抑えるべきもの。その役目ができるのは自分しかいない、と。
物吉は迷わなかった。
意識があって夜戦に向いているのは自分だけ。折れる危険が最も高い死地に向かうのは、幸運に愛された自分の役目だと、物吉は主人の指示と同時に瞬時に理解したのだ。
深手を抱えた今の状態で、自分だけで検非違使を撒き切れるか分からない。
それができなければ自分はここで折れるだろう。それでも、せめて残りの五振りが撤退する時間だけは絶対に稼いでみせると。
すぐさま決意した物吉貞宗の、出鼻を挫いたのは。
今すぐ逃げるべきはずの燭台切光忠だった。
「────……嫌だ」
「え」
ふら、と光忠は前に出た。
無謀にも刀を構えた光忠に、検非違使の殺気が集中する。物吉は血相を変えた。
「燭台切さん…!?」
「は、……っ……はぁっ……!」
呼吸がおかしい。
燭台切はまるで、主の指示が耳に入っていないかのようだった。
意識の無い短刀二振りと初期刀を連れ、石切丸を抱えて撤退。そう命令が出ているにも関わらず、どこか望洋として明らかに様子がおかしい光忠は、鋭い静止も振り切り仲間を庇って前に出た。
「みんな下がって。殿が引き付ける」
「独りで全員逃す気ですか!? 無茶です!!」
虚ろな眼でぐらりと揺らいだ光忠の脳裏に、血塗れのフラッシュバックが走る。
なす術なく折れていった仲間たちの、古く焼き付いた葬送の記憶が。
耳鳴りがする。
────見捨てろ、見捨てろ、と。
視界が血の色でチカチカする。
見捨てろと酷薄な主人に言われるたびに消えていく仲間たち。
見捨てろと笑って折れていく仲間。
この本丸では二度と無いと思っていた。戦の只中にあって、そんな都合の良いこと、あるはずがないのに。
いつも心優しい主の眼の中に、冷徹に戦況と『犠牲』を天秤に掛ける乾いた色が走るのを見た光忠は、ざわ、と総毛立って理性を失った。
「燭台切さん!? ダメです!!」
『────みっちゃん!? みっちゃん、どうしたの!?』
まるで、物吉を庇って自分から折れんばかりの挙動だった。
光忠は鬼神のように吠え、がむしゃらに刃を振るい、なんとしても物吉をこの場から逃がそうとしていた。だが、既に重傷に近い物吉だけでは、意識の無い三振りに加えて大太刀の石切丸まで抱えて検非違使を振り切れない。
「燭台切さん、逃げてください!! 燭台切さんッ!!」
『おい光坊!? どうした、聞こえないのか!? 光坊ッ!? おい、光坊ッ!! ────燭台切光忠ッ!!!』
この時、左肺を貫いた槍の一撃により、光忠は重傷に陥る。
主の悲鳴が上がり、その瞬間、短刀を庇った際に意識を失っていた部隊長、加州清光がにわかに意識を取り戻した。
加州清光はその瞬間、咄嗟に己の影腹を斬った。
部隊長、加州清光が最重傷に陥ったことにより、隊長に持たされていた緊急安全装置が間一髪で作動。
そこにいた全員がその時代から弾き出され、別の時代に墜落。あと一撃で部隊員全員が折れる寸前で、救助部隊に保護され、帰城した。
この頃は、まだ光忠と鶴丸が、交互に殿を務めていた時代だった。殿は部隊の生存の要、最後の壁。隊の背後を護り、盾となり、そして今回のように時に後退しながら撤退の先陣を切らねばならない。
ひと振りが倒れれば前衛に余波が及び、崩壊は瞬きの速度で広がる。殿は、絶対にそれを許してはならない役目だった。
つまり、命令に反して敵に突っ込んだ光忠の行動は、どう贔屓目に見ても軍規違反だった。
撤退命令にも関わらず自ら進んで犠牲になろうとした光忠。その結果、隊はさらなる窮地に陥った。加州清光の判断が隊を救ったのは結果論だ。
間一髪、全員で生還できはしたが、被害はあまりに壊滅的で、無視できない。
もし、加州の覚醒が僅かでも遅かったら。弾き出された別の時代で襲撃を受けていたら。救助隊が間に合わなかったら。
高い確率で、六振り全員が折れる結果となったのは明白だった。戻れたのは奇跡に近かった。そして、戦場でこんな奇跡は二度と起きない。
優しい彼女は、決して責めるつもりはないのだと言い置いてから、なぜ撤退の命令に逆らってまで残ろうとしたのかと、極力穏やかな声音で心配げに尋ねると
光忠は両膝の上で音が出るほど固く拳を握って、やがて「きみが誰かを見捨てる所を見たくなかった」と口を割る。
「きみの眼に、必要な犠牲を選ぶ色が走ったから」
「……それは」
「違う、それが正しいんだ。指揮官として必要なことだって理解してる。きみは何も間違ってない。僕の我儘なんだ、分かってる。ただ、……ただ、見たくなくて」
仕える主人が誰かを見捨てる決断をする瞬間を、どうしても見たくなかったと。
だから、光忠は自分から折れようとしたのだと。
仲間の誰かを見捨てろと言われるぐらいならと、その『誰か』に自ら進んでなろうとした。
「ごめん、冷静じゃなかった。殿の務めを明らかに逸脱してる。どんな処分も受け入れるから、僕に」
罰を、と。
震えながら望む光忠が言葉を紡ぎ終わる前に、両腕を大きく広げ、彼女は、がばっと光忠を抱き締めた。
「ごめんねみっちゃん」
ぐす、と鼻をすする彼女の柔らかい腕の中で、光忠は大きく目を見開いて、激しく動揺した。声が掠れる。
泣いている。
自分のために。
「なん、で、きみは何も間違ってない、謝る必要なんてないんだ、なのに…っ…」
「わたしね、心の中で練習してた。鶴るんにもかしゅーにも固く言われてたから。たとえ何を犠牲にしても、誰が折れても。絶対に生き残って自分たちを未来に語り継げって」
とん、とん、と彼女の手が繰り返し、光忠の背を柔らかく叩く。まるで泣き子を優しくあやすように。
「いつか誰か折れる瞬間を。大局を見て、より多く生き残るための犠牲を。みんなの主として、いざという時に選べなきゃいけないと、そう思って」
苦くこごった吐息が揺れる。
抱えた重さを、ようやく零すみたいに。
「わたしずっと、そればっかりだった。ごめんみっちゃん。来てない『いつか』ばっかり見て、大事なみっちゃんのことちゃんと見てなかったね」
小さくてあえやかな吐息が、弱々しくほどけた。
「ごめんね。ごめんみっちゃん。苦しめてごめん」
「違う、きみと鶴さんが正解なんだ」
「うんん、違うよ。みっちゃんが泣くような『正解』なんて要らない」
燭台切の肩に顔を埋めて、ぽろ、と透明な涙を落とした彼女はもう迷わなかった。
「うん、みっちゃん悲しませる選択肢なんて、ぜんぶ捨てちゃおう。もう決めた」
ぐっと顔を上げた彼女は、まるで夏風のような晴れやかさで笑った。
途方もなく難しい選択肢に手を伸ばし続ける道をもう選んでしまったのだと。もう引き返さないと。
「ごめん鶴るん、かしゅー! ダメだったや!」
彼女は眉を八の字に落として、苦い笑みを浮かべながらパッと振り返った。
「ごめんね、みっちゃん悲しませるくらいなら、一緒に危ない目あった方がいーや。もう決めちゃった」
お願い、許して欲しい。
そう瞳を柔らかに細めて微笑んだ彼女の視線が、まっすぐに鶴丸を見上げる。
金色に透き通るその瞳は、強い決意で煌めいていた。まるで金の花が咲くみたいに。
成り行きをじっと厳しい表情で見定めていた鶴丸国永は、一転してパッと苦笑してみせた。
ああもうこれは、仕様が無い、とばかりに。
「ごめん鶴るん、言うこと聞かなくて」
「いいさ。きみみたいな気性の将に、それを求めてもどうせ長く続かなかったな」
「ごめんね、ありがとう」
鶴の声にまるで安心したみたいに表情を緩めて、花咲くように彼女は笑った。
「みっちゃん、わたしが間違ってた。みっちゃん独りで泣かせるくらいなら、わたし、一緒に苦しんだ方がずうっといいよ」
ぎゅう、と力一杯抱きしめて、唖然とする光忠を、彼女はその両腕であたたかく包み込んだ。
「誰も折れない本丸を作ろう」
光忠を抱きしめた耳元で、彼女が謳う。
砂糖菓子のように甘く美しい望みを。
「どんな困難な状況でも、絶望的な戦況でも。仲間を置き去りに助かる道なんてない、強く強く、途方もなく強い本丸になろう」
光忠の耳朶を揺らす吐息が優しく笑う。
まるでとぷんとアルコールに浸かったみたいに思考が酩酊する。くらくらするような熱病だった。光忠はあっという間に彼女の言葉に溺れた。
おかえり、みっちゃん。
そう彼女が、こんなに幸せなことはないとばかりに空気を揺らす。
「ぜんぶ助けて、みんな無事に帰ってきて。みっちゃんもだよ」
それが新しい、たった一つの命令。
光忠を固く抱きしめて、繰り返し背中をさすりながら彼女は笑った。
「ね、そんな本丸にできるように。わたしと一緒に考えてくれるでしょ、みっちゃん」
この本丸に、未来の分岐点があったとしたら
恐らくはこの瞬間だったのだろうと、後に加州清光は振り返る。
その日まで、鶴丸国永の言い付けを固く守り
将である自分の安全を最優先に、内心はどうあれ、いざとなれば必要な犠牲を躊躇わない姿勢を見せていた彼女は。
あの瞬間、ためらうことなくその選択肢を永遠に投げ打って
それから二度と、犠牲を許容することは無くなった。自分を、誰を危険に晒しても。
たとえ自らが折れてでも、主人を守り抜く
そんな要人警護本丸の存在意義と真っ向から反する道を
恐らく主は、それを綺麗事だと理解していながら
この先ずっと皆に願い続けた。
計り知れないほど困難なその祈りを。
『ぜんぶ助けて、みんな無事に帰ってきて』
と。
戦場の理をねじ曲げることを
彼女は途方もなく強欲に願ったのだ。
あれから連日連夜、本丸を挙げて軍議の繰り返しだった。
誰も折れない本丸。誰も見捨てない本丸。
言うは易しだが、戦場で実行力が伴わなければ所詮は絵に描いた餅。
戦指揮にもまだまだ難渋する駆け出しの本丸が掲げるにはあまりに荷が重すぎるそれを、彼女は本気で叶える道を模索し続けている。
無謀な主人の望みを叶えるべく知恵を絞ることに、もちろん鶴丸とて否は無かった。
「ごめん鶴さん…僕のわがままで」
「何も問題は無いさ。そんなきみを彼女が愛してる」
申し訳なさそうに表情を曇らせ、暗い顔で肩を落としっぱなしの光坊の背を叩き、ようよう顔を上げさせた鶴丸は頼もしく笑ってみせた。
「ならオレたちは、主人の望みに応えるだけだ。今までと何も変わらない。そうだろ?」
「鶴さん…」
とはいえ、光坊の懸念も尤もだ。彼女の決意はかなり固い。
刀剣男士を使い捨てないと言えば聞こえはいいが、それは厳しい戦況で見方を変えれば、最も未熟な刀と心中しても良いと宣言するに等しい。
要人警護の定石に真っ向から反する理念だ。折れても次がある刀剣男士を折らないということは、それだけ将である審神者へ危険が飛ぶ。
このまま手をこまねいていては、どれほど知恵を絞っても早晩壁にぶち当たるのは目に見えている。
そんな折だった。
加州清光から鶴丸へと呼び出しがあったのは。
「お前に話がある」
そう、しかと強く思い定めたような低い声で。
加州清光は、ざっと地を踏み締めて鶴丸の前に立った。
毅然と、鋭い視線に強い決意を煌めかせて。
「おっと、物々しいな。さてはて、どの落とし穴が見つかったのかと思えば」
鶴丸はあえていつも通りに、肩の力が抜けるような調子で答えてみせた。
凛と立つ加州清光のその紅き双眸は、固い意思を宿して濡れるように光っている。
わざと少しだけ茶化してみせた鶴丸は、金彩を静かに細めた。
「……どうやら、そういう話でもなさそうだ。いいぜ、場所を移そうか」
修行に向かおうと思う、と。
加州清光は、真剣な表情でそう告げた。
「……ずいぶん早いな」
鶴丸は真剣な眼でそれを受け止めると、思案するように顎を擦った。
「主には?」
「まだ何も話してない。どの道、修行に向かうには練度が足りないし、手紙も笠も揃ってない。初期刀が本丸を離れると伝えるにはあまりにも早すぎる。準備ができるまでは、かえって不安を煽るだけだ」
でも、もう決めた、と。
鮮やかな決意で瞳を彩った加州は揺るがなかった。
あれからこっち、先の任務失敗を苦にしてか、加州は光坊にも増して暗い表情ばかりだった。
主人に見捨てられやしないかと四六時中心配しきりで、ずっと情動不安定気味だったように見受けられた初期刀殿だが、どうやら、迷いは吹っ切ったらしい。
周囲と己を見比べては目を逸らし俯いていた、重たく凝った憂いのため息は跡形もなく消え去り、覚悟に満ちた揺らがぬ瞳でこちらを見返している。
ここ数日は現世で彼女につきっきりだったはずだが、察するに、何か旅立ちの決心を固めるに値する出来事があったようだ。
「……手も足も出なかった。六人で挑んでこの有様だったんだ。もしも襲撃が戦場じゃなく現世だったら、俺、きっと彼女を守り切れなかった」
ぎり、と奥歯を噛み締めた加州は、膝の上で拳を強く握った。
言葉に混じって吐き出された苦い吐息は、わずかに鉄の味を含んでいる。敗北の記憶が舌の奥にまだ残ってこびりついているのだ。
「隊長は俺だった。太鼓鐘たちの重傷で動揺させて、燭台切の暴走を許した責任の一端は俺にもある。あそこで全員折れててもおかしくなかった。俺の強さが足りないばっかりに」
爪が食い込むほど固く握った拳が、細かく震えている。鶴丸は視線を流すと、黙って目を細めた。
きみが咄嗟に影腹を斬らなければ全員折れてた、絶望的なあの状況で帰城したんだ、隊長として誇っていい。そう鶴丸が慰めたところで納得しないだろう。
「あるじはもう覚悟を決めてしまった。燭台切に宣言した通り、自分を危険に晒してもきっと全員で帰還しようとし続ける。うちみたいな未熟な警護本丸のたった一つの優位性をドブに捨てる行為だ。次があれば、きっともう後が無い」
ぐいっと顔を上げた加州は、視線に燃えるような決意を煌めかせた。
「だから、まず俺が誰よりも強くなる。そう決めた。たとえ一振りでも絶対に彼女を護り切れるぐらい。検非違使の襲撃をまた受けても全員護って返り討ちにできるぐらいに」
冬の冷たい空気を、熱された言の葉が揺さぶった。
硬質な意志が、熱く強く大気を裂く。
「その先陣を俺が切る。いつか全員で辿り着かなきゃならない強さの頂きを、最初に掴むのは俺じゃなきゃいけないんだ」
夜気を揺らす声。顔を上げた加州の視線は、闇を裂く流星のように凛と澄んでいる。
双眸に、鮮やかな紅。
「強くなる。途方もないくらい。ぜんぶ助けて、みんな無事に帰る。彼女の無謀な願いは俺が叶えてみせる」
そこに居たのは、匂い立つように咲いた椿の花だった。
夜闇に金花が咲きこぼれる。
固く閉じていた蕾が、光を浴びて大きく綻んで、赤い花びらが大輪の華を咲かせるみたいに。
そんな、主人の願いを吸って開花する無二の鮮やかさだった。
「しばらく戦場に張り付くつもりだ。修行に向かうまでも、旅から帰って来てからも当分は。最低でもカンスト間際まで練度上げに集中する。そのために、」
「…………きみ、近侍を辞するつもりだな」
真っ先に主人に伝えるべき修行の決意を、先に鶴丸に伝えに来たのはこのためか。
こくん、と頷く。
加州清光。審神者の目に留まる機会、主人の隣を明け渡すのを極端に嫌がる傾向にあるはずの打刀。
だが、その眼は曇りなく、固めた決意で揺るがなかった。
「オレでいいんだな」
「覚えてるだろ」
わずかに鯉口を切って、自らの刃を数寸だけ煌めかせた加州が、鶴丸の覚悟を問う。
潔いほど鮮やかな直刃が、決意という錵を纏ってきらりと煌めいた。
「俺が隣に居なくても。死んでも彼女は護ってみせる。そうだよな」
極彩色の決意。
鮮烈な熱い声が、さぁっと、冬の夜気を押し流した。
先の見えない暗闇が晴れ、鶴丸が見据えた遠い未来の霞に、パァッと一筋の光明が指す。
心を決めてしまった優しい人の子。犠牲を厭う未熟でやわらかな主人。
選んだ茨の道は、彼女の足を絶えず傷つけ続けるだろうと思っていた。彼女はきっとそのつもりだ。
だが、鶴丸が目を凝らした、まだ不確かな先の景色に。
彼女の茨を断つ、燃え立つような一振りが隣に並んだ。
鶴丸は、じっと見つめ返した。彼女のいっとうの宝物を。
遠い未来を厳しく睨んでいた視線をふっと和らげ、鶴丸は微笑した。
「ああ」
確信した。
この紅が、彼女の茨を斬り裂く、未来の先駆けとなるだろう。
金色に花咲く赤椿
鮮やかに輝きを増す柘榴の双眸
加州清光
瞬きする間に鮮やかに変化し成長する
彼女の揺らがぬ北極星
鶴丸はその決意を受け止め、応えると決めた。主人に捧ぐに近しい持てる全てで。
これは、それに値する。そう鶴丸自身が見極めて決めた。
「分かった。きみが先陣を切るなら、後顧の憂いはオレが断とう」
鶴丸は応えて数寸抜く。
わずか抜いた刀を、誓い立てるようにまっすぐにかざす。
「きみが本丸を空ける間、この銘に賭けて決して彼女に刃は届かせない。約束する」
鶴丸は次いで、茶目っ気あるウィンクを見せた。
「今から待ち遠しいな。見違えるほど強くなったきみが、オレらを驚かせてくれるんだろ?」
やがてこの本丸は。
近侍を辞した代わりに、第一部隊隊長と教育番長を兼任した
加州清光が牽引する大河のようなうねりの中で
大きく成長し、躍進していくこととなる。
清光は、ぱたん、とその古い本を閉じた。
紐で綴じられた手書きの報告書だ。本丸ができたばかりの頃、初めて検非違使の襲撃を許したあの日の。
膨大な書類を保管したその書庫に、加州清光は独りだった。
不意に清光の頭上に影が指す。顔を上げると、そこには、本棚の上にばさりと降り立った派手な鶴が一羽。
「よっ。宴から外れて物想いかい?」
揺らしたその手には、酒瓶とグラスが二つ。
すたっと軽快に降り立って、鶴丸はにんまりと上質な酒を揺らした。
「初心に帰ってたんだ」
鶴丸がゆっくりと傾けた酒瓶から、美しい琥珀色の酒が、とくとくとく、と柔らかく注がれた。
書庫の外ではまだ騒がしい酒盛りが続いている。この本丸が無事に、また一年を乗り越えることができた、めでたい祝いの宴だ。
検非違使の襲撃。辛うじて折れずに帰還したあの日。
あれから幾年。多くの苦難が降り注いだが、こうして主人は無事で、幸いにして折れた刀は一振りも居ない。
極カンストになって久しい初期刀、加州清光。
あの日の誓いは決して大言壮語に終わらず、今の加州なら練度1の短刀だって無傷で検非違使の手から護り切れるだろう。
脆い主を現世で護るとはそういうことだ。主を含め、この本丸の誰もが加州の強さを信じて疑わない。
その強さに満足していないのは、加州清光ただ一人だ。
「極開花、か」
「ここから先の領域は完全な未知だ。強くなるのは必須だけど、レベル100以上で誘き寄せた検非違使がどう出てくるか分からない」
検非違使は刀剣男士を歴史の異物だと判断して襲って来る。そしてどうやら敵は、より強い刀剣男士の痕跡を辿って時を遡行して来るらしい。
黎明期と比べて政府側に情報が蓄積した昨今は、隠行香の開発にレベル別対処法マニュアルの配布と、早々壊滅的な被害を受けることがないように対策が周知徹底されている。
だが、敵もただ手をこまねいているわけではない。確実により強力な対策をしてくるだろう。
戦況が泥試合である以上、終わらないイタチごっこは常に発生する。そして、ついていけなかったものから容赦なく折れていく。戦場とはそういう場所だ。
「強くなるのは前提だ。でも、敵を斬っても、大事なものを護れなきゃ意味が無い。要人警護本丸には、戦の勝利より大事なものがある。彼女の望みを叶えるために、叶え続けるために。どう強くならなきゃいけないのか。それを、もう一度振り返ってたんだ」
そう言って、歩むべき足取りを、確かめるように。
くっとグラスの琥珀色を喉に流し込んだ加州は、まだ見ぬ頂きを睨んだ。
その燃えるような紅き双眸は
あの夜の誓いと寸分違わず今も鮮やかだ
加州清光
鋼の身でありながら、水を吸ってどこまでも天高く伸びていく、主人のいっとう大切な椿の花。
「きみは、どこまでも強くなるんだなぁ」
鶴丸は琥珀の酒を喉に流しながら、しみじみとそう噛みしめた。
きっと加州の決意は、遠くない未来、さらに大きな金華を咲かせるだろう。
初期刀が強くなり続ける限り、本丸の歩みは止まらない。後を追う連中が、負けじと険しい悪路を登るだろう。
そしてその姿に感化され、越えられない壁を、固い殻を破るものがやがて現れる。
そうして本丸は一段と強くなっていくのだ。
希望、とも呼ぶべき鮮烈なその光景が。
鶴丸は、目にも鮮やかに浮かぶ気がした。
名刀は金色に花咲く
あれは、いっとう鮮やかに開花した赤椿
初期刀、加州清光
無謀な彼女の願いを叶え続ける
揺らがぬ大輪の北極星
「そうだな。だが、何も変わらんさ。きみが強さを極める間、オレが後顧の憂いを払おう」
キン、と加州のグラスにグラスをぶつけ、鶴丸はそう微笑した。
「だからきみは、思うままに道を極めるといい」
そう、それだけがきっと。
彼女とこの本丸の確かな道標になるから。