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夜を結ぶふたり

全体公開 神無三十一受け 3 16 2560文字
2025-10-04 17:35:48

カルみと リボンの話
シナリオネタバレあり

 

 寝室に橙色の柔らかな光が灯る夜のこと。
 ベッドに入って上半身を枕に預けた神無は、隣ですやすやと眠る恋人の寝息を聞きながら本を読んでいた。
 その日は神無は非番だったが、縞斑はどうしても外せない用事があって朝から晩まで仕事に追われていたのだ。
 日が暮れてからようやく帰宅した彼はひどく疲れた様子にも関わらず、神無との時間を無理をしてでも作ろうとしていたため、早急にベッドに放り込んで寝かしつけたのである。

 「……ほんとにぐっすりだな」

 眠気が来るまでと隣で読書を始めた神無だが、部屋の明かりやページを捲る音に縞斑が気がつくことはない。
 一度本を閉じた彼は、ぐっすりと目を閉じている縞斑の頭をくしゃくしゃと軽く撫でた。
 神無よりも少し固い黒の髪を指で優しく漉いてみれば、縞斑は猫のように気持ち良さそうな表情を浮かべる。
 無意識に強請るような仕草でこちらへ擦り寄ってくる縞斑に思わず胸を押さえた神無は、改めて眠る彼に視線を落とした。
 
 「お疲れ、先輩」

 普段の縞斑は神無の前で簡単に寝顔を見せたりしない。元公安刑事であり、現在は犯罪組織のリーダーである彼は、たとえ恋人である神無の隣でも周囲への警戒を怠ろうとしないのだ。
 それどころか、自分に巻き込んで神無に危害が加えられることのないようにと、より一層警戒を強めているような気さえするときがある。

 「よし……俺も寝よーっと」

 そんな縞斑がぴくりとも動かずに眠る様子を眺めた神無は、そっと隈の滲む目元にキスをして自身もベッドへ横になった。

 「……ん?」

 ところがシーツを掛けて縞斑に寄り添った神無はふと、ポケットの中に違和感を感じてまさぐる。
 そこから出てきたものは一本のリボンだった。
 赤色のそれはたしか、本日縞斑が仕事帰りに買ってきてくれたケーキの包装に使われていたものだ。
 甘いケーキをたくさん詰めた白のケースを飾る赤色が芸術品のように綺麗で、包装を解いた時にすぐにゴミ箱に捨てる気になれなかったのだろう。

 「んー……

 忘れないうちに捨てた方が良いことは分かるが、鮮やかな赤色がもったいないという感情を湧き立たせる。
 だからといって使い道は決まっていないし、洗濯しないように避けるならテーブルの上に移動させるべきだが、それではさすがに縞斑を起こしてしまうだろう。

 「そうだ!」

 しばらく指先でくるくるとリボンを弄びながら考えていた神無は、やがてぱっと何かを思いついたように顔を上げた。

 ※

 「…………???」

 翌朝、縞斑が目を覚まして真っ先に目に飛び込んできたのは、左手の薬指に結ばれた赤色のリボンだった。

 「え……なにこれ……?」
 
 思わず怪訝な声を上げた縞斑は、睡眠不足が解消されてようやっと回る頭で昨日の記憶を振り返る。
 昨日は一日中仕事に追われて、ようやく夜に仕事を終えてから神無の家に向かった。
 非番の彼を夜まで待たせてしまった罪悪感から、駅前のケーキ屋で彼が好きそうなケーキを片っ端から買って帰ったのだ。
 そのあと彼の家でゆっくり過ごすつもりだったが、眠気が限界を迎えた縞斑を見て、神無がベッドに縞斑を背負い投げたのである。
 そのまま布団に包まれて強引に寝かしつけられたところで記憶が途切れている縞斑は、寝ている間の神無の悪戯だろうと納得することにした。

 「それにしても、随分可愛い悪戯だな……

 呟いた縞斑が腕の中へ視線を落とせば、そこには当たり前のように神無が寄り添って眠っている。
 穏やかな寝顔の彼は夢の中でもスイーツに囲まれているのか、時折むにゃむにゃと口元を動かして幸せそうに笑っていた。
 そんな彼の頬を突いて遊んでいた縞斑はふと、自分の手に結ばれたリボンが彼の左手の薬指に繋がっていることに気がつく。

 「神無ちゃん……

 恋人として想いが通じ合ったとき、相棒以外にはその関係を明かすべきではないと告げたのは縞斑だった。
 刑事である神無が犯罪組織のリーダーと繋がりがあると知れたら、警察組織内ではもちろん、他の犯罪組織にまで目をつけられる可能性があるからだ。
 神無を守るためにも分かって欲しいと告げた縞斑に対して、神無は一緒に居れるなら良いと言って笑っていた。
 世間からの祝いも、指輪も、写真もなくていいから、今この瞬間だけ一緒に居ると誓ってくれたらそれでいいと笑う神無は、きっと少なからず我慢をしていたことだろう。
 神無から年相応の恋愛や幸せを奪ってしまった罪悪感が無いと言ったら嘘になる。きっと神無は、縞斑との目に見える繋がりが欲しかったはずだから。

 「……指輪とまではいかなくても、なにか」

 なにか、神無に残すことはできないだろうか。
 いつのまにかそんなことを考えていた縞斑は、はっと我に帰ると自らの意志の弱さに苦笑いを浮かべる。
 どんな些細なものでも構わない。少なくとも、眠る恋人の薬指を結んで我慢させている今をどうにか変えなければならないと縞斑は思い始めていた。

 「んー……これ、ほんとにぜんぶたべていーの……?」

 何も知らずにむにゃむにゃと呟いて寝返りを打つ神無のことを、縞斑は強く抱きしめる。
 当面の問題は、二人の関係を唯一知っている相棒たちへの相談だろうか。きっとアサギリには、意志が弱いと言って呆れられるに違いない。
 これからのことを考えて小さく笑う縞斑の腕の中で、神無は心の底から安堵した様子で気の抜けた笑みを浮かべて寝言を続けていた。

 「せんぱいそれは……しろあんじゃなくてきみあんだから……いろもあじもぜんぜんちがうから……
 「ふ、どんな夢見てるのかね」

 自分の些細な悪戯が縞斑の意志を揺らがせるきっかけになったなどつゆも知らない神無は、夢の中で縞斑に餡子の違いについて説いているらしい。
 そんな彼の頭を撫でて目を閉じた縞斑は、彼が起きたら二人の未来の話をしようと心に決めたのだ。

  このあと、昼前にようやく目を覚ましたら神無がリボンを結んだまま寝落ちしたことに気がついて赤面したまま大暴れすることになるのだが、それはまた別のお話である。



 


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