@tirichann
「ああ! 会いたかったです。何度探し求めたことでしょうか」
突然目の前に現れたその人は、私の手を取り口付けした。それが挨拶だということはわかっているが、彼の口ぶりからして初めましての挨拶よりこんにちはの挨拶である気がした。私は彼のことをもう一度よく見てみる。細長い体躯にサングラスをかけている。頭部には縫い目のようなアクセサリーをつけていた。これほど特徴的な人に会っていたら忘れることはないだろう。
「私はあなたのことを知らないのですが……」
私が言うと、彼――スカリーと名乗った――はサングラス越しにでもわかるほど落胆した。
「何ということでしょう……折角貴女に会えたというのに……これもまた運命の導き……」
スカリーは大げさに頭を抱えてみせる。その仕草はコミカルではなく、どこか抒情的に見えた。
「一体、あなたはどうして私のことを知っているのですか」
スカリーは頭を押さえるのをやめ、私に向き直った。彼は私が忘れているだけだというハロウィンタウンでの出来事を教えてくれた。私達が本を開いたら迷い込んだこと。そこでハロウィンを共に過ごしたこと。彼の中では強く残っている出来事なのだろうが、私にとってはまったく思い当たるところがない。他人の伝記を聞いているような感覚だ。
「数百年後にワープして、たった一人貴女を頼りに探し歩いてまいりました」
スカリーは私達とは違う時代の人間で、元の世界に戻ったら私達がいなくて酷く驚いたと言う。数百年後にならなければ私達に会えないと知った時のスカリーの絶望はどれほど深かったのだろう。私達は、ハロウィンタウンで余程親しくなっていたらしい。
「どうか、思い出してはくれませんか」
スカリーは何らかの魔法を使って、あるいはゴーストになってこの時代にやってきた。そこまでして私に会いたかったのだ。私も思い出したい気持ちはやまやまだが、無理なものは無理だった。
「私はあなたのことを思い出せないよ」
私が言った途端、スカリーの眉が下がる。スカリーが求めているのは多分、一緒にハロウィンを過ごした記憶のある私なのだろう。だが、その私はもうどこにもいない。私はスカリーと新しく友達になることしかできない。それでもいいのなら、私はスカリーを深く理解することができた。私達は、知らない世界を彷徨う同士なのだ。
「でも世界にたった一人取り残された感覚は理解できる」
私は異世界から誰一人知り合いのいないツイステッドワンダーランドにやってきた。スカリーは数百年前の時代から誰も知り合いのいない未来にやってきた。私にスカリーの記憶はないが、私達は別の点で分かり合えるはずだった。
「今のあなたと一緒にいることだけなら」
スカリーがどうしても記憶を取り戻してほしいと言うなら諦めるしかない。でも私は、ハロウィンタウンのことを覚えていなくても彼と友達になれそうな気がしているのだ。
スカリーは長い手足を折り曲げ、恭しく頭を下げた。
「それで十分でございます」
スカリーが私の手をとって、繋ぐ。友達にしてはいささか距離が近すぎるのではないかと思ったけれど、挨拶にキスをする人だし特に意味はないのかもしれない。私達はひとりぼっち同士できっと仲良くなれるはずだ。