・極が初に戻る呪いの話(https://privatter.net/p/11623930)が大前提。
・大倶利伽羅が修行に行く話(https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=25496973)の内容もちょい噛んでます。
@fu_re_re_ra
定時連絡用の電報の向こうにいる審神者へと
長谷部は深く一礼し、こう言上した。
「はい、ご報告いたします」
現世近侍用の曜変天目は無事にLV5でカンスト。
隊長打刀用の屏風も、追ってじきカンストするでしょう。
鎧兜、および鞍や胴具足も、問題なく第一部隊に行き届いております。
これまで現世用の曜変天目を最優先に、一貫して『壱の帰り提灯』に小判を消費しておりましたが
曜変天目のカンストと同時に、滞りなく既に第二段階、第三段階へ移行しております。
「続いて、必要な小判については博多よりご報告がございます」
「今回の大阪城で目標額達成ばい!」
24振り×5LV分×8000小判=96万、と。
軽やかにそろばんを弾いた博多が
ででん!と誇らしげに目の前に差し出した千両箱の山。
中には黄金に輝く小判がずらり。
「合計96万、断片結合剤120本分の小判ばい!」
博多は達成感で満面の笑みを浮かべ、額の汗を拭った。
「ふーっ、稼いだばい!」
「曜変天目と屏風の回収の過程で、各々の鍔、三所物、いずれも破片の数は揃っております。すぐにでも取り掛かれるよう、宝物作成部屋の祭壇の手入れも抜かりなく」
そう告げた長谷部の言葉を聞き、ぱあっと主は表情を明るくした。
「じゃあ…!」
「はい、後は主のご帰還を待つのみです」
長谷部は一礼し、背筋をピンと張って、与えられた主命の達成を誇らしく報告した。
「以上をもちまして、後方支援隊、第二部隊から第五部隊まで24振り、全員分の宝物の準備が整いました」
ここは要人警護本丸。普段は審神者が不在で、近侍だけが現世で二十四時間、主人を警護する体制だ。
よって、宝物は前線以上に護りの要。特殊な在り方が求められる以上、通常の前線本丸とはいささか戦略的な事情が異なるのだ。
現世では一振りしか警護に就けない。手入れも行えない。
現世に小桜韋威鎧兜を持ち込むのは現実的でないため、曜変天目で統率を限界まであげておくことは、主人を無傷で守るための最優先事項だった。
このため、手に入る小判は全て異去攻略に集中。
審神者不在の第一部隊は名代の鶴丸の指揮の下、中傷進軍までは許容し、刀装を次々と失いながらも、疲労の限界まで鳥羽を駆けずり回るのが常だった。
そのための小判集め、資材集め、手入れ用の札集めが遠征部隊の仕事。カンストの曜変天目が完成するまでは、これが主な戦略だった。
しかし、第一部隊の文字通り血の滲む努力の末、無事に五つ分の曜変天目が完成すると、次は通常の前線本丸と同じように、第一部隊が戦場で使用する宝物集めに舵を切る。
とはいえ、曜変天目を回収する過程で銀の宝物の破片は多く回収できていたため、こちらは滞りなく完了した。
本来ならここで、通常の前線本丸と同じように、宝物集めの優先度を下げても問題は無い。
しかし、この本丸の主人は、こう方針を打ち立てた。
第二部隊から第五部隊まで。
全員分の宝物を用意したい、と。
これにはいくつか理由がある。
一つは、この本丸が一年の大半を主人不在とする後方支援本丸である関係上、時に第二部隊には、ある程度の危険を伴う遠征任務が政府から回ってくることだ。
前線任務を行うベテラン本丸や、あるいは新人本丸がつつがなく遠征を滞りなく回すための、危険を前以て排する露払い役が定期的に回ってくるのだ。これも後方支援本丸の中核任務である。
前線本丸が危険少なく遠征を回せるのは、こうした露払い役がいてこそだ。
戦場ほどではないが危険を伴うこの役目に刀剣男士を送り出す以上、守りを固めておきたいと考えるのは自然なことだ。
とはいえ、その場合は第二部隊の六振り、多く見積もっても第三部隊と合わせて十二振り分があれば充分だろう。
第四、第五部隊。末端の一振りに至るまで。
万難排して護りを固めるこの指針は、後方支援本丸の在り方を超え、主が貫いてきた方針に基づいている。
つまりこれは、ただの一振りも折らない、という強い意志の表れだ。
本来、最優先である要人の安否のためであれば、むしろ積極的に折れることをしばしば要求されるのが要人警護だ。
これはこういった後方支援本丸に顕現した時点で織り込み済みで、多くの刀がある程度納得した上で日々の任務に臨むのが通常は当たり前なのだ。
ところが、この本丸では、創設期に検非違使の襲来を許し六振り全員が危うく折れかける危機を経験して以降、一貫して『誰も折らない』を掲げている。
これは現実的には、要人警護の定石に真っ向から反している。
この本丸にも、過去に『要人の安全のためであれば、代替可能な自分たちが折れて当然』といった任務に就いてきた経験を引き継いでいる刀は多く、だからこそ新たな主人のこの在り方には目を疑うものもいる。
つまり自分たちの主は、最も未熟な刀のために自ら危険を厭わないと宣言しているも同義。やがてこの本丸に降り立った刀剣男士たちは、その危険性を重々に理解させられていく。
故に、現実としては。
主命ならばと懸命に、折れず折れさせぬようひたすら己を鍛える者と、理想は理想であって現実となれば主に代わって折れるべきだろうと内心で腹を括っている者に大別される。
その現状を正確に理解した上で、彼女はなお掲げている。要人を護り抜き、同時に誰も折らないという矛盾した本丸の在り方を。
今回の宝物集めは、そんな彼女の指針が色濃く反映された結果となった。
わっ、と本丸の刀たちは、並べられた合計32個の宝物に歓声を上げた。
「すっごーい!」
「これだけ揃うとさすがに壮観ですね」
第一部隊から第五部隊まで三十振り。
現世の近侍、および本丸で審神者につく名代用で合計32個。使用した結合剤は150本を超える。
曜変天目に加えて、屏風や鎧兜、鞍や胴具足など金や銀の宝物は第一部隊。
そして人数分用意された鍔や三所物は、第二以降の部隊が適宜交代で使うことになる。
異去から回収した宝物は不思議なことに、刀剣男士が装着すると霧のように空気に溶けて刀に馴染む。刀剣男士が本体の刀を自由に出し入れできるのと全く同じように、刀剣男士の意思で表に出したり隠したりできる。
政府から正式な見解は公表されていないが、異去に存在する宝物はどうやら、刀剣男士と成り立ちが近しいのではないかとまことしやかに推測する者もいるほどだ。
「さんきゅーな、主。遠征隊の全員にまで宝物が行き届くようにしてくれて」
「んーん、小判集めをがんばってくれたのは貞ちゃんたちみんなだもん。わたしはなんにも、だよ」
「それでもさ。集めた端から全部酒に代えちまう主だっているぐらいなのに」
第一部隊だけでなく、末端の最後の一振りに至るまで。本丸を離れる刀には、万全を期して安全でいて欲しいのだと。
主人がそう強く願っていることが、宝物がずらりと並んだこの壮観な光景に現れている。
だからこそ、この見事な光景を、本丸の刀の誰もが、喜びと共に目に焼き付けた。
「さあ、目標達成の慰労会だよ」
「広間にご馳走の用意はできてるからね」
厨の燭台切や歌仙が先導し、皆が楽しげに談笑しながら広間へとぞろぞろと移動していく中
なぜか彼女は最後尾で立ち止まり、振り返ると、じっと宝物を見つめたまま動かなかった。
「……」
すぐ気付いた長谷部が隣にそっと近付き、尋ねた。
「主、いかが致しました」
「長谷部、宝物の破片の残りは」
「こちらに一覧がございます」
差し出された書面に無言で目を通した主は、次いで、勘定番長を振り返った。
「博多、みんなの慰労のために残しておいた小判があるよね?」
「このぐらいばい」
さすが話が早かった。そろばんを素早く弾いて提示してみせた博多に、彼女はゆっくり頷いた。
「酒代、食費、褒美代──どれも全部、わたしの私費から補填するから、結合剤をあと五つ取り寄せて欲しいの」
へにょ、と眉を落とし、厳しい雰囲気を和らげた彼女は「だめかな」と仲間に伺いを立てた。
博多や長谷部たちが、できるだけ主人の身銭を切らせるような方法は取りたくないと思ってくれていることを、彼女はちゃんと知っているからだ。
「オレの主は意味の無い浪費はせんばい」
カシャンと算盤をリセットして、博多は二つ返事ですぐに請け負って取り掛かってくれた。
「主ば見とる『先』に必要な投資たい。躊躇う必要なか」
「ありがとう、博多」
双眸を柔らかく細めて微笑んだ主に、邪魔にならないようタイミングを見計らい、長谷部が慎重に尋ねた。
「どれをお作りに?」
「三所物の獅子をもう一揃い」
彼女はそう告げて、ここには居ないもう一振りを大きく振り返った。
華やかな場ほど「馴れ合うつもりはない」と立ち去ってしまう打刀を。
「なに?」
新たな宝物を差し出された大倶利伽羅は
ぴくりと片眉を跳ね上げると、すぐに状況を理解してあきれたように嘆息した。
小判だってタダじゃない。小判4万枚、それに遠征部隊が費やした時間も手間も理解しているからこそだった。
好んで独りで行動しているのは概ね大倶利伽羅の都合だ。本丸を挙げてサポートするような類いの物じゃない。
「お節介だぞ」
だが、そんな突き放した物言いの大倶利伽羅にも動じず
なぜか彼女はふっと表情を綻ばせ、くすくすと幸せそうな笑みを浮かべた。
「ふふ」
「…? なんだ、妙に嬉しそうに」
「似てきたのかな、って思ったら嬉しくなっちゃって。貞ちゃんより派手で、みっちゃんよりお節介な刀に」
「……はあ」
大倶利伽羅は諦めたような声音で深々とため息を吐くと「話を聞かないところまで似るな」と、嬉しそうな自分の主人に告げたのだ。
「でもね、伽羅ちゃんは単騎で動くでしょ」
なら、第五部隊まで宝物が行き渡った今、渡すべきは貴方。そう判断したのだと。
だから持っていて。
いつかこれが、必要になる刻のために──
迷わず告げる主人に、大倶利伽羅はじっと片目をすがめた。
番長を頂点としたピラミッド型の体制を隙なく敷いている主人だが
その指揮系統からやや外れた立ち位置に、大倶利伽羅はあえて置かれていた。
大倶利伽羅は、時に番長たちの指示を待たずに、独断で動くことを許されている。
その基準、行動指針はたった一つ。
『鶴丸国永の背を傷つける全てのものを斬れ』
それが、大倶利伽羅に最初に与えられた唯一の主命で、密命だった。
大倶利伽羅に渡せば、この本丸の中核に欠かせない鶴丸を、必ず護ってくれるはず。
それを踏まえて渡された宝物。
微笑んだ彼女が差し出した手元に、大倶利伽羅は視線を落とした。
三所物、獅子。
上がるのは打撃、衝力、中でも──必殺。
大倶利伽羅は、打刀の中で比べても、必殺が低い。
「……一つ聞く」
「うん」
「たとえばここに、できたばかりの曜変天目がもう一つだけあるとして」
大倶利伽羅はじっと、その黄金の双眸で、主人を測った。
「お前は俺に、どちらを持たせることを選ぶ」
「獅子を」
彼女は迷わなかった。
「統率の上がる曜変天目でなく、必殺の上がる獅子を」
そうすれば貴方は
必ずやり遂げてくれると信じていると
強い視線で、彼女は自らの刀の双眸を射抜いた。
「理由は」
「必殺は、貴方が選ぶ一瞬に必要だから」
たった一つの密命を除き、大倶利伽羅の行動と判断を全て尊重する姿勢を崩さない主だった。
「伽羅ちゃんなら、この意味をちゃんと分かってくれると思ったから。誤解せずに受け止めてくれる人だと思ったから」
統率より必殺を。
それは見方によっては、傷付き折れてでも必ず使命を果たせと告げているようにも見えるだろう。
だが、その見解は誤りだ。少なくとも大倶利伽羅は、主人の言をそうは取らなかった。
単に折れてでも使命を果たさせたいのなら、端からこんな数の宝物を用意する必要性はさらさら無い。
「だって貴方は、絶対に斬らなければならない敵を前に、倒れる刀ではないから」
だから、曜変天目は要らない、と。
そう双眸を緩めて微笑んだ主人に、大倶利伽羅は、ふっと鼻を鳴らした。
まるで、及第だと、気に入ったと認めるみたいに。
「いいだろう」
主人の手から差し出された笄を受け取って────……
そして、『刻』の今。
同じ手でそれを大きく放った。
敵の舌を貫いた笄が、敵の奸計を挫く。
「あ、あ、あ」
ごぼっと男が血を吐いた。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
術が使えないよう舌を串刺しにされた男が、血泡を吐きながら絶叫する。
同時に大倶利伽羅は、眉ひとつ動かさずに、最後の遡行軍を斬り伏せた。
印を貫いたのは、三所物、獅子の笄。単独で遊撃に動く事の多い大倶利伽羅に、有事に備えて主が持たせた宝物だった。
主人を侮辱された大倶利伽羅の怒りが、敵を斬り裂く。
ジャキ、と立てた刃が、血に濡れて鳴る。
「認めろ、貴様は」
お前が嘲ったニンゲンに負けたんだ。