@tirichann
告白をされた。糸師凛からではない。いつか移動教室で隣になった、苗字を思い出せる程度の男子にだ。
私は当然ながら糸師凛が好きだったし、彼と付き合うつもりはなかった。
「ごめんなさい、好きな人がいて」
こういえば彼は食い下がるだろうと思っていた。好きな人が誰かと聞かれたら、名前くらい教えてもいいと思っていた。仮にも告白をするくらい、好きでいてくれたのだし。だが彼は違う方向から私を責めた。
「その人には告白したの?」
凛を好きでいながら、告白せずにだらだらとしていた私には耳の痛い話だ。私が怯んだのを見透かしたように、彼は迫る。
「付き合うつもりがないなら、俺と付き合ってもいいんじゃない?」
私がとった選択は、彼と付き合うこと――ではなく、凛に告白することだった。彼は残念ながら私を凛にけしかけただけだったのだ。こういうのを少女漫画の当て馬と言うのだろうか。私は空き教室に凛を呼び出し、恐らく私に告白した時彼が味わっていただろう感情を噛み締めていた。
「好き」
たった二文字、それすら告白されて迫られなければ言えないのだ。私がもう少し勇気のある女だったら、彼の傷は浅かっただろう。凛を目の前にして他の男のことを考えているのも申し訳なく、凛に集中する。凛は目を瞠り、私を見下ろしていた。
「お前……俺のこと好きだったのか」
「言うつもりはなかったの。ただ、告白された時にこう言われて」
私は彼に言われたことを簡潔に伝えた。好きな人がいて、告白するつもりがないなら彼と付き合わないかと言われたこと。結果として私は彼より凛を選んだのだから凛が不快になることはないだろうと思っていた。だが私は甘かったのだ。この男のプライドはとてもではないが常人のそれほど低くない。
「俺に告白するつもりはなかったのかよ。他の男にお膳立てされた告白なんざいらねぇ。ぬるいんだよ」
凛は攻撃的な目つきになり、私を睨む。私は凛にフラれたのだ、と理解した。今更彼の元へ戻る気はないが、私は恋愛の可能性を二つ失ったのだ。なんとも不器用だと思う。
「気を悪くさせてごめんね。嫌いなのはわかったから」
私が言うと、凛はさらに怒ったように目を吊り上げる。
「誰が嫌いだっつった」
この様子だと凛は私を嫌いではないらしい。それどころか、逆の可能性すら感じる。
「好きなの?」
「だから怒ってんだろうが」
私は先程自分を不器用だと言ったが、凛ほどではないかもしれない。私は好きな子に対して威圧するようにキレながら愛を語らない。凛はその言葉こそ言わないけれど、私を好きなのだろう。でも私から告白するとお膳立てされたからだとまた怒られるからできない。
「じゃあ凛から告白して?」
そう言った結果、また凛を怒らせてしまったのは別の話だ。