@xxxyueyunxxx
秋といえば、何を思い浮かべるだろうか。
美味しい食べ物、うつりかわる景色、数々のアクティビティ――各々の楽しみで溢れている季節だと、ランフォードは考えている。ランフォードは人間ではなく、異種族『魔族』であるが、文化を愛でる心は人間も魔族も何ら変わらないと信じているのだ。
「ねえ、ジェフ。今年もようやっと暑さが過ぎたね」
「――ああ。過ごしやすい季節になって、ほっとしたぞ」
外から金木犀の良い香りが漂ってきている。ランフォードはジェフが淹れてくれた温かい緑茶をひと口含むと、息を吐いた。
「君、店はいいのかね? 私は君とまったりしていられるのは嬉しいけど」
「構わない。店ならちゃんと見張らせている」
どうやらジェフは使い魔に店番をさせているようだ。――それならば、しばらく話し込んでいても大丈夫だろう。
「それなら少し私が時間を貰っても大丈夫だね。――ジェフ。今年は私と紅葉狩りにでも行かないかね?」
「紅葉狩り? ……別に構わないが、どこへ行くんだ?」
山登りは勘弁してくれよ、とジェフが頬杖をついた。――ジェフはお世辞にも運動が得意ではない。目的が紅葉狩りであっても、運動を伴っていてはただの苦行であろう。
「君さえ大丈夫なら、旅行をしないかね? この前、いいところを見つけたのだよ」
「ほう? どんなところを見つけたんだ? 俺様の美意識に叶っているところだろうな?」
「君もきっと二つ返事で乗ってくれると思うよ。――これなんだけどね」
ランフォードは持参したパンフレットをジェフの前に広げた。
――そして、約一か月後。
ランフォードとジェフは、電車に揺られていた。
ランフォードの案にジェフが賛成してくれたので、こうしてふたりで旅行をすることになった。こういう楽しみのために有給を消費するのは、何ともうきうきするものである。
「――ほう。これはなかなか見事な景色だ」
車窓から外を見たジェフが嘆息していた。外には川が流れ、そこに紅葉が舞っていた。秋の空に赤い紅葉、そして澄んだ川の青――まるで絵のようだ。
「これが本番じゃないよ、ジェフ。本番は、宿に着いてからだから」
「そうだったな、ラン。――次の駅だったな、降りるのは」
「そうだね。そろそろ、降りる準備をしようか」
ランフォードは網棚から旅行鞄をおろす。ジェフは小型のキャリーバッグを手元に寄せた。
迎えに来ていた車に乗って、宿に着いた。
今回泊まるのは、温泉旅館であった。パンフレットの写真で見たものよりも、その旅館の佇まいには風情があった。
「――なかなかのところだな、ラン」
「来てみて良かっただろう? さあ、行こうよジェフ。時間はあるようで少ないからね」
ふたりは連れ立って旅館に入る。案内された部屋は、大人の男ふたりでもゆったりと過ごせる広さのものであった。
ふたりは、女将の淹れてくれた茶と運んできてくれたお菓子で、しばらく電車旅の疲れを取った。
「このお菓子は美味しいね。この辺りの名産なのかな?」
「さあな。気になったなら、後で女将に尋ねてみれば良いだろう」
「それもそうだね。――さあ、早速紅葉狩りをしようよ、ジェフ」
「そうだな。行くか、ラン」
立ち上がって外に向かおうとしたジェフを、ランフォードは制する。
「――ラン?」
「紅葉狩りはここからするんだよ、ジェフ。さあ、支度をしようか」
ランフォードは部屋に備え付けられている浴衣を手に取った。
「――こういうことだったか……」
「そうなんだよ。――しっぽりと温泉につかりながらの紅葉狩りというのも、乙なものだろう?」
この風光明媚な旅館は、部屋ごとに温泉がついている。それを知ったランフォードは、温泉に入りながら紅葉狩りをしようと思いついたのであった。
温泉からは、行きの電車から見た川が流れているのが見える。そして、はらはらと散りゆく紅葉の葉も――
晩秋の空気はひんやりとしているが、温泉に入っていればそれも気にならない。――まさに最高の環境であった。
「ねえ、ジェフ。君はますます綺麗になっていないかね?」
「何だ、藪から棒に」
「私は自分の思ったことを口にしただけだよ」
この温泉の湯は、何を売りにしていたか――美肌だったか、それとも健康関係だったか。それは忘れてしまったが、温泉につかって寛いでいるジェフの姿は、ランフォードの目にはとても麗しく映ったのである。グラビア写真にしても恐らく良いものになると思ったが、それを言ったらジェフに怒られそうなので、これは心のなかに留めることにした。
「夜になったら、湯に入りながら月と紅葉を見られるということか――」
「そうなるね。ご飯を食べたらもう一度温泉に入ろうよ。何度入ってもいいのだからね」
「そうだな。――それも、悪くないな……」
上気した頬に、秋の空気が気持ち良い。
ランフォードとジェフは、しばらく温泉でゆったりとして、紅葉狩りを楽しんだのである。