リオセスリが手土産に持参したジェラートを、ヌヴィレットと2人で楽しむ話
@otroom0v0
水の上に出た瞬間、強い日差しが肌を焼く。普段感じることのない熱気に、リオセスリは夏の到来を知った。こんな陽気では、乾燥と暑さを嫌う最高審判官もバテているかもしれない。そう思ったリオセスリは、懐中時計で時間を確認した。
「……少しの寄り道なら問題なさそうだな」
じきに巡水船が出発する時間だ。乗り遅れないよう、リオセスリはすぐに移動した。
「こんにちは、ようこそいらっしゃいました。ヌヴィレット様でしたら、執務室でお待ちです。どうぞお進みください」
「ありがとう」
セドナに挨拶をした後、リオセスリは手土産を持ってヌヴィレットの執務室を訪ねる。ドアをノックすると、すぐに「どうぞ」と返ってきた。入室すれば、何か書き物をしていたらしいヌヴィレットが、ペンを置いて顔を上げる。
「ごきげんよう、リオセスリ殿」
「相変わらず忙しそうだな」
仕事漬けの恋人に微笑むと、彼の元に歩み寄る。一見すると、常と変わらぬ隙のない態度だが……あえてそう振舞っていることに、リオセスリはすぐに気づいた。
「フォンテーヌはちょうど、夏の盛りだ。外は暑かっただろう。常々思うが、メロピデ要塞からここまで足を運んでくれて感謝する」
「確かに、外は暑かったな。日差しがとても強かった。でも、あんたが気にすることじゃないさ。メロピデ要塞に最高審判官を呼び出すなんてことは出来ないからな」
そう言って笑うと、リオセスリは持参した手土産をヌヴィレットのデスクに置いた。
「これは?」
「ちょっとした手土産さ。毎日暑くて大変だろう、俺からの労いだと思ってくれ」
微笑みを浮かべて、白い小箱をヌヴィレットの方へ寄せる。彼が驚いた様子で目を丸くして、リオセスリを見上げた。
「今開けても?」
「ああ。そうしないと溶けちまう」
「溶ける……?」
不思議そうにしながらも、ヌヴィレットがすぐに箱を開けた。そしてその目元がふっと緩む。
「これは、よい贈り物をいただいてしまったな」
「だろ?」
買ってきたのは、ホテル・ドゥボールのジェラートだ。氷元素で冷やしながら持ってきたので、まだ角がつんと立っている。
「定番のバニラとチョコレートにしてみたが、ヌヴィレットさんはどれがいい?」
「ふむ……では、バニラをいただこう」
「そうだろうと思った。俺はチョコレートの気分だったんだ」
互いに笑うと、ジェラートの入ったカップをそれぞれ手に取る。リオセスリはヌヴィレットのデスクに浅く腰かけて、ひと息ついた。一緒に入っていた木製のスプーンで掬うと、まずはひと口。舌にジェラートをのせた瞬間、ひんやりとした冷たさを感じた。滑らかなジェラートはあっという間に溶けて、チョコレートの濃い甘味が広がる。
「うん、美味いな」
「心地よい冷たさだ。神の目の力を使ったのか?」
「ああ。貰ったものは有効活用しないとな」
リオセスリの言葉を聞いて、ヌヴィレットが笑う。
「せっかくの祝福をこのように扱うとは、君らしいな」
「だろ」
これくらいのことでヌヴィレットは怒らない。そう知っているからこその行動だ。リオセスリがどんな男なのか、理解を示してくれるところも好ましい。
冷たいジェラートを堪能すると、リオセスリはほうっと息を漏らした。
「ホテル・ドゥボールのスイーツは絶品だな。これだけでも満足感がある」
「では、今夜共に食事をするというのは?」
スマートなお誘いに、リオセスリはふっと笑ってしまった。デスクに腰かけたまま振り返って、ヌヴィレットを見つめる。彼は答えを知っているかのように、余裕の笑みを浮かべていた。
「へぇ、最高審判官はデートのお誘いが上手なんだな」
「教え方の上手い恋人がいるのだ」
返事は? と聞かれたリオセスリは、身をかがめてヌヴィレットの頬に口づける。そのまま彼の耳元で「喜んで」と囁いた。
するとヌヴィレットの手がリオセスリの顎をとらえ、唇が重なる。甘く吸われた後、彼がふっと笑った。
「チョコレートの味がする」
「あんたなぁ……」
味なんて確認する余裕もなかった。欲しがる気持ちを抑えて身を引くと、リオセスリはデスクから降りて背筋を伸ばした。
「さぁ、定例会議を始めよう。この後も予定があるんだろう?」
「そうだな」
ゆったりと構えていたヌヴィレットが、凛とした顔つきになる。その姿を見るたびに胸をときめかせているだなんて、彼は知らないだろう。
密かに笑うと、リオセスリは気持ちを切り替えて会議に臨むのだった。