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祝いの花火を貴方とふたりで

全体公開 ヌヴィリオ 3106文字
2025-10-21 21:15:46

大洪水から一年が経った夏、復興をねぎらう花火を2人きりで眺めるヌヴィリオの話

Posted by @otroom0v0

 午後七時になるというのに、今夜のフォンテーヌはどこに行っても混んでいた。シグウィンを連れてパレ・メルモニアに到着したリオセスリは、正門に佇む彼を見つけて笑顔を浮かべる。
「あっ、ヌヴィレットさん!」
 同じく気づいたらしいシグウィンが、嬉しそうに駆けた。その後を追いかけて近寄ると、いつにもまして上機嫌な様子のヌヴィレットが笑いかけてくれる。
「やぁ、ヌヴィレットさん。今日はお招きいただき、感謝するよ」
「そうかしこまらないでくれ。君もフォンテーヌ人なのだ、此度の祝祭には参加する権利がある」
 それを聞いて、リオセスリはふっと表情を緩める。今日は大洪水が起きて、ちょうど一年目になる日だ。災害を乗り越え、復興に励む人々を労うという趣旨で、今夜は花火を打ち上げる。その催しのことは知っていたし、リオセスリも主催であるパレ・メルモニアに資金援助をしていた。だが、見に来てほしいとヌヴィレットから招待状までいただき、こうしてシグウィンと共に水の上へ来たというわけだ。
「しかし、こんなに盛り上がるとは思わなかったな。打ち上げは一時間後だろ?」
「ああ。広場には露店が出ていると聞く。マジックショーなどの催しもあるようだ」
「ちゃっかりしてるな。でも、大洪水のことを悲観するような雰囲気じゃなくてよかったよ」
「私もそう思う」
 会話に一区切りついたところで、シグウィンが言った。
「ヌヴィレットさんは、ここで花火を見るの?」
「いや、ボートに乗って鑑賞するつもりだ。水上で眺めるのもよいだろうと思ってな。二人も一緒にいかがだろうか」
「いいね、ぜひお供させてもらうよ」
 看護師長も、と言いかけたところで彼女が「ウチは遠慮しておくのよ」と首を振った。
「これからメリュジーヌのみんなと遊ぶ約束をしてるの。挨拶だけになってしまって、ごめんなさい」
「いや、気にすることはない。皆によろしく伝えておいてくれ」
「ええ、もちろん。後でみんなと一緒に合流しましょ。きっと喜んでくれるのよ」
 そう言うと、シグウィンがリオセスリを見上げた。
「それじゃあ公爵、ヌヴィレットさんと仲良く楽しんでね」
 ぱちっとウィンクをして、シグウィンがリフトへ向かう。その後ろ姿を見送りながら、リオセスリは苦笑した。
「まったく、最初からそのつもりだったみたいだな」
 少し残念そうにしているヌヴィレットに、リオセスリは肩をすくめてみせる。
「ここ数日、メリュジーヌがメロピデ要塞を歩き回っていた理由が分かったよ。看護師長と打ち合わせをしていたんだろう。嘘ではないようだし、気にする必要はないさ」
 ヌヴィレットが微笑んだ後、少しの沈黙が訪れる。今まで公の場で恋人として振舞うことはなく、戸惑いもあるのだろう。しばらくその姿を眺めていると、彼が口を開いた。
「花火が打ち上がる前に移動しよう。ついて来てくれ」
「ああ」
 ヌヴィレットの案内で、フォンテーヌの郊外に出る。人気のない浜辺に、一隻のボートが隠されていた。運転する者の姿はない。
「操作はどうするんだい? 一応、運転は出来るが」
「問題ない。私が水元素で移動させる」
「そいつは凄いな。でもいいのかい? 見られたら困るだろう」
「ゆえにこの場所を選んだ。他にも海に出ている遊覧船はあるが、そこから離れていてかつ、ひと目につかないところを選定してある」
「なら、贅沢な船旅を楽しませてもらおうじゃないか」
 ボートに乗り込むと、ヌヴィレットがステッキで船底を軽く叩く。すると、舵をとっていないのにボートが動き始めた。席に着いたリオセスリは、ヌヴィレットに任せて景色を楽しませてもらう。ボートの動きは穏やかで、気遣いが感じられた。潮風を浴びながら、リオセスリはほぅっと息を吐き出す。
……こうしてのんびり過ごすのは、随分久しぶりだな」
「定例会からしばらく会っていなかったが、忙しかったのか?」
「ああ。最近はマシナリー以外にも、フォンテーヌのためになる事がないか検討しているんだ。同時に要塞の管理をするのは、なかなか骨が折れる」
「どうか無理はしないように。君が倒れてしまったらきっと、フォンテーヌに大雨が降ってしまう」
「はは、そうならないように気をつけるよ。まぁ、看護師長の目は誤魔化せないからな……倒れる前に、ミルクセーキ付き特製ディナーが出てくる」
 あのミルクセーキ以上の味が存在することを、つい先日知ったばかりだ。
「彼女も君の身を案じているのだ。どうか気を悪くしないでほしい」
「分かってるよ。あんまり心配させないように、気をつけないとな」
 そんなことを話しているうちに、ボートが緩やかに停止した。エリナスに近い場所で、周囲には船も人の姿もない。リオセスリはその選択に感心した。
「なるほどな、ここには瓦礫があって座礁する可能性が高いから、船も寄り付かない。エリナスにはメリュジーヌくらいしか住んでいないし、人目を気にする必要もないってことか」
「もう少し良い場所を手配したかったのだが、今夜はフォンテーヌ人の祝祭だ。ここは譲るべきだろう」
「ああ、そうだな」
 ヌヴィレットがリオセスリの隣に座って、ゆったりと足を組む。ここからだと、フォンテーヌ廷とポワソン町の辺りまで見渡すことが出来た。花火を打ち上げるのはポワソン町付近の浜辺と聞いているので、ちょうどいい場所だろう。
 花火を待つ間、会話が途切れて静かな時が流れていく。互いの間には他人行儀な距離があって、少し寂しい。恋人とボートに乗って二人きりの夜を過ごす……そんな状況でこれはどうかと思う。リオセスリはふっと笑うと、驚かせないようにゆっくりと距離を埋めた。照れくさくてそっぽを向いていると、ヌヴィレットの手がリオセスリの腰を抱き寄せる。ようやく顔を合わせると、穏やかに微笑んだ彼がすぐ目の前にいた。
 しばし黙って見つめあい、少しずつ顔を寄せていく。唇が触れるまで、あと少し――と、いうところで空がぱっと明るくなり、大きな破裂音が響いた。
 驚いてそちらを見れば、夜空いっぱいに花火が咲いている。流れ落ちていく光は、流星のようだった。続いて何発も花火が打ちあがり、色鮮やかな花が幾度も咲く。あまりの美しさに胸が震え、息を呑んだ。
……素晴らしい光景だな」
「ああ」
 ヌヴィレットに寄り添って、リオセスリは花火を飽きることなく眺め続けた。手を握れば、指を絡めてしっかりと握り返される。
 ――このひとと一緒に、花火を見ることができてよかった。
 満ち溢れる喜びを感じながら、リオセスリは微笑む。
「なぁ、来年も企画しないか? またあんたと一緒に花火が見たい」
 するとヌヴィレットが笑う。
「逢瀬のために、これほどの企画を立ち上げるのは、職権乱用ではないか?」
「ははは! 確かにそりゃそうだ」
 でもそうしたいと思えるくらい、特別な時間になった。ヌヴィレットも同じように感じてくれていたら嬉しい。
「もしまたやるなら、今度こそ看護師長を連れてこよう。なんなら、メリュジーヌを集めて一緒に眺めるのもいいんじゃないのか?」
「いい提案だ。検討しておこう」
 しかし、とヌヴィレットが口を濁らせ、つぶやく。
「君と二人きりで過ごす案も捨てがたい」
 そう言った後、リオセスリの顎に手がかかり、口づけられる。至近距離で見つめあうと、リオセスリは笑った。
「その意見には、俺も同意だ」
 ヌヴィレットの首に腕を回すと、今度はリオセスリからキスを贈る。
 華やかな光が、愛を育む二人の姿を密かに照らしていた。


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