カルみと 寝癖の話
シナリオネタバレあり
@popo_trpg_ss
朝目を覚ましたら、目の前に鳥の巣があった。
「うわ」
思わず小さな声を漏らしてしまった神無は、慌てて口を両手で塞ぐと縞斑を起こさないように息を顰める。
眠りの浅い彼はその声を聞いてしばらくもぞもぞと身じろいでいたが、やがて神無を引き寄せると抱き枕のようにして再び眠り始めた。
「……すっごい寝癖…………」
腰に抱きついたまま寝息を立てる縞斑の背を撫でた神無は、目の前にふわふわと広がる縞斑の爆発したような髪を眺めてぽつりと呟く。
昨晩仕事が長引いた彼はきっと、髪を乾かすことを忘れて眠ってしまったのだろう。先に眠ってしまった神無は苦笑いを浮かべてその頭をそっと撫でた。
「うーん……」
芸術的な勢いで跳ねる髪を携えて無防備な寝顔を見せる縞斑を眺めた神無は、思案するように小さく唸る。
普段から眠りの浅い彼が珍しく気持ち良く眠っているのだから、出来る限り邪魔はしたくない。
しかし、その寝癖はいくらなんでも流石に見過ごせないものだ。時間が経ってしまう前に直しておきたいという気持ちもある。
そんなふたつの悩みを抱えて悶々と悩んでいた神無は、やがて後者に傾いた天秤に従って縞斑の髪へと指を滑らせた。
「ふ……ほんとにすごいな」
手櫛で髪を梳くように撫でながら、丁寧に絡まりを解いていく神無は、改めて彼の寝癖の激しさに笑ってしまう。
いつもは神無が必ず髪を乾かすよう急かして、それでも渋る時はソファの前に座らせて神無が手ずからドライヤーを掛けていた。
長引いた仕事をようやく終わらせて辿り着いた恋人の家で、すでに家主が寝ていたとあれば、早々に自分もと彼がベッドに飛び込むのも仕方がないと納得できる。
とはいえ、この寝癖は簡単に直る気配がない。しばらく髪を梳かしていた神無は、ほとんど変わらない彼の髪を前に苦笑いを浮かべて手を引っ込めようとする。
「……んん、」
「お?」
ところがそれより早く、離れていく神無の手を縞斑の温かな手のひらが捕まえた。
起きていたのだろうかと目を瞬いた神無だが、すぐに彼の目がいつもよりいっそう開いていないことに気がついて小さく笑みを漏らす。
「先輩?」
「んー……」
まだ夢と現実の曖昧な境界線に立っているらしい縞斑は、神無の声に擦り寄る仕草で返事をすると、捕まえていた彼の手を自身の頭の上にぽんと戻した。
「……もっとなでて」
眠たげな甘える声でそう呟いた縞斑に、神無は思わずぐっと言葉を詰まらせて押し黙る。こうして縞斑が自分に甘えることは、とても珍しいことだった。
普段は年上の恋人としてらしく振る舞う彼が見せる甘えた仕草に、神無の方が照れてしまって顔が赤く染まっていく。
思わず叫び出しそうになる緊張をぎゅっと堪えた神無がおそるおそる頭を撫でる手を再開すれば、縞斑は気持ち良さそうに息を吐いた。
「うぐ……」
甘やかしていたつもりなのに、何故かこちらが甘やかされているような気分になった神無は、縞斑が寝ぼけていたおかげで赤い頬を見られずに済んだことに安堵して頭を撫で続ける。
そうしてしばらく毛先を整えたり、うねって絡まる髪を丁寧に解いていれば、ようやく意識に覚醒の兆しが見えた縞斑が顔を上げた。
「……なおった?」
「ちょっとましになったけど、まだこのへんとかこの辺りが跳ねてる」
「そっかぁ……」
聞いておきながらさほど興味がなさそうに相槌を打った縞斑は、神無を抱きしめると再び眠る姿勢に入る。
腹に抱きついて額を擦り付ける縞斑の猫のような仕草は可愛らしかったが、これでは寝癖を直した意味がないと思い直した神無は心を鬼にして彼の肩を軽く揺らした。
「こら、ほっとくとカラスの巣みたいになるぞ」
「だって、神無ちゃんが撫でるとなんか……眠くなる……あとでちゃんとするから……」
「だーめ、起きろって。いつもあとで直すって言ってそのままにするじゃん」
「ゔー……ねむい……」
このまま縞斑に流されて二度寝をすると、再び元気を取り戻してしまったうねる髪と格闘する羽目になるのだ。
そうなってしまうと縞斑はいつも、面倒臭いからこのままでいい、と諦めて適当に髪を縛ってやり過ごそうとする。
美容に多少のこだわりがある神無としては恋人の髪が痛むことを良しと出来ず、根気よく二度寝に入ろうとする縞斑を説得することにした。
やがて唸りながら揺さぶられていた縞斑は顔を上げると、神無にだけ聞こえる声でぽつりと呟く。
「……神無ちゃんがなおしてくれる?」
その声色は神無を怒らせてご機嫌を伺うときによく似ていて、大概彼も人に甘えることが苦手なのだったと神無は改めて自覚させられた。
むずむずと込み上げる庇護欲をくすぐられた神無は、わざとらしく困ったように眉を下げて笑うと縞斑を抱きしめ返す。
「しょうがないなぁ。俺がやってあげるよ」
「…………じゃあ起きる……」
「ん!洗面所いこ」
ようやく首を縦に振った縞斑に手を差し出して笑い掛ければ、彼はのろのろと体を起こして神無の手を握った。
どうやら今日の縞斑は仕事に揉まれて疲れているらしく、恋人に甘えたい気分らしい。
自分よりも体も歳も大きな彼がおずおずと甘えてくれる姿にますます愛おしさが込み上げた神無は、もう少しだけ眠気によって素直な彼を堪能していようと足音と声をひそめて洗面所を目指すのだった。
終