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Midnight Treat

全体公開 神無三十一受け 2 25 4251文字
2025-10-31 16:53:32

カルみと 誕生日の話
シナリオネタバレあり

 

 色とりどりの仮装が行き交う交差点の前で、神無は周囲に注意を配りながら深いため息をついた。

 「なんで俺、ハロウィンに生まれちゃったのかなー……

 呟く彼の声は市民たちの楽しげな声に飲まれてしまったが、唯一隣に立つ相棒のディーノにだけは届いていたらしい。
 不審者を探してあたりを見回していた彼は、神無の言葉を聞くと不思議そうに首を傾げる。

 「行事と誕生日が同じ日であることは、一般的に覚えやすいというメリットがあると聞きますが、神無は違うのですか?」
 「うーん……俺の場合は職業も相まってかな。こんな日じゃ気軽に休みなんて取れないだろ」
 「なるほど。確かに本日は僕らまでパトロールに駆り出されるほどですから、誕生日休暇を取るのことは困難ですね」

 納得したらしいディーノに相槌を打った神無は、数日前の記憶を振り返って苦い表情を浮かべた。
 本日10月31日は、神無三十一の誕生日である。
 誕生日は好きな人と過ごしたいと考えて休暇を申請しようとした神無だったが、同日に行われるハロウィンの仮装イベントの開催範囲が今年は拡大されるという報告が入ったのだ。
 そのため、神無たちドロ課もパトロールに駆り出されることになり、人手の足りないその空気の中で『誕生日だから休みたい』とは言い出せなかったのである。
 それでも直属の上司である青木は気を遣ってくれたが、連勤の記録を日々更新し続けている彼にこれ以上甘えるわけにはいかないと断ったのだ。

 「もー……ほんとなら今頃先輩といっ…………
 「い、なんですか」
 「……なんでもないよ」

 思わず『いちゃいちゃしてたのに』という失言を口走りそうになった神無が口を噤めば、じとりと目を細めたディーノが口を開く。

 「一緒に乳繰り合ってたのに、ですか」
 「ちっ……!?どこで覚えたそんな言葉!!」
 「図星ですね」
 「ちげぇよ!さすがにそこまで考えてない!!」
 「その路線で考えてはいたんですか」
 「い、いいだろ別に!恋人なんだから!」

 神無が取られてしまうことが相棒として若干不服らしいディーノはぷぅと頬を膨らませていたが、開き直った赤い顔の神無をいなすと改めて周囲の警戒に戻った。
 その隣で息を吐いた神無も、同じように人混みをぼんやりと眺める。
 楽しげに街を歩く平和な人々の姿がほとんどだが、酔いやテンションに任せて一線を超えてしまう若者や、騒ぎに乗じて違法取引に踏み込む犯罪者も少なくない。

 「そのだらだら先輩は来ないのですか?」
 「あぁ、アンドロイドを保護したら後日青木が引き渡すってさ」

 アンドロイドの部品や本体の取引も確認されるような日だが、縞斑は本日の現場には来ないと神無は聞かされていた。
 神無たち以外にもたくさんの警察が彷徨く中で、犯罪組織のリーダーである縞斑が街を出歩くことはリスクが高い。
 そのため今回はアンドロイドの暴走が確認された場合、ドロ課預かりという建前で保護をしてスパローに引き継ぐ手筈となっているのだ。

 「まぁ、今日頑張れば明日は休みだし……

 翌日に仕事を終えてからゆっくり誕生日を祝おうと話し合ったときは、神無も仕方ないことだと納得したつもりだった。
 けれどいざ誕生日当日になると、恋人と過ごすことができない寂しさを覚えるのは仕方のないことだろう。
 今朝も早くから出勤だったため、日付が変わるまで起きることができず、縞斑が送ってくれた祝いのメッセージにすぐに返事をすることができなかったことも悔やまれる。

 「神無?神無、行きますよ」
 「……うん。今行く」

 もやもやと考え込んで俯いていた神無は、ディーノの声を聞いて仕事に集中しようと思い直した。
 そうして何気なく路地の奥へ視線を向けた神無はふと、そこに立っている人影に気がついて足を止める。

 「……え?」

 黒い外套を身にまとい、仮面で目元を隠した男が、ひらひらとこちらに笑顔で手を振っているのだ。
 その背格好に既視感を抱いた神無は思わず言葉を失うと、少し先を歩いていたディーノに慌てて声を掛ける。

 「ごめんディーノ!ちょっとここで待ってて!」
 「?はい、わかりました」

 不思議そうに首を傾げるディーノを大通りに残して、神無は男の立っていた路地へと飛び込んだ。
 薄暗い通りの舗装が甘いコンクリートを蹴飛ばして、砂利道になった路地を駆け抜ける。
 そんな神無の追跡に気がついたらしい男は、外套を翻して背を向けて路地の奥へと歩いていく。その背を見失わないように足を早めた神無は、男が曲がった道の角に迷うことなく飛び込んだ。

 「は……っ、はぁ、どこ……?」

 肩で息をして辺りを見回した神無が顔を上げれば、道の先には男が待ち構えている。
 口元に笑みを浮かべたその姿に予感が確信へと持った神無は、思わず目を丸くすると男の元へ駆け寄った。

 「先輩なんでいんの!?」
 「こんばんは神無ちゃん。よく気づいたね」

 神無の言葉に、仮装した男ーー縞斑はにっこりと笑って周囲を見回す。
 辺りに人の気配はなく、街灯の光が届かないこの場所は目が慣れたふたりでもない限り鼻の先すら見えないことだろう。
 誰にも見つかる心配がないことを確かめた縞斑は、改めて神無と視線を合わせて言葉を続けた。

 「ちょっとサボりかな」
 「あ、あんたなぁ!自分の立場考えろって!」
 「大丈夫だよ。ちゃんとこうして仮装してるし」

 一般人に紛れるために用意したのか、縞斑は吸血鬼の仮装に袖を通していたらしい。
 ひらりと外套を揺らして呑気に笑って見せた彼だが、変装してまで仕事をサボる恋人を前に神無は思わず呆れ顔になる。

 「だからって……現に俺は見破ったんだから危険だろ」
 「ここまで警察の真横を歩いてきたけど、見破ったのは神無ちゃんだけだったよ?」

 どうやら縞斑は自分に会うまでに安全性のテストも済ませたらしい。
 真横を通る犯罪者組織のリーダーに気が付かない同僚たちの姿を思い浮かべた神無は、思いのほか簡単に想像ができてしまう事実にずるりと項垂れてしまった。
 元刑事である縞斑が犯罪組織に寝返ったことは、警視庁内の重要機密事項だ。パトロールに駆り出されている下っ端の刑事たちであれば、彼の顔どころか存在すら知らされていないかもしれない。

 「まぁ……俺は先輩のことよく知ってるし……
 「なら大丈夫でしょ」

 とはいえ、いくら人間の目は誤魔化せても、アンドロイドのスキャンからは変装をしたところで逃れられないだろう。

 「だとしても!それとこれとは話が別で、」
 「うん。さすがに長居は危険だろうから、これだけ渡して俺も地下に戻るよ」

 もう少し危機感を持てと刑事らしく注意しようと神無が口を開くと、分かっていると言うように小さく頷いた縞斑が懐を探った。
 怪訝な表情を浮かべてそんな縞斑の行動を見守っていれば、彼はやがて小さな包みを取り出して神無へと差し出す。

 「はい、どうぞ」
 「これは……?」
 「プレゼント。仕事中に渡すのはどうかなとも思ったんだけど、こっちは今日渡してこそかなと思ってね」

 話す縞斑の言葉にますます首を傾げた神無がそっと包装を解くと、中からかぼちゃのクッキーとメッセージカードが顔を覗かせた。
 メッセージカードに記された『Trick or Treat!』という文字をまじまじと眺めた神無は、それが誕生日プレゼントではなくハロウィンの贈り物なのだと察する。

 「……さっき十分悪戯されたと思うんだけど?」
 「そうかな?」
 「そうだよ。お菓子持ってない分遊ばれた」
 「それならハロウィンの課題は達成だね」
 「達成ってあんたなぁ……

 恋人と路地で追いかけっこをすることになった神無が頬を膨らませて物を申せば、縞斑はそんな彼の頭を撫でながら満足そうに笑った。

 「君に見つかったら渡そうと思ってたんだ」

 おそらく縞斑は、警察組織に見つからないよう秘密裏にアンドロイドの違法取引や暴走がないかを探っていたのだろう。
 警察組織に所属する以上、恋人である神無にも打ち明けることができない事情が存在することを神無は重々承知している。

 「……あとでアサギリに怒られても庇わないからな」
 「大丈夫、うまく誤魔化して仕事に戻るよ」

 だからといってそれを咎めるつもりも、深く掘るつもりもない神無は、あくまで縞斑は仕事をサボっているというていを貫くことにした。
 縞斑もそんな神無の気遣いを察しているらしく、礼を言う代わりに頭を撫でられる。その手のひらが温かくて優しいものだから、たまらず神無は一瞬だけど仕事中の緊張を緩めて笑顔を見せた。

 「先輩のこと、どんな仮装でも見つけられる自信あるかも」
 「ほう。じゃあ来年はどんな姿で見つけてもらおうかな」
 「望むところだ!来年も首洗って待ってろ!」
 「それ恋人に使う台詞で本当に合ってる?」

 いつも通りのテンポ良いやり取りを交わしていれば、神無のサングラス型コンピュータが通知を鳴らす。
 慌てて画面を見ればそれはディーノからのメッセージで、察しの良い相棒からの『そろそろ戻ってきてください』という催促だった。
 つい話し込んでしまったようだと我に返った神無は、すぐ戻る旨を返信すると縞斑を見上げる。

 「ごめん先輩、俺そろそろ持ち場に戻るよ」
 「あぁ、仕事中にごめんね。誕生日おめでとう」
 「ありがとう!おやすみ先輩!」

 手を振った神無は、大通りへ向かう道を駆け出した。
 きっと縞斑は、神無に直接祝いの言葉を伝えたかったのだろう。その口実として諸々を準備してくれたのだと思うと、手の中の小さなクッキーの包みがよりいっそう特別なもののように感じた。
 ふと曲がり角で足を止めた神無が背後を振り返れば、そこにはもう誰も立っていない。
 おそらく縞斑も仕事に戻ったのだろうが、今日という日の由縁を思うと煙のように消えた縞斑も実は幻だったのではないかと彼はおかしそうに笑う。

 「えへへ、良い匂い……!」

 袋から漂う甘い匂いを抱きしめて、この幸せな香りが確かに彼に出会ったことの証明だと思い直した神無は、相棒の待つ道の先へと急ぐのだった。



 


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