薬研藤四郎の、限界の歯痒さと覚醒。
この本丸で実際に薬研が担っている部分については、こちらに詳しく→https://privatter.net/p/11710391
@fu_re_re_ra
《想像力の涯てにて立つ》
「想像力の限界、って言葉があるだろ?」
なあ大将、と薬研藤四郎はこう口にした。
「刀剣男士にとってこの言葉は、単なる思考やひらめきの壁を意味しない。人の想像力の限界は、それ即ち付喪神の限界。俺たち自身では、どう足掻いても越えられない絶対のことわりを意味する」
「俺たち付喪神はな、見方を変えれば何にだってなれる。本来物言わぬ鉄の塊が人の形を取ってるのがいい証拠。薬研藤四郎という刀を通して、そこに人の形を透かし見た者がいたからこそ、俺たちはこうしてここにいる」
「だが、裏を返せば、人の子の想像の先に、自力では絶対に行けない、ということでもある」
「まあ本来、始まりの成り立ちを思えば、俺と薬学はまるで関係が無い。薬研藤四郎の名は、鉄製の薬研に突き刺さった切れ味と主人の腹を切らなかった逸話に由来してる」
「だが、名の言霊ってのは本当に強くてな。こうして顕現してからこっち、俺に薬師の真似事をさせようとする主人は後を絶たないし、実際、俺っちはいつの間にかそういう類いが誰よりも得意な刀剣男士になってた。戦場育ちで見聞きして覚えたことは確かに多いが、それを遥かに越えて詳しくしたのは、どこかの誰かの数多くの想像と期待だ。俺はそれを誇らしいことだと思ってる」
「けどな、実のところ、始めは俺にできることはそう多くなかった。なぜなら、ほとんどの審神者は、もちろん医者ほど薬や人体や治療に詳しいわけじゃなかったからだ。審神者の想像力の限界が俺の限界。無意識に多くの俺が求められてたのは『それっぽい振る舞い』で────つまりはまあ、戦場の緊張感を和らげてくれる一種の気休めだった。医者と同じ手術ができるわけでも、魔法のように薬を組み合わせて命を助けられるわけでもない。俺の手の中で安心したような顔をした主人が、たくさん死んでいくのを見てきた。子供のままごととそう変わらんさ」
「斬り殺すのが仕事の俺たちだ。所詮真似事止まりなのは当然かもしれない。けどな、俺は心のどっかで、それを歯痒く思ってたらしい」
「今でもよく覚えてる。あんたの声がしたのを。微睡みの中で聴こえたあんたの祈りは、驚くほど具体的だった」
「医者の自分に並ぶ知識と知恵を絶え間なく学び続け、生かす目を持てる者。共にこの本丸の刀たちの治療を具体的に考えてくれるような、そんな。誰よりも医者に近い心を持つ薬研藤四郎、どうかこの声に応えてほしい、と」
「俺は、この声のもとでなら、俺すら知らない薬研藤四郎に出逢えるかもしれないと思った。俺の限界を超えた期待を与えてくれる主人がいれば、俺はきっとその先に行ける」
「そうして、俺はあんたと出会ったんだ、大将」
「大将、あんたには感謝してる。あんたは俺に惜しみなく必要な知恵を学ぶ機会を与え、決して安くはない医学書を望めば望むだけ湯水のように買い与えてくれた。戦場とは違う平和な時代の治療ってやつを山ほど俺に見せてくれたし、実際に病院で働く人間もたくさん見せてくれたな。人々が歴史と共に重ねてきた医療の叡智に触れる機会を数多く与えてくれた。得難い経験だった」
「そして何よりあんたは、それを俺が生かし、それ以上の価値を俺が必ず手にできると信じてくれていた。医者としての背中を絶えず俺に見せてくれた。治療者としてのあんたをいちばん理解できる刀は俺だと自信を持って言える」
「あんたがくれた期待が、俺をここまで押し上げてくれたんだ。今の俺ならきっと、あの日あんたが望んでくれた、さらにずっと先までだって走って行ける」
「前置きが長くなっちまったな。粟田口吉光が作刀、薬研藤四郎。医療班隊長の任、謹んで拝命する。────大将、俺を選んでくれて、ありがとうな」