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鏡に映る吸血鬼(反転)

全体公開 反転ドラヒナ 4 3791文字
2025-11-03 21:23:57

『ドラマチックに雛菊の花束を』のポスカラリー企画がありまして、現地に行けない自分なりに協力したく、及ばずながら参加しておりました。
イラストを提出したものの、不備があって没になった時の為に、エアブー公式様の『ポスカ文学メーカー』で作成した、ショートストーリーを作っておりましたが、問題なくイラストの方が通ったので、ツイッターに上げていたお話です。
心身共に結ばれてからの時間軸、反転ドラヒナのお話です。吸血ハネアリの大発生による避難警報が出たビル街を、逃げ遅れた子供を抱えて走るヒナイチくん。彼女達をフォローする為に、吸血ハネアリの大群と戦うドラルクさんの姿が、ビル街のガラスに映っている訳は
最後に、仕事が終わって合流する反転みっぴきのシーンを追加しました。こちらの世界では、反転してドラルクさんは絵を描くのが上手い、という裏設定で書いてます。
2025/05/23 に上げました。

Posted by @kw42431393

 「すごい!あのおじさん、つよいね〜。」
 緊迫感のない子供の声に、ため息をつく。
 私の腕に抱かれている8歳ぐらいの少年は、キラキラした目で、上を見上げていた。
 そして、その視線の先には
 『アハハハ!応援要請というからには、どんな手合いかと思っていたのにたかがアリとは、な!!』
 『ギィィ!!』
 白髪の吸血鬼が、吸血ハネアリの首を断ち切る姿があった。その死骸は、空中ででザラザラと大量の塵となり、私達の上に降り注ぐ。

 シューッ!!

 そして、別の個体がドラルクにギ酸を吹きかけていた。彼は何でもないように優雅に舞いながら、義眼に意識を集中させる。キィィという音と共に、吐きかけられたギ酸は、彼に当たる寸前で氷の矢へと変わっていき
 「残念。」
 『ガァアァ!!』
 その矢はアリの体を貫いて、ビルに串刺しにする。

 

 そして、その死骸もザラザラと、塵となって落ちて来る。あまり被っていい代物ではない。
 それに、氷化能力を使う彼の戦場は、 凍えそうなぐらい寒い。
 だから、私は白いジャケットを脱ぐと、子供を頭からすっぽりと包んであげる。
「くしゅん!さむっ!!おじさん、かっこいいぞ~!もっと、やれやれ〜!!」
「こら、じっとしなさい。ボクがゲームを取りに、家に帰ったりするから、あの『おじさん』達が、下等吸血鬼と戦ってくれているんだ。 反省しろ。」
「だって〜。たいいくかん、たいくつなんだもん。」
 カチカチと歯を鳴らす少年を軽く睨むと、私は子供を抱え直して、再び駆ける。
 吸血羽アリの大発生で、避難警報が出た無人と化した、ビル街を疾走する。
 季節的な発生だから、これほど脅威であるはずがなかったのだが...どうやら、突然変異体が混ざっている様だ。
 今回ばかりは、ロナルドが彼を派遣してくれなければ、二人共危なかったかもしれない。
 「それにしても。」
 チラッと、上空で戦っている彼に目を走らせる。
 無人のビル街で縦横無尽に空を舞い、 下等吸血鬼の群れを次々と殲滅させる姿は、 圧巻だとしか言いようがなかった。彼が反人間派から、我々人類のいや、『私とロナルドの味方』になってくれた事に、感謝するしかない。

 「おね〜さん。あのおじさん、きゅうけつきだよね?」
 「そうだが?」
 「へんだよ。ほら。」
 小さな手が、ビルを厳密には、ビルのガラスを指さしている。
 「だって、かがみにうつってるよ?」
 幼子にそう言われて、初めて気が付いた。彼ら夜の者達は、基本鏡に映らない。
 ぐっと力を込める必要がある...それなのに、彼の姿が、ガラスにずっと映っている訳は。

「ボク、しっかり捕まってるんだぞ?ここから脱出するぞ?いいな?」
「え~、なんで?もっと、みたいよぉ。」
「だめだ!じゃあ、行くぞ!!」
 むくれた子供をベルトでしっかり括り付けると、私はさらにスピードを上げて、避難場所である小学校の体育館へと駆けだした。
 戦っている彼の、気がかりにならない様に
 思う存分、彼が戦える状態にする為に

 「ありがとう、ドラルク。」
 



 あり得ないほどの、寒さにも合点がいった。
 ここに私達いや、『私』がいるからだ。
 不本意ながら、『私』が命がけで守ろうとする、『市民』がいるからだ。
 考えてみれば、あれだけの大群の下にいながら、アリの吐き出したギ酸を浴びる事はなかった。凍らされたギ酸も、落ちて来る事はなかった。
 念動力で浮かせるか、ビルに刺したままにしていたからだ。
 「アハハ狂戦士のあいつが、そんな気を遣ってくれる様になってたなんて。」
 アリ達に刃を振るいながら、ずっと、氷化の術を使い続けているからだ。
 何も考えてない様な顔をして私達に害が及ばない様に。
 必死に、力を使い続けていてくれていた事が。 
 「ありがとう。本当に、ほんとうに。」

 かつての自分勝手で、残酷な彼を知ってい るだけに。
 今の私はこうして想って貰える事が、本当にほんとうに嬉しくて幸せなんだ。



 「ただいま。ドラルク、ジョンそれに、ロナルドも戻ってたのか。」

 ドラルクが下等吸血鬼達を殲滅し、ロナルド達に案内されて到着したVRCによって、凍ったギ酸は回収され、街の安全も確認された後に、避難警報が解除された。小学校の体育館に避難していた皆が、家に帰っていく姿を確認した後、私もこの吸血鬼の居城に帰ってきたのだ。危険度Aの吸血鬼を監視する任務の為ではなく、今や、自分が帰る家となったこの場所に
 「お待ちしておりましたわ、ヒナイチさん。」
 「ヌヌヌリ。」
 そして、一足先に戻っていたロナルドとジョンが席についていて、嬉しそうに笑っている。先に始めてくれてもよかったのにな。
 「まさか。君を抜きに、始められるものか。さあ、おいで。ここにかけ給え。」
 そう言って、ドラルクが椅子を引いて、手招いてくれる。目の前には、帰る道すがらでも楽しみにしていた、クッキーと紅茶が並んでいる。
 「ああ。さっきは、助かったぞ。おかげで、あの子を無事に親元に帰す事が出来た。ありがとう。」
 「君に抱かれていた、あのマセガキいや、口の減らない少年か。」
 ロナルドのジト目を受けて、ドラルクがバツの悪そうな顔をする。相変わらず、ロナルドには全く頭が上がらないらしい。
 「本当~に、大人げないお人です事。お腹立たしいからと、お避難所に行って、その坊やのお鼻を抓んでやろうとか仰いましてね。まぁ、あの子の方が、お一枚上手でしたけれども。」
 「ヌフフフ。」
 そうだったな。避難所に入って来たドラルクの顔は、お世辞にも機嫌がいいとは言えないものだった。その子の身勝手で、私が危険にさらされたからというのもある。しかし、一番の理由は、『私に抱かれていたマセガキ』だからだ。それが

 『あ!さっきのきゅうけつきのおじさんだ!かっこい~な!ねえ、ねえ!これに、サインしてくれよ!!』
 
 当の『口の減らない少年』が駆け寄ってきて、学習帳と鉛筆を差し出したのだ。出鼻を挫かれたのだろう。そして、自分でもどういう顔をしたらいいのか分からなかったらしく、動揺したとも、嬉しそうともとれる表現しがたい顔をしていた。
 「仕方ないだろう。私を何だと思っているのかね。つい最近まで、私はれっきとした『危険度Aの吸血鬼』だったのだよ。そういう意味で、サインなど求められた事がなかったのだ。」
 確かに、そうかもしれない。それでも、引き受けてくれたのだ。ロナルドと出会って、コンビを組み、ロナ戦関係のイベントにも同行する(させられる?)様になって、随分と変わったものだそう思う。
 「形は違えど、畏怖は畏怖だ。悪い気はせんただの気紛れだ。」
 そう言って、彼はプイっとそっぽを向く。苦笑して、彼の手元にあるメモ用紙を見る。そこにあるのは、様々な筆記体で書かれた自身の名前サインの練習の痕跡だ。

 『う~ん、おじさん。もうちょっと、センスのあるサインかけないの?』
 『喧しい。文句が多いぞ、クソガキが。栄えある最初の一人だ、むしろ、光栄に。』
 『これ。なんかおもしろみがないっていうか。こんどのロナせんのしんかんイベント、おじさんもでるんでしょ?それまでに、おしゃれなのかんがえといてよ。やくそくだよ?』

 「無理矢理とはいえ、大衆の面前で指切りさせられたのだ。我々にとって、契約は絶対だ。破る訳にはいかん。」
 「おほほほ。貴方をおやり込めた子ですもの。ご将来は、大物になるかもおしれませんわね。」
 「やり込められてなぞいない。ガキ相手に面倒だから、何も言わなかっただけだ。」
 私達が見ていたのもあるだけど、最終的に言い返しもせず、人ならざる者として約束を無碍にも出来ずこうして練習をしているのだ。なんだか、温かい気持ちになる。
 
 「相変わらず、絵が上手いな。これは、私達だろう?これでいいんじゃないか?」
 「これかね?ますます、バカにされそうだが?」
 書き散らされたサインに紛れて、手慰みに描かれたと思しき落書きを撫でる。片目に傷の入ったコウモリにマジロ、アンテナが付いた小鳥、そして、赤い帽子を被ったゴリラを描いたイラストだ。たまにしか、私も目にする事はないが
 「あら、こんなの描いていましたの?お嫌ですわよ。私をゴリラに描くなんて。」
 「よく言うものだ。お嬢の皮は被っていても、心は惨いゴリラどうぜイタタタ!や、やめ給え、折れる!折れるというに!!」
 「ヌー!!」

 ちなみに、ロナ戦イベントの日は、私が仕事だったので、彼がその少年にどんなサインを書いてあげたのかは、定かではない。
 だが、割とおチョロな彼の気質から見て、それなりに畏怖欲を満たせたのではないかと思っている。
  



ちなみに、ポストカードの背景にしていたイラストは、こちらです。


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