『ドラマチックに雛菊の花束を』のポスカラリー企画がありまして、現地に行けない自分なりに協力したく、及ばずながら参加しておりました。
イラストを提出したものの、不備があって没になった時の為に、エアブー公式様の『ポスカ文学メーカー』で作成した、ショートストーリーを作っておりました…が、問題なくイラストの方が通ったので、ツイッターに上げていたお話です。
心身共に結ばれてからの時間軸、反転ドラヒナのお話です。吸血ハネアリの大発生による避難警報が出たビル街を、逃げ遅れた子供を抱えて走るヒナイチくん。彼女達をフォローする為に、吸血ハネアリの大群と戦うドラルクさんの姿が、ビル街のガラスに映っている訳は…?
最後に、仕事が終わって合流する反転みっぴきのシーンを追加しました。こちらの世界では、反転してドラルクさんは絵を描くのが上手い、という裏設定で書いてます。
2025/05/23 に上げました。
@kw42431393
「すごい!あのおじさん、つよいね〜。」
緊迫感のない子供の声に、ため息をつく。
私の腕に抱かれている…8歳ぐらいの少年は、キラキラした目で、上を見上げていた。
そして、その視線の先には…
『アハハハ!応援要請というからには、どんな手合いかと思っていたのに…たかがアリとは、な!!』
『ギィィ!!』
白髪の吸血鬼が、吸血ハネアリの首を断ち切る姿があった。その死骸は、空中ででザラザラと大量の塵となり、私達の上に降り注ぐ。
シューッ!!
そして、別の個体がドラルクにギ酸を吹きかけていた。彼は何でもないように優雅に舞いながら、義眼に意識を集中させる。キィィ…という音と共に、吐きかけられたギ酸は、彼に当たる寸前で氷の矢へと変わっていき…
「残念…。」
『ガァアァ!!』
その矢はアリの体を貫いて、ビルに串刺しにする。

そして、その死骸もザラザラと、塵となって落ちて来る。あまり被っていい代物ではない。
それに、氷化能力を使う彼の戦場は、 凍えそうなぐらい寒い。
だから、私は白いジャケットを脱ぐと、子供を頭からすっぽりと包んであげる。
「くしゅん!さむっ!!おじさん、かっこいいぞ~!もっと、やれやれ〜!!」
「こら、じっとしなさい。ボクがゲームを取りに、家に帰ったりするから、あの『おじさん』達が、下等吸血鬼と戦ってくれているんだ。 反省しろ。」
「だって〜。たいいくかん、たいくつなんだもん。」
カチカチと歯を鳴らす少年を軽く睨むと、私は子供を抱え直して、再び駆ける。
吸血羽アリの大発生で、避難警報が出た…無人と化した、ビル街を疾走する。
季節的な発生だから、これほど脅威であるはずがなかったのだが...どうやら、突然変異体が混ざっている様だ。
今回ばかりは、ロナルドが彼を派遣してくれなければ、二人共危なかったかもしれない。
「それにしても…。」
チラッと、上空で戦っている彼に目を走らせる。
無人のビル街で縦横無尽に空を舞い、 下等吸血鬼の群れを次々と殲滅させる姿は、 圧巻だとしか言いようがなかった。彼が反人間派から、我々人類の…いや、『私とロナルドの味方』になってくれた事に、感謝するしかない。
「おね〜さん。あのおじさん、きゅうけつきだよね?」
「そうだが?」
「へんだよ。ほら…。」
小さな手が、ビルを…厳密には、ビルのガラスを指さしている。
「だって、かがみにうつってるよ?」
幼子にそう言われて、初めて気が付いた。彼ら夜の者達は、基本鏡に映らない。
ぐっと力を込める必要がある...それなのに、彼の姿が、ガラスにずっと映っている訳は。
「ボク、しっかり捕まってるんだぞ?ここから脱出するぞ?いいな?」
「え~、なんで?もっと、みたいよぉ。」
「だめだ!じゃあ、行くぞ!!」
むくれた子供をベルトでしっかり括り付けると、私はさらにスピードを上げて、避難場所である小学校の体育館へと駆けだした。
戦っている彼の、気がかりにならない様に…。
思う存分、彼が戦える状態にする為に…。
「ありがとう、ドラルク。」
あり得ないほどの、寒さにも合点がいった。
ここに私達…いや、『私』がいるからだ。
不本意ながら、『私』が命がけで守ろうとする、『市民』がいるからだ。
考えてみれば、あれだけの大群の下にいながら、アリの吐き出したギ酸を浴びる事はなかった。凍らされたギ酸も、落ちて来る事はなかった。
念動力で浮かせるか、ビルに刺したままにしていたからだ。
「アハハ…狂戦士のあいつが、そんな気を遣ってくれる様になってたなんて。」
アリ達に刃を振るいながら、ずっと、氷化の術を使い続けているからだ。
何も考えてない様な顔をして…私達に害が及ばない様に。
必死に、力を使い続けていてくれていた事が…。
「ありがとう。本当に、ほんとうに…。」
かつての自分勝手で、残酷な彼を知ってい るだけに。
今の私は…こうして想って貰える事が、本当に…ほんとうに嬉しくて…幸せなんだ。
「ただいま。ドラルク、ジョン…それに、ロナルドも戻ってたのか。」
ドラルクが下等吸血鬼達を殲滅し、ロナルド達に案内されて到着したVRCによって、凍ったギ酸は回収され、街の安全も確認された後に、避難警報が解除された。小学校の体育館に避難していた皆が、家に帰っていく姿を確認した後、私もこの吸血鬼の居城に帰ってきたのだ。危険度Aの吸血鬼を監視する任務の為ではなく、今や、自分が帰る家となったこの場所に…
「お待ちしておりましたわ、ヒナイチさん。」
「ヌヌヌリ。」
そして、一足先に戻っていたロナルドとジョンが席についていて、嬉しそうに笑っている。先に始めてくれてもよかったのにな。
「まさか。君を抜きに、始められるものか。さあ、おいで。ここにかけ給え。」
そう言って、ドラルクが椅子を引いて、手招いてくれる。目の前には、帰る道すがらでも楽しみにしていた、クッキーと紅茶が並んでいる。
「ああ。さっきは、助かったぞ。おかげで、あの子を無事に親元に帰す事が出来た。ありがとう。」
「君に抱かれていた、あのマセガキ…いや、口の減らない少年か。」
ロナルドのジト目を受けて、ドラルクがバツの悪そうな顔をする。相変わらず、ロナルドには全く頭が上がらないらしい。
「本当~に、大人げないお人です事。お腹立たしいからと、お避難所に行って、その坊やのお鼻を抓んでやろうとか仰いましてね。まぁ、あの子の方が、お一枚上手でしたけれども。」
「ヌフフフ。」
そうだったな。避難所に入って来たドラルクの顔は、お世辞にも機嫌がいいとは言えないものだった。その子の身勝手で、私が危険にさらされたから…というのもある。しかし、一番の理由は、『私に抱かれていたマセガキ』だからだ。それが…
『あ!さっきのきゅうけつきのおじさんだ!かっこい~な!ねえ、ねえ!これに、サインしてくれよ!!』
当の『口の減らない少年』が駆け寄ってきて、学習帳と鉛筆を差し出したのだ。出鼻を挫かれたのだろう。そして、自分でもどういう顔をしたらいいのか分からなかったらしく、動揺したとも、嬉しそうともとれる…表現しがたい顔をしていた。
「仕方ないだろう。私を何だと思っているのかね。つい最近まで、私はれっきとした『危険度Aの吸血鬼』だったのだよ。そういう意味で、サインなど求められた事がなかったのだ。」
確かに、そうかもしれない。それでも、引き受けてくれたのだ。ロナルドと出会って、コンビを組み、ロナ戦関係のイベントにも同行する(させられる?)様になって、随分と変わったものだ…そう思う。
「形は違えど、畏怖は畏怖だ。悪い気はせん…ただの気紛れだ。」
そう言って、彼はプイっとそっぽを向く。苦笑して、彼の手元にあるメモ用紙を見る。そこにあるのは、様々な筆記体で書かれた自身の名前…サインの練習の痕跡だ。
『う~ん、おじさん。もうちょっと、センスのあるサインかけないの?』
『喧しい。文句が多いぞ、クソガキが。栄えある最初の一人だ、むしろ、光栄に…。』
『これ。なんか…おもしろみがないっていうか。こんどのロナせんのしんかんイベント、おじさんもでるんでしょ?それまでに、おしゃれなのかんがえといてよ。やくそくだよ?』
「無理矢理とはいえ、大衆の面前で指切りさせられたのだ。我々にとって、契約は絶対だ。破る訳にはいかん。」
「おほほほ。貴方をおやり込めた子ですもの。ご将来は、大物になるかもおしれませんわね。」
「やり込められてなぞいない。ガキ相手に面倒だから、何も言わなかっただけだ。」
私達が見ていたのもある…だけど、最終的に言い返しもせず、人ならざる者として約束を無碍にも出来ず…こうして練習をしているのだ。なんだか、温かい気持ちになる。
「相変わらず、絵が上手いな。これは、私達だろう?これでいいんじゃないか?」
「これかね?ますます、バカにされそうだが?」
書き散らされたサインに紛れて、手慰みに描かれたと思しき落書きを撫でる。片目に傷の入ったコウモリにマジロ、アンテナが付いた小鳥、そして、赤い帽子を被ったゴリラを描いたイラストだ。たまにしか、私も目にする事はないが…。
「あら、こんなの描いていましたの?お嫌ですわよ。私をゴリラに描くなんて…。」
「よく言うものだ。お嬢の皮は被っていても、心は惨いゴリラどうぜ…イタタタ!や、やめ給え、折れる!折れるというに!!」
「ヌー!!」
ちなみに、ロナ戦イベントの日は、私が仕事だったので、彼がその少年にどんなサインを書いてあげたのかは、定かではない。
だが、割とおチョロな彼の気質から見て、それなりに畏怖欲を満たせたのではないか…と思っている。