X以外のSNSでの投稿にはPrivatter+がおすすめです

佐久早とマラソン大会

全体公開 HQ 1 1329文字
2025-11-09 15:09:35
Posted by @tirichann

 秋の風物詩と言えば、部活に入っていない私にとってマラソン大会である。冬空の下半そで短パンになるだけでも嫌なのに、その上何キロも走らされるのだ。普段から走り慣れているならいいが、帰宅部ではせいぜい完走が目標だ。その目標を変えると言うのだから、私の想いは本物だと伝わっただろう。
「百位以内に入れたら付き合って」
 そう言った私に対し、佐久早は大して関心がなさそうに言った。
「入れたらな」
 どうせ私が入れないと思っているのだろう。どこか他人事の佐久早をぎゃふんと言わせるべく、私はトレーニングに励んだ。ダイエットをしていると近所の住民に知られる覚悟で、ジャージに着替えてランニングをしたりした。それでも本番のマラソン大会は厳しかった。上位に入賞しないといけない重圧からか、普段よりペースを上げてしまい息がどんどん苦しくなる。私はなんとしても佐久早と付き合いたいのだ。学校に戻ってきた時、座って待機している男子の中で佐久早が心配そうにこちらを見ているのがわかった。その頃にはもう、視界が狭くなってきていた。私はゴールしたら死ぬのではないだろうか。それくらいの筋肉疲労が襲っている。順位はもうわからない。ゴールを超えた瞬間に地面に倒れ込んだ私を、誰かが抱きしめるように助け起こした。
「よく頑張った」
 私は声で佐久早だとわかった。汗まみれの上に砂まみれで、佐久早の好きな清潔とは程遠いだろうに私を介抱してくれるのだ。佐久早は私を女子の待機場所に連れて行き、そのまま男子のスタートに並んだ。佐久早は十位以内で帰ってきた。改めて、私が好きになった人は凄いのだと実感した。
 私の順位だが、一応百位以内には入っていた。しかし佐久早の実力を見た今百位程度では佐久早と不釣り合いだと思うし、当日佐久早に迷惑もかけてしまった。百位以内なら付き合って、とは言ったものの、佐久早の方から順位を聞いてきたり目標を達成したから付き合おうと言われたりはしていない。つまり、そういうことなのだろう。
 そう思って私は「付き合ってないよ」と答えた。マラソン大会の日、私を抱き留めた佐久早を見て何人かが聞いてきたのだ。彼女達は納得して去って行ったが、代わりに大層不満だという顔をした佐久早がやってきた。
「お前は自分の発言に責任をとらないのか」
 自分の発言というのは多分、百位以内に入れたらというやつだろう。
「でも付き合う話とかしてないし」
「これからすればいいだろ」
 佐久早は「あれだけして付き合ってないとか言えるか」と言った。みんなの前で私を抱きしめたこと自体が恥ずかしいわけではないらしい。よくわからない男である。
「もしかして佐久早、付き合ってると思ってた?」
 私が言うと、佐久早は目を見開いた。図星らしい。佐久早は目線をあちこちへ走らせ、悶々とした表情を見せた後に「そんなことはない」と言った。嘘であることは目に見えている。佐久早のために、付き合う話をしてやろう。と思う私はかなり、佐久早に対して上に出ている気がする。佐久早はマラソン大会で上位に入賞するような凄い人なのに、恋愛に関しては案外うぶだと知ったからだろうか。目の前の佐久早が、ちょっと可愛く見える。




投稿にいいねする


© 2026 Privatter All Rights Reserved.