ピクスク様のオールジャンルイベント『魔法に夢中2』の参加作品です。
前回書いたお話の後日談になります。前回書いたお話は、こちらになります→ 憧れは、もう戻らない。(https://privatter.net/p/11608327)
元々、前回書いたお話に感想を頂いた時に、『意中の少女を喜ばせたいという執着が強いので、買いに行ったと思う』と答えた所で思いついたものです。
幼い頃に意中の少女が欲しがっていたという『ヒナイチレッド☆変身コンパクト』を、「チープな代物」と思いつつ、反転ドラルクさんがヌイザラスに買いに行くお話。ちなみに、挿絵でジョンが浮遊しているのは、ご主人の念動力で浮いてるだけです。
@kw42431393
反転ドラヒナの捏造設定はこんな感じです。
反転ドラルク:
強大な力を持つ我が儘で中二病の人外。再生能力を持たず、両親に甘やかされてきた為、刹那的な性格。
自分の監視員であるヒナイチに執着し、理性が衰える満月の夜に無理矢理想いを遂げる。胃袋と快楽による刷り込みを行い、彼女を自分に溺れさせようとする事に余念がない。
反面、彼女が無事でいて、毎晩監視に来て欲しい一心で、隠れて敵性吸血鬼達を暗殺したり、自首する様に催眠術をかけて回るなど、良くも悪くも一途な所がある。
趣味と実益を兼ねて、2回とも世界大戦に従軍して好き勝手に暴れた為、本人自身もさりげに顔は広い。
反転ヒナイチ:
吸血鬼対策課ヒヨシ隊副隊長を勤める若きエリート。ドラルクの監視員で、意地っ張りなくっころさん。
幼少時に、父親が忙しく構って貰えなかった為、本当は甘えん坊で寂しがりや。自分を甘えさせてくれる監視対象に父親像を求めていたが、心身を傷つけられ、快楽堕ち一歩手前まで追い詰められている。
夜と昼…どちらかの世界を選ぶ様に選択を迫られており、ドラルクに対して、愛憎入り交じった複雑な感情に苦しんでいる。
反転ジョン:
ドラルクの使い魔。落ち着いたムキムキの大人マジロ。
ヒナイチが来てから、太ってしまい、筋トレをハードにしたら、筋肉で丸まれなくなってしまった。元競マの帝王。
主夫婦がヤンデレ同士なので、仲立ちする等、苦労人気質。ドラルクの盾として、自身も戦闘に参加する。
「あれ?このアニメ…。」
棺桶の中で、共に時間を過ごしていた時の事だった。触れない日がないと言って過言でないほど、溺れ合っている私達だが、ただ、こうして並んで映画やプラネタリウムを鑑賞する…静かな時間も悪くない。そう思って、ヌマゾンプライムを立ち上げた時の事だった。
「これが、見たいのかね?」
「見たいというか…。」
彼女が興味を示したのは、チープな子供向けのアニメだった。戦闘に向かないワンピースを纏い、無意味な装飾が付いた剣や杖を持った少女達が、ポーズを取っている。正直、興味を引く様なものではなかったのだが…
「リメイクしていたんだな、と思ってな。私が子供の頃、好きだったアニメだ。」
そう言って、君は遠くを見る様な目を『ヒナイチレッド』と呼ばれるキャラクターに向けた…厳密には、その少女の胸元についている、ハート型のコンパクトに向けていた。
「懐かしいな…魔法美少女に変身する、あのコンパクトが欲しかったんだ。あれがあれば、魔法美少女になって、市民を守れると信じてたんだ。」
この目だ…と思う。再生能力を持たないばかりに、両親に甘やかされ、賛同できない事でも肯定して貰っていた私は…この目をした事がない。
意地っ張りで、いつも不機嫌そうなヒナイチくんだが、時折、この何かを置いてきた子供の様な目をする。個人的に彼女の身辺を調査し、問わず語りに聞いた言葉を繋ぎ合わせると…『白い羊膜を被って生まれて来た』この少女は、大人達の期待に応える為に、かなり無理をしてきたらしい。普通の子供が享受する、多くのものを諦めてきたらしい事が分かっている。
それだけに、私は彼女がこの目をする度に、諦めて来た『何か』を、自分の手で与えてやりたいという衝動に駆られるのだ。
「買ってあげようか?」
手元のスマホで、確認する。リメイクにあたって、そのコンパクトは再販されているらしい。見れば見るほど、ただの安っぽいプラスチックの塊にしか見えない。
いっそ、同じデザインで、本格的な物を作るべきか。いや、『その当時、手に入らなかった』物である事に意味があるのかもしれない。そうなると、金に糸目をつけずに作った所で意味はない…やはり、実際、この目で見てからにしよう。
「やめろ。私は、もう19だぞ。恥ずかしい。」
子供扱いされた様に感じたのだろう。不機嫌そうな声で否定はするが…
「…。」
だが…その瞳は、かつて憧れていた『魔法美少女』とやらを追いかけていた。諦めきれないのだろう?
やっぱり、そうしよう。たとえ、それが…
「おい。お前、つまらない事を考えてないか?」
意地っ張りな君が、「必要ない」と否定したとしても。
「…そういう訳で、ヌイザラスに来た訳だ。」
「ヌーヌーヌケ?」
そういう訳だけで、よく分かったヌって?まぁ、ヌンもドラルク様に出会って、ずっと連れ添って長いヌからね。だいたいの察しはつくヌよ。
「でも、よかったのかね?個人的な買い物だ。留守番していてくれていても、よかったのに。」
そのぐらい、同行するヌよ。ヌンも玩具で遊ぶ齢はとっくに過ぎて、最近の玩具はよく知らないヌけど、ドラルク様よりは分かっているつもりヌから。
「助かるよ。ところで…何故、皆、私達を見ているのだろうね?」
キョロキョロと物珍しそうに、店内を見回すドラルク様に、ため息をつくヌ。
あまり、おのぼりさんをしないで欲しいヌ。恥ずかしい事をしそうヌからね…とっくに、覚悟はしているヌよ。
言ってる傍から、ドラルク様はプラスチックのお面を取り出して、弄りだしたヌ。スイッチを押して、電飾が光るのと同時に声が出た事に驚いていたり…周りの視線がますます痛くなるから、やめて欲しいヌよ。
「ほう?たかが、玩具だと思っていたが…店内にあるもの、全てが玩具だとはな。昼の子供達は、こんなに様々な物で遊ぶのかね?」
遊び方も、多様化しているヌからねえ。そもそも、対象が子供だけとは限らないヌよ。
「そんなものかね。これは、チャンバラの剣?無駄な装飾が多いな…あ…。」
バキッ!!
「ヌー!!」
「…折れた。まあ、よい…ヴァ面ヌンジャー変身セット?何だか分からんが、弁償を兼ねて、この列全部買ってしまうか。将来、ヒナイチくんとの間に子供が生まれたら、使うかもしれん。」
やると思ったんだヌ!あと、ヒナイチくんに了解得てないヌしょ!?
「これは、トランシルヴァニア・ヴァミリー?そういえば、男の子とは限らん。女の子だった時に、使えるか。」
焦るヌンを尻目に、ドラルク様は、適当に玩具をカートに入れ始めたヌ。『店内の物を、全部貰おう』とか、イタイ事言いそうで辛いヌよ。
「おっと、いかん…忘れる所だった。『魔法美少女☆プリリアントレインボー ヒナイチレッド☆変身コンパクト』を買いに来たのだった。」
ここまでしといて、忘れないで欲しいヌ。帰ったら、ただの恥ずかし損だヌ。
「しかし、この広い店内で、小さなコンパクトを探すのは難儀だな。」
店員さんを呼べばいいヌ。別に、店員さん恐怖症とか、何でもないヌでしょ?
「ジョン、ちょっと待ってておくれ。全身を霧にして、店内をくまなく探してくる。」
店員さーん!店員さーん!お願いしますヌー!!
だから、ヌンは先手を打って、向こうに見えた女性に声をかける事にしたヌ。これ以上、恥ずか死(ヌンのみ)する前に、お城に帰るヌよ!!
「あら、ヌーくん?こんばんは、珍しいわね。」
「ヌンヌンヌ、ヌヌヌ…」
ふう、これで一安心だヌ。ヌイザラスのロゴが入ったエプロンを付けた女性が、こちらに来てくれたヌ。これ以上問題を起こす前に、目的の物を見つけて帰るヌよ!
「ジョンと話している所を失礼。『魔法美少女☆プリリアントレインボー ヒナイチレッド☆変身コンパクト』は、どこにある?」
「ひっ!?貴方は、ヌーくんのご主人の!?え?プリリアントレインボーの?えぇ…ぇ?」
そう言って、折角来てくれた店員のお姉さんが、思いっきり引いてしまったヌ。そりゃあ、そうヌよね。
言って悪いヌけど、ドラルク様は元反人間派に属していた、『危険度A』の吸血鬼ヌ。お世辞にも人相はよくないヌし、これまでの経歴か雰囲気に出ちゃってるヌ。それが…
「うん?何かおかしな事でも?」
「あ、いいいいえ!プリリアントレインボーのコンパクトですね!ど、どなたかにプレゼント…とか?」
カートに大量の玩具を詰め込んで、話しかけてきたんだヌ…そうなるヌよね。
「無論だ。うちの可愛いお嬢さんが、欲しがっているのだ。」
「お嬢さん…ああ、なるほど!お任せ下さいませ、こちらになります!どうぞ!」
そう言って、店員さんは、ヒナイチレッド☆変身コンパクトを、ドラルク様に渡してくれたヌ。とりあえず、目的は達したヌね。
「ヒナイチレッドですか?私も子供の頃、大好きだったんですよ!今の子達にも、大人気なんです。」
「そうらしい。私には、つまらんアニメとしか思えんが…あと、これにリボンもかけてくれ。」
お姉さんが、ニコニコ笑いながら案内してくれたヌ。
たぶん、店員さんはドラルク様が言う『可愛いお嬢さん』を、姪っ子か何かと思っているヌよね?彼女の中では、小さな姪っ子を可愛がる強面な吸血鬼になっているのかもしれないヌ。
「あぁ、そうだ!ヒナイチレッドの変身コスチュームも、売り出されているんです。こちらもいかがでしょう?」
ヌ、ヌーン…余計な事は言わないで欲しいヌ。親切な店員さんだというのは、分かってるヌけど。
「これか…ヒナイチくんがいくら小柄でも、サイズが小さすぎる。まぁ、これを参考に仕立て直せばいい…貰おう。」
「お買い上げ、ありがとうございます!!」
コンパクトをあげて、喜ばせたかっただけ…だったはずが、おかしな方向に行ってる気がするヌ。
嫌な予感がするヌ…
「あと、コウモリ伯爵…だったか?敵役の衣装は、売っていないのか?」
「申し訳ございません。コウモリ伯爵は取り扱っておりませんが、ジョアンヌイエローの衣装ならあります。」
「その剣とステッキも買おう。どうせなら、とことんやらねばな。」
予感じゃないヌ、終わったヌ…
『ヒナイチくん。今晩は、早く上がれるのだろうね?』
『さあな、状況による…何だ?ニヤニヤして。』
『フフフ…明日は非番だろう?疲れている君を労いたいだけだとも。』
『疲れているのは、誰のせいだと…クッキーはあるのか?』
『クッキーもあるが…君がずっと欲しかったという物を、手に入れたのだ。とにかく、早く帰っておいで。』
そんな物があっただろうか…今朝、昼の世界に戻る前に、彼と交わしたやり取りを思い出す。その側で、ジョンが困った様に笑っていたのが気にかかった。
「はあ…我ながら、疲れた顔だ。最近、忙しかったからな。」
時計を見る。望むと望まぬとも、いつもの夜が来る。いつもの勤務を終え、私が監視する吸血鬼の居城…屋根裏部屋に潜り込むと、私は荷物を置き、軽く身繕いをする。相手は隙あらば私を夜の世界に引きずり込もうと、執着している吸血鬼だ…弱い所を見せてはいけない。
「行くか…。」
頬を叩いて、気合を入れる。扉の隙間から、フワリと甘い香りが鼻腔をくすぐった…ドラルクが焼いてくれるクッキーの香りだ。
知らず、頭のアンテナがクルリと動いているのを感じながら、私は扉に手をかけた。
「吸血鬼ドラルク、今夜も監視に来たぞ。」
いつも通りの言葉と共に、屋根裏から上半身を出す。いつもなら、そこにはお茶の用意をしている彼と、可愛い使い魔の姿が、逆さまに見える…はずだった。それが、今宵は…
「やあ、わが城へようこそ!今宵も会えて嬉しいよ、私の可愛いヒナイチレッド。」
「ヌーン…。」
仮面を被り、大仰な仕草で赤いマントを翻す…不審な白髪の吸血鬼だった。側には、憂えた顔をした黄色いワンピースを纏ったマジロが控えている。
「…。」
何故だろう…どうにも嫌な予感がして、私は屋根裏に頭を引っ込めようとした。
「これ、待ち給え!何故、帰ろうとする?」
誰だ、こいつは…いや、本当は知っている。だから、扉を思いっきり、閉めようとして…
「ヒナイチくん!私だ、ドラル…痛っ!!」
そもそも、ここは『危険度A』の吸血鬼の住まい…そこでこんな奇行を起こして無事な者は、他にいない。
「あぁ…手袋が裂けてしまった。酷いじゃないか、折角、昼鍋して縫ったのに。」
「お、お前…何だ、そのトンチキな姿は。」
扉に手を挟まれて、痛そうに手を息を吹きかけているのは、ドラルクだ。一体、何を考えてそんな格好をしているのやら。今日は、ハロウィンではないぞ。
「トンチキとは失礼な。君の好きな『魔法美少女☆プリリアントレインボー』のコウモリ伯爵の衣装だ。よく出来ているだろう?」
明るい所で、よくよく見ればそうだ。それに…
「ジョンまで、つき合わされたのか。気の毒に…。」
「ヌン。」
労いたいって、こういう事か?
先日、棺桶で共にいる時に、一緒にアニメを見たのは事実だ。そこで、『魔法美少女に憧れていた』とは言った、『なりたかった』とは言った…だけど。
「君を喜ばせようと思ってね。200年以上生きてきて、吸血鬼生初のコスプレというやつだ。さてと…じゃあ、君も。」
「私にも、させる気か?よせ!私をいくつだと思っている!?」
ふざけるな!実力で負けて、お前に与えられるモノに抗えずに、好き勝手されてるのは認めよう。今度は、着せ替え人形か?いい加減にしろ!
そう怒鳴ろうとした。そのつもりだったのに…
『これを君に返そう、ヒナイチレッド。』
いつもと違う剣呑な声色ではなく、穏やかな声が降ってきた。剣ダコのある大きな手が、私の手を取って、小箱を握らせてきた。これは…?
「あ…お、お前…何を言って…」
握らされた小箱を軽く振る。カタカタと、プラスチックの音がした。包装紙には、ヌイザラスのロゴが入っている。
『コンパクトを奪われ、それでも諦めずに戦う君を見て、分かったのだ。私が惹かれたのは、君自身だ。吸血鬼殺しの力を秘めた、魔法美少女だからじゃない。』
コウモリ伯爵に扮したドラルクは、そう言って私の手に口づけを落とした。
「ドラルク?」
このセリフは…覚えがある。『魔法美少女☆プリリアントレインボー』の終盤で、ヒナイチレッドはコンパクトを奪われ、悪の怪人達に殺されそうになる。そして、それを助けに来たのが、組織を裏切ったコウモリ伯爵だった…ドラルクは、そのシーンを演じているのだ。
『私は、今でも君にこちらの世界に来て欲しい。人間共なぞ取るに足らん生き物だと思っている。素晴らしい君が、奴らの為に命をかける理由は理解出来ない。』
一緒に、アニメを見ていても思ったが…ドラルクは、コウモリ伯爵に似ているな。ヒナイチレッドに対する態度も、重すぎるその執着も。
『だが、君を失うぐらいなら…もう、こちらの世界には誘わない。』
「…」
『私が、君の元に行こう。命もプライドも要らない、私は君を守りたい。君を守る為に、戦わせておくれ。』
『ありがとう…コウモリ伯爵。』
この言葉を、現実のお前から聞きたかった。そうであってくれたらよかったのに。
現実の彼は、その執着を譲ってくれないだろう。あくまで、私が血を受け入れて、夜の眷属になる事を望んでいるのだ。そこだけが、決定的に違う所だ。
「フフッ、やっと笑ってくれたね?私も、なかなか役者だろう?このコウモリ伯爵とかいう奴、どうにもまだるっこしいとは思うが、どこか親近感もおぼえたのだ。何故だろうね?」
コウモリ伯爵から、ドラルクに戻ってしまった彼に苦笑する。お前は、これをチープなアニメだと言っていたじゃないか。わざわざ、ちゃんと見たというのだろうか?私を喜ばせる為に?
「さあ、今回のメインだ。開けておくれ。これまでのは、この為の余興だとも。」
「分かった、分かった…浮かれるな。この208歳児。」
手の小箱を撫でる。私の想像通りなら、この中に入っているのは…私の憧れの象徴だ。使命の為に捨てた…ささやかな夢だ。
『欲しがった理由が理解出来ない』と、言っていたのに、わざわざ行って探してきたのか?私を喜ばせる為に?
箱を開ける…中から出てきたのは、予想通りのコンパクトだった。
「…っ!!」
軽口ぐらい叩いてやるつもりだった。クスクス笑っている彼も、それを期待していたのだろう。なのに…
「っく…っ!!」
でも、それを見た瞬間、ずっと閉じ込めてきたものが湧き上がってくるのを抑える事が出来なかった。
「ヒナイチくん?」
「ヌーヌヌヌ?」
『全く、お前ときたら…要らないって言ったのに。子供扱いするな。』
そう言うつもりで、渡された箱を開けたんだ。
中に入っているのは、予想通り小さなオモチャ。それなのに…
「あ…っ…。」
「どうしたのかね?そんなに嫌…」
「ううん。そうじゃ…なく…て。」
その言葉は出なかった。覗き込んでくる1人と1玉の視線を避けて、後ろを向く。声が涙声になっているのが、恥ずかしさに拍車をかけた。
「…っ…」
「ヒナイチくん、大丈夫かね。泣かせるつもりでは…」
そうじゃない。嫌だから、こうなっているんじゃない。
確かに、誕生日にねだって売り切れていたから、諦めたのは本当だ。でも、その後に改めて買って貰ってもよかったのに、幼かった私はそれをしなかった。皆が求めているのが『可愛いヒナちゃん』ではなく、『強い吸血鬼殺し』である事に気づいたからだ。だから、鍛錬の方が大切だと、楽しいのだと言って…本当は持っていた『憧れ』を燻らせたまま、忘れたフリをして生きてきた。
なのに…改めて捨てて、諦めた『憧れ』の象徴を、自分を最も苦しめた彼が手に入れて、渡しに来てくれた、その事実が胸にこみ上げてきて…。
「…ち、ちが…う。」
声が出ない。『違う。嬉しいんだ。ありがとう。』
たった、この一言が出てこないのが、もどかしい。
「ヒナイチくん。じゃあ、こうしよう。」
「…っ、ちが…うったら。」
「それと、同じデザインで、ちゃんとしたコンパクトを作ろう。安心し給え、伝手はある。ドイツに有名な職人がいるのだ。」

必死に涙を堪えている私に、続けて、あいつは見当違いな言葉を投げかけてくる。
彼は、ただ、私を喜ばせようとしただけだったのだから。
だから、おかしな恰好をして、絶対行きそうにない場所にまで足を運んで…本当の私が好きな…優しい笑顔を浮かべているのだから。
「彼は、スターリングラードで私に借りがあってね。私の頼みを断る訳がない、君の気に入る物を作ってくれるはずだ。そうしよう?」
そう言って、ドラルクは大きな手を伸ばしてきた。拒否されたと思って、コンパクトを回収するつもりなのかもしれない。慌てて、コンパクトを抱きしめる。今度こそ、諦めたくない。
その瞬間、自分でも驚くほど大きな声が飛び出した。
「ち、違う!これがいい!これがいいんだ!」

一瞬、部屋が無音になる。大声の後、今度は自分でも驚くほど、弱弱しい声が続いた。
「あ、ありが…とう…。」
「あ、ああ…遠慮は要らないのだよ?私も金に糸目はつけん主義だ、気に入らなかった時の為に、見積もりはしてあ…。」
「ヌヌヌヌヌヌ!!」
ジョンは分かってくれているけど、ドラルクは首を傾げている。
ちゃんと、言葉にして伝えなければ…零れて来た涙を拭って、使い魔に窘められているドラルクに向き直る。彼には、何故私が泣き出したのかも、礼を言ったのかも、理解はしていないのだろうから。
「遠慮じゃない、嬉しくて涙が出たんだ。嘘じゃないぞ。」
そして、彼らの前で笑ってみせる。そのまま、プラスチックの塊に過ぎないはずの…コンパクトに頬ずりをした。諦めたモノが戻ってきたのだ、胸の内が温かくなるのを感じながら…頬擦りをした。
「ふむ…どういたしまして?よく分からんが、気に入ってくれたなら。」
「ヌンヌン。」
キョトンとした彼を見ながら、コンパクトを裏返す。記憶が正しければ…あった、これだ。
「これを、こうして…。」
裏側のスイッチを入れて、コンパクトを開ける。
色とりどりの宝石を象ったボタンを押すと、ピカピカと電飾が光り始めて…
『プリリアント☆レインボー!!皆、力を貸してくれ!!ヒナイチレッドに変身だ!』
あの頃の憧れだった…ヒナイチレッドの元気な声が、吸血鬼の居城に響き渡った。
オマケ
「それはそうとして…やっぱり、こうなるんだな。」
「いいじゃないか。魔法美少女になりたかったのだろう?」
ごめんヌよ、ヒナイチくん。

「ところで、時々動画で見る…文字とかが浮ているだろう?あれって、どうやっているのかね?」
「…何をするつもりなんだ?」
「折角だから、動画も撮るつもりでね。ヒナイチレッドは、髪が燃えているだろう?アルコール綿に火を付けて、念動力で浮かせようと思ったのだが、君の髪が焦げそうで…何か、おかしな事でも?」
「…。」


ドラルク様。その辺りの編集は、ヌンがやってあげヌから、そのまま撮るといいヌよ。
「うむ。さすがは、私のジョン。よろしく頼むよ。」
※ちなみに、コウモリ伯爵の全身イメージは、こんな感じです。
