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誰かを助ける手の隣で〜キリシタンすり抜け主と大和守安定〜

2025-11-11 17:47:48

安定編→こちら
薬研編→https://privatter.net/p/11755730
薬研と安定、解説→https://privatter.net/p/11710391

《誰かを助ける手の隣で》

さて、改めて挨拶しようか。
医務室預かり、薬研藤四郎だ。
自分の不調はもちろん、仲間や大将の不調で気になることは何でも報告してくれていい。もちろん誰から聞いたか本人たちには言わないから、気兼ねなく相談してくれ。

ま、つまり、何が言いたいかっていうとだな。
逆もまた然り・・・・・・、ってことさ。

医務室の中で起きることは何であってもトップシークレットだ。
事の大小を問わず秘密は守る。それが大原則ってもんだ。

第一なあ、大将は女人だぜ。
いくら裏表のない天衣無縫な大将だって、男所帯で言いにくいことの一つや二つや三つや四つ、無い方が不自然だろ。ただでさえ大将は自分の不調を隠しがちなんだ。

ちょっとの相談の遅れが命に関わることもあるのが脆い人の子だ。医務室を預かってからこっち、初期刀から近侍から番長連中、古参から新参まで、大将に不調は無いかと聞きにくる連中はひっきりなしに後を絶たないが応とも否とも答えたことは一度もないぜ。
古株連中はさすがにそろそろ諦めてくれたみたいだな。とびきり心配性な驚き好きの近侍がよーやく諦めてくれた、って言えば、俺の口の固さもわかってもらえるかい?

どんな些細なことだって、医務室の中で聞いた会話は他言厳禁。
たとえ折れても口は割らんさ。
常日頃その制約と誓約あってこそ、言いにくいあれこれをやっと打ち明けてくれるってもんだろ。

そう、この医務室の中は大将にとって、絶対の、安心して何でも打ち明けられる場所でないといけないんだ。

つーわけで、大将の体調について聞きたいっつーなら、俺から言えることは何もない。

帰った帰った。仕事の邪魔だ。
何度来たって俺の返事は同じだぜ。

ま、普段から離れて過ごしてる分、大将の健康がどうしても気になっちまう気持ちは、よーくわかるがな。こればっかりは諦めてくれ。

……どうしても、引き下がれない、って顔だな。
さて、どうしたもんかな。

そうか、大和守、あんたは大事な主人を流行病で失ってたな。引き下がるに引き下がれない、ってわけか。

そうだな、良い方法がある。
俺とここで終わりのない堂々巡りを続けるより、ずっと建設的でいい方法だ。
こっちに来い。

さて、本来は、ある程度当番を重ねた刀しか入れないルールなんだがな。
この部屋、包帯だの消毒液だの置いてある保管庫だ。右手の奥の本棚が医学書になってる。大将が少なくない額を注ぎ込んで買い与えてくれたもんだ。

この手の本はとにかく高価だ。持ち出しは許可できないが、こいつを自由に閲覧する許可をやる。

そら、あんたにはこれをやろう。この部屋の鍵だ。

そうだな、最初は、こいつと、こいつそう、この辺がいいだろうな。
人体の基礎知識、そして流行病を予防するポイントが詳しく書いてある。

わからない時はこれで調べるといい。もちろん俺に聞いてくれても構わない。

厨の連中も時々、栄養学だの病人食だの調べに来るぜ。
無駄に気を揉むより、自分にできることを一つでも多く探す方が、あんたには向いてそうだ。

……もう聞こえてないか。良い集中力だ。
俺は仕事に戻るとするかね。

さて、難しくて途中で諦めるか、あるいは。

大きく化けるか。
期待して待つことにしようぜ。









「あれ、大和守さん?」

早朝の冷たい空気の中、廊下を掃除する大和守を見つけ、堀川が不思議そうに声をかけた。

「あ、おはよう堀川」
「おはよう、早いね。今日の掃除当番、僕だった気がしてたんだけど、違ったかな」
「いや、合ってる。合ってるんだけど、その」

安定は照れくさそうに頬を掻いた。

「その、薬研に諭されたんだ。あれこれ心配するより、自分にできることを学べって」

箒で綺麗に掃いた廊下。
水に浸した雑巾を固く絞る。桶の水が冬の空気にキンと澄んでいる。

「それで、流行病は埃から入り込むって聞いたから……
「ああ」

堀川の表情に、素早く理解が広がる。
同じ新撰組の刀同士、それ以上の説明は要らなかったらしい。
余計なことは何も聞かず、にこっと笑った堀川は、素早く自分も掃除道具を手にした。

「じゃあ、手伝ってもらえた分、いつもよりもーっとピカピカにしようかな」
「うん、みんなを驚かせよっか」





「手伝ってくれて助かったよ大和守」

しいたけの天日干しを全て終わらせた歌仙は、ふう、と額の汗を拭って満足げに一仕事を終えた。

「旬の食べ物は病を遠ざけるからね。どれだけ手間でも手をかける価値がある」
「えっと、旬のものって、普通よりずっと栄養価が高いんだっけ」
「よく勉強しているね」

歌仙は感心したように頷いて、微笑んでこう言い添えた。

「そう、季節の成り立ちと人の体は不思議なものでね。旬物に含まれる栄養は、自ずとその時期に最適な場合が多い。夏の物は体を冷まし、冬のものは体を温めるといったようにね」

「同じ野菜でも、旬野菜に含まれる栄養は、数倍ということも多いんだ。特にしいたけは、こうして干すとビタミンが三十倍にもなると言われているそうだよ」
「へえ、そんなに大きく違うんだ」
「僕らの主人は大食漢という訳ではないからね。同じ量でもより滋養に良いものを食べさせてあげたいだろう」

歌仙はふっと空色の双眸を柔らかく細め、中庭を見遣った。
視線の先には、今は留守の彼女がいる。

彼女はよく休憩に、あの場所で短刀たちと鬼ごっこで遊んでいる。
安定は、同じものを透明な秋の空気に透かし見ながら微笑んだ。

「また手伝いに来てもいい?」
「もちろんだ。いつでも歓迎するよ」




「長谷部、また徹夜したの? よくないよ」
「この程度で体を壊すような柔な作りはしてない。第一、俺には主から任された仕事があってだな」
「そうじゃなくってさ。日頃から長谷部がそういう姿勢でいると、主がつい真似するかもしれないよってこと」
「なに?」
「親しい間柄だとついつい行動が似ちゃうってあるじゃない? 薬研に聞いたんだけど、ああいう無意識って、人なら結構誰でもそうなんだって。長谷部は総務番長でみんなのお手本なんだからさ。長谷部がそうだとみんなつい真似して無理しがちだし、それを主が真似したら、最初に体を壊すのは誰だと思う?」

ぐっ、と言葉に詰まった長谷部が、苦虫を噛み締めたような顔で黙り込んだ。

「やっぱり『示し』って大事じゃない? それって、こういう所でも同じだと思うけどなあ」
……この書類が終わったら今日は早めに切り上げる」

「おお!」
「すごっ! 長谷部が妥協したぜ!」
「もっと言ってやってくれよ大和守」
「長谷部しゃん何度言っても頑固ばい」
「ええい、うるさい! 散れ!」





「がんばってんじゃん」
加州清光がそう安定に笑って声をかけた。肩に肘を乗せてにっと笑う清光に、安定はくすぐったそうに払いのけた。

「この後は?」
「医療当番なんだよね」
「本番、当たったことあったっけ?」
「うんん、まだ」

この本丸には医務室で待機する医療当番がある。
重傷の刀が担ぎ込まれて来た時に対応する係だ。

医務室預かりの薬研を頂点に、その指揮下に交代で、新人の刀と、それをフォローする熟練の刀が必ず一振りずつ。
合計三名で、第一部隊の手入れ部屋の利用を支援するシステムだ。

この本丸、審神者は留守だが、手入れ用に残された霊力は十二分。札の助けを借りれば、自分たちだけで治療が可能だ。

だからこそ、少しの油断が折れる事態に繋がりやすい、とも言える。
これはそれを防ぐための仕組み。
負傷者が担ぎ込まれると同時に、医療当番が迅速にトリアージ。傷が重い刀から順にスムーズに手入れ部屋を利用できるよう手助けする。この本丸では主人不在を補うために、彼女が定めたこの仕組みに則って治癒を行うのがルールだ。

「ほら、なにせ自分で治療できちまうだろ? 困ったことに、隠し持った手伝い札でこっそり直して『無かったこと』にしようとする奴が後を絶たなくてなあ」

そんな真似をすれば、普通は手入れ部屋に残された霊力がごっそり減ってすぐに発覚する。
ところが主人の霊力は規格外だった。

「いくら霊力を浪費してもびくともしないんじゃ、後で見つけようがないだろ? ってことで、こうして隣部屋に見張りを立てることにしたってわけさ。それがこの医務室の起こり。元は資材倉だったのを改造したんだ」

夜に紛れて手入れ部屋に忍び込もうとする刀を察知するために配備された、偵察値が高い極短刀。
それが、医務室預かりとして薬研に白羽の矢が立った、その始まり。

「大和守はまだ実際に『当たった』ことは無かったな」
「うん。打ち稽古で怪我人が出た時、本当に軽傷で流れを練習させてもらっただけ」
「できれば本番の前にもう少し練習させてやりたいところだが、」

ぴくっ
と薬研が眉を跳ねさせ、素早く腰を浮かせた。

「あいにく、噂をすれば、だ」

第二部隊緊急帰還!
負傷者三名!!

外の声を聞きつけ、薬研はデスクの上の呼び出しボタンを拳で叩くと同時に駆け出した。鳴らされたブザーが激しく音を立てる。

ガラガラと鳴り響く玄関ベルに、薬研が玄関へ飛び出した頃には、太鼓鐘に肩を貸された山姥切国広が、ぐったりと血まみれでそこに居た。

「状況説明!」
「すまねえ、伏兵の奇襲だった!」 
「『いの一』は!?」
「居ない! ろの一、ろの二、はの一!」
「よし、ろの一、ろの二から奥へ!」

この本丸では負傷者の分類を二段階に分けている。
いが重傷
ろが中傷
はが軽傷
「いの一」とは、まさにいの一番、お守り発動寸前で、今すぐ手入れを行わなければ折れる危険がある最優先治療対象者のこと。
つまり、これは、中傷が二名で軽傷が一名。加えて、現地でトリアージの1回目が済んでいることを指している。

主不在の手入れ札の使用で最も危険なのは、外傷に潜んだ呪詛などの特殊な傷、毒などが、塞がった傷の内部に残存する事態だ。
審神者による通常の手入れであれば、主が慎重に見聞しながら段階を経て霊力で洗い流すから問題ない。だが、主人不在の中で一律に札で傷を塞いでしまうと不測の事態が発生するリスクがある。
これはそれを避けるためのダブルチェック。現地で確認が済んでいない場合は単に「中傷2名、軽傷1名」と報告される。いろはの番号を使うということは、既に隊長の太鼓鐘によって最低限それらは見受けられないと見聞済ということだった。

三振りの刀が医務室に担ぎ込まれたのと同時に、駆け込んできたのは、安定と交代で休憩に出ていた当番の歌仙兼定だった。

「遅れてすまない!」
「ろの一、二、はの一だ! ろの一から順に剥いてくれ」
「了解!」

残り二振りをベッドに寝かせ、一番重い番号が当てられた山姥切国広の戦装束を剥がして泥も落としていく。
腹に一撃を貰っていた山姥切は、ぎりぎり重傷手前といった様子だった。

「修正だ、赤に近い! 白だ、手入れ部屋!」

赤は重傷
黄は中傷
緑は軽傷
そして白は、清めた水で傷を洗い流しても反応がなく、呪詛等が見受けられないという意味だった。

意識が危うい山姥切が、安定に肩を貸され、ほとんど引きずられるようにして手入れ部屋へ入っていく。
中の布団に寝かされた山姥切が、ぴく、と動いた。
……っ」
「待って、動かないで。今手伝い札を、」

大和守の腕をがっと掴んだ山姥切が、消え入るようなか細い声ではくはくと何かを伝えようとしていた。
手を止め、急いで耳を寄せた安定は、次の瞬間、大きく目を見開いた。

「よし、黄だな。次は……
「薬研、待って! 紫かもしれない。山姥切が現地でおかしなものを見たって!」
「なに?」

隣の手入れ部屋から慌てて戻ってきた大和守に、薬研は顔色を変えた。
途中で一度止めた見聞の手を、一層慎重に走らせていく。

……お手柄だ大和守。紫! 御神刀を呼んでくれ!」





「お手柄だったらしいじゃないか、大和守」

鶴丸が軽やかに、安定の肩を背後から二度叩いた。

「貞坊が感謝してたぜ。現地じゃ分からなかったらしい」
「うんん、僕は何も……山姥切がヒントをくれたから」
「それでも、さ。ああいうのは、その小さな違和感ヒントってやつをいかに拾えるかが肝だからな」

運命の分かれ道。そんな瞬間は日常的にやってくる。戦場に立ち続ける自分たちには。
嵐の中で雨粒を避けることなどできない。足を滑らせれば落ちるのみ。

「やっぱり彼女が居ない中での手入れは油断できんな」
「そうだね。すごく怖いなって思う。こんなこと言ったら、笑われるかもしれないけど……
「いいや」

鶴丸国永は、金彩の双眸をすっと細めた。
やがてパッと明るく破顔した。まるで、何かを見定め、ひどく望ましいものを見つけたかのように。

「どうやら薬研の見立ては正しかったな」
「え?」
「向いてるぜ。その怖さがわかるってのは」





「えっ、僕が副隊長!?」

このたび、長らく『医務室預かり』の任を与えられていた薬研藤四郎がその任を解かれ、続けて正式に発足した医療班の隊長を拝命した。
そして、彼を支える副隊長に、安定が指名されたのだと。
そう言われた安定は始終、「まさか自分が?」という顔をしていた。

「今すぐじゃなくていいの。安定にはこれまで通り、薬研が不在の時『医務室預かり』を正式に引き受けて欲しい」

大広間に安定を招き、上段の間に座った彼女は、わたわたと慌てた様子の安定を見守りながら、にこにこと微笑みを絶やさなかった。
隣に伴った加州清光は、事前に聞いていたのだろう、動じることなく静かに成り行きを見守っている。

「そうして、安定が『今』って思えたら、副隊長を引き受けて欲しいんだ」

安定が極の旅から帰ってきたことで、薬研は入れ替わりに長い休暇に入った。存分に羽を伸ばし、思うままに諸国を行脚し、そして各地の医療を見て回ってから、政府の軍医研修をいくつも受けて戻ってきた。

今後薬研は、軍医として第二部隊の任務に時折同行する手筈になっている。
後方支援本丸において、政府から申し渡される第二部隊の長期任務は、前線本丸のための露払い役であり、時間遡行軍の強襲を受けやすい。
それを軍医として現地でカバーすることで、遠征先からの生還率を確実に引き上げる試みだった。

薬研が休暇の間、不在の医務室は交代で皆で守っていたが、中でも中心になって皆を支えていたのは、番長補佐の歌仙兼定、そして薬研からお墨付きをもらった安定だった。

「でっ、でも僕! 薬研と違って、トリアージの経験もまだまだ足りないし」
「この本丸の誰よりも的確だって、薬研からお墨付き貰ってるの知ってるよ」
「医務室の本、半分も読めてないし」
「あれは私が医学部時代に使ってた教本資料だよ。半分近くも読破した刀は薬研以外には安定だけ」
「でっ、でも、でもでも」
「不安?」
…………うん」

こくり、と頷いて、安定は俯いた。

「学べば学ぶほど、人間って繊細だってわかるんだ。病気も怪我も流行病も、命を奪いうる恐ろしいものは無限にあふれてて、なんでこんなに脆いのに、無事に生きて動いて、元気で笑ってるのか分からないぐらいで」

「生きてるって奇跡的なバランスだって思い知る。沖田くんがいてくれたのも、あなたが今ここにいてくれるのも、途方もない奇跡だってわかるんだ」

「それを護るって、途方もないんだ。敵を斬るだけじゃぜんぜん足りなくて、終わりがなくて、護る全部に果てがなくて、僕の手なんかじゃ全然届かなくて、そんな、そんな終わりの見えない道を歩くのが、お医者さんなんだって思ったら、僕、すごく怖くて」
「うん、うん」

「そうだね。そうだよね。生きるって、途方もない奇跡でできてる」

「聖書にもね、こんな言葉があるの。髪の毛一本、爪一枚、自分で作ったものはなかろうに、って」

「ここにある全部が奇跡なんだ。人って奇跡でできてる」

「できるのは、ほんのちょっとの手助けだけ。そんな道を歩くのに、どうしても必要なものがあるんだ。なんだと思う?」
……わかんない。必要なものが多すぎて、どれかなんて選べないよ」
「安定は、本当に向いてるね。薬研の言う通りだったなあ」

彼女は嬉しげに微笑んで、こう続けた。

「医務室を預けた時、薬研に聞かれたんだ。厨を任せれば厨番長、教育を任せれば教育番長。じゃあ、俺が『医療番長』じゃないのは、意味があることなんだろ?って」
顔を上げた安定に、彼女は微笑んだ。
「そう。薬研には医務室を『預けたい』んだって。だから、たとえその中で何が起こっても、それは薬研じゃなく、預けた私の責任だから、って、私は答えたんだ」

「そう簡単に医療番長なんて立てられない。だって、途方もないんだ。果てがないんだ。責任の重さに潰れてしまう。だから、ただ預かっていてって、お願いしたの」

「いつか、薬研とその重さを、分け合ってくれる誰かが見つかるまで」

安定は息を呑んだ。
彼女はふわっと微笑んだ。

「誰かを助ける道を行くのに、必要なものはたくさんあるね。でも、かけがえないのは、険しい道を共に行く仲間じゃないかな。私はそう思う」

「誰かを助けるのに、誰かが潰れてしまう医療なんて医療じゃないよ。そんなのただの命の交換だ。だから、支え合うことが必要なんだと思う。たとえ手のひらが血に塗れて、助けられなかった咎を背負う日が来ても。一緒に歩いてくれる仲間がいるなら、前に進める。そうすればすぐにまた、自分にしか助けられない誰かが目の前にやってくるから」

「安定はすごいね。誰のそばにもいてくれる。いつの間にか寄り添って、いつの間にか隣にいて、いつの間にか一緒に悩んで、考えて、笑い合ってくれる。安定がいるとね、誰も一人にならないんだ」

「優しいが強いって、みんなが言うその意味が、よくわかるよ」

「安定ならきっと、薬研の隣にもいてくれると思った。あなたしかいないと思った。それが、安定を指名した理由」


「本当はね、ずっと前から薬研は覚悟を決めてくれていたんだ。いつでも隊長を背負う覚悟を、時にブラックを切り捨てる覚悟を、わたしに示してくれていた。わたしがその苦しみを一人で負わなくていいように、一緒に背負うと言ってくれていたんだ」
「私はいいの。長年医者をやってるから、ほんとはその覚悟はちゃんとできてる。でもね、わたしにはみんながいてくれるけど、わたしのいない本丸に薬研を独りにはできなかった」

「だからずっと待ってたの。わたしがいない本丸で、薬研を独りにしないでくれる刀が見つかるのを」

「ほんとは、ずっと前から薬研には推薦を貰ってたんだ。きっと大和守以上に向いてるやつはこの本丸にいないって。大和守にだったら、俺は背中を任せても後悔しないって。わたしもそう思ってた。でも、まだちょっと早いねって、加州とずっと話し合ってたんだ」
「清光と?」
「うん」

「やっぱり、安定をいちばんわかってるのは、かしゅーだもんね」
微笑みを向けた主人に、加州清光は無言で微笑みを返した。
「極めて帰ってきた安定を見て、思ったんだって。今の安定なら大丈夫だって」

「安定、わたしと一緒に悩んでくれないかな。薬研と一緒に戦ってくれないかな。安定がいいんだ」


to be continued


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