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酔夜の終わりに

全体公開 神無三十一受け 4 14 2778文字
2025-11-21 16:53:15

カルみと 酔っ払いの話
シナリオネタバレあり
刑事探索者宿舎時空

 

 賑やかな仲間たちの声が、酒の匂いと部屋の熱気をかき混ぜる。
 その日は合同捜査がようやく終わった日で、数名の刑事たちを中心にして慰労会が企画されたのだ。
 とはいえ、賑やかなことが大好きな企画者たちによって用意された場は慰労会とは名ばかりの飲み会で、どんちゃん騒ぎが苦手な刑事たちは早々に食事を済ませると部屋に戻って行った。
 そうして現在のリビングには、まだ飲み足りない刑事たちと、酔っ払ってこの場を離れられない刑事たちが居座っている。

 「それでねそれでね、そのときの先輩がね、もう少し寝ようよって袖引いてくれてぇ!それがもうかわいくてかわいくて……!」

 テーブルの中心で先輩の刑事たちにくだを巻いている神無三十一もまた、後者に所属する筆頭だった。
 拳を握って熱く語る彼の姿を酒の肴にする聖とアキラは、ニコニコを通り越してニヤニヤと含み笑いを浮かべたまま相槌を打つ。

 「そっかぁ〜二人きりだとそんな感じなんだ〜」
 「それはかわいいな〜」
 「でしょお!?せんぱいってじつはそゆとこあってさぁ〜!この前なんかも……!」
 「…………、」

 つらつらと惚気話に精を出す神無の隣では、彼が語る『先輩』とは似ても似つかない真顔の縞斑狩魔が酒を傾けていた。
 向かいの席に腰を下ろしている帰代も普段は、可愛い後輩である神無をたぶらかす不届き者を見る目を向けているものの、今回ばかりは同情の眼差しで彼のことを眺めている。

 神無はどうやら、間違えてアキラの酒を飲んでしまったらしい。
 場の空気に流されて気分酔いしているだけだろうと考えていた縞斑は、彼が手に負えないほど酔っ払うまでそれに気が付かなかったのだ。
 最初は部屋に連れて帰ろうとしたり、水を飲ませようとしたり奮闘した縞斑だが、ことごとく拒まれてついに見守るだけとなっている。

 「縞斑、その……大丈夫か?」
 「……もう諦めたよ。明日起きて恥ずかしさで爆発でもすれば少しはこの子も反省するでしょ」
 
 思わず心配の声を掛けた帰代に対して、縞斑は一周回って吹っ切れたのか痛くも痒くもないと言った様子だ。
 神無はどれだけ酔っても翌日に記憶が残るタイプの人間である。明日の朝に目を覚まして自身の失態を振り返れば、多少は人前で酒を飲むことを控えるに違いない。
 恋人が蕩けた様だけでなく、その恋人にしか見せない顔を暴露され続けている縞斑の呆れた様子に同情が勝った帰代は、テーブルの上のカプレーゼを彼に取り分けてやった。

 「せんぱいはね〜かわいいの。大人だなーって思うところも多いけど、すっごいかわいい」
 「うんうん」
 「かわいいってね、すごいんだよ。だってさいきょーじゃん?おれもかわいーからわかんの」
 「そっかぁ、三十一は可愛いもんなぁ」
 「うん!おれめちゃくちゃかわいい!」

 そんな彼らのやり取りなどつゆも知らずに、神無は尚も両手で酒のグラスを握ったまま回らない舌で惚気話を続けている。
 そんな彼のことが面白くて仕方がないアキラが頭を撫でれば、赤い顔を嬉しそうに緩めて神無がその手に擦り寄った。
 可愛らしい後輩たちの交流を見守っていた聖はふと、悪戯心を覚えて神無へ身を乗り出す。

 「ねぇ三十一ちゃん。三十一ちゃんは大人でかっこいいだらだら先輩と、可愛くて甘えんぼなだらだら先輩ならどっちがすき?」
 「おい聖……

 そのあたりでやめておけと嗜める帰代に、まぁまぁと軽い笑顔を向けた聖は、面白いものを観察するような眼差しを神無へ向けた。
 先輩たちのおもちゃにされているとも知らず、帰代特製のりんごとはちみつのクラッカーに舌鼓を打っていた神無は、うーんとしばらく考え込んでから口を開く。

 「どっちもすき!」
 「どっちも?」
 「そう!どっちも知ってるのおれだけだもん!」

 ふにゃりと嬉しそうに笑う神無は酒に酔っていたが、それでも縞斑が好きで好きでたまらないという愛情が十分に伝わっていた。
 そんな最年少の純粋無垢な笑顔に浄化されたような気分になった聖は胸を押さえると、神無の隣でますます複雑そうな顔をしている縞斑の肩を叩く。

 「よかったね先輩?」
 「うるさいな……
 「せんぱいうれしー?」
 「はいはい、嬉しい嬉しい」

 聖の手を払いのけて、上目遣いの神無を適当に宥めた縞斑だが、そんな彼の対応が神無は気に食わなかったらしい。
 むぅと唇を尖らせた彼は身を乗り出すと、結んだ縞斑の唇に自身のそれを重ねる。
 酒の匂いと、蜂蜜とリンゴの爽やかな香り。思わず縞斑は言葉を失って呆然と目の前にある長いまつ毛を見つめた。

 「あら」
 「おぉ」

 聖とアキラの感嘆の声も聞こえていないらしい神無は、ちゅ、と可愛らしいリップ音を立てて離れると縞斑の顔を見上げる。
 
 「ちゃんとこっちみろ」
 「神無ちゃ、」
 「にゃは、せんぱいがいつもいってるせりふ!」

 ぽかんと口を開ける縞斑の表情を見て幾分か機嫌が治ったのか、神無はくふくふと嬉しそうに笑うと縞斑の胸に顔を埋める。
 
 「あんたしかみてないのに……ほんと、かわいーの」

 愛おしげにそう呟いて頬擦りをした神無は、やがて縞斑の腕の中ですやすやと穏やかな寝息を立て始めた。
 呑気なその寝顔を眺めた縞斑は、深い深いため息を吐くと神無の体を横抱きに抱えあげる。

 「……寝かしてくる」
 「おつかれー」
 「いや〜いいもん見たなぁ」

 若者の恋愛を酒の肴にする物好きな男たちをじろりと睨みつけた縞斑は、それ以上の言及を諦めて神無をベッドに寝かせるべく歩き出した。

 「あんなに想われるなんて幸せ者だねぇ」

 そんな彼らの背を眺めていた聖は、手の中のウイスキーのグラスを揺らしながらしみじみとそう呟く。
 揶揄いと羨望が混ざり合うその言葉に一度足を止めた縞斑は、ちらりと笑顔の彼を見やると本日何度目か分からないため息をついた。

 「……言われなくても分かってるよ」
 「おやまぁ」
 「あらあらぁ」
 「…………お前らももう寝てくれ、頼むから」

 特大の惚気を食らって思う存分茶化す姿勢に入る聖とアキラに対して、頭を掻いた帰代は懇願に近い声色でそう促す。
 後輩の恋路を酒の肴に盛り上がる面倒臭い男たちの介抱を帰代に押し付けた縞斑は、腕の中で呑気にむにゃむにゃと眠る神無を見下ろした。

 「明日は説教かな」

 放っておいても恥ずかしさのあまり悶絶して反省するだろうが、改めて人前で酒は飲まないという約束を取り付けなければならない。
 そう心に決めた縞斑は最後にひとつため息をつくと、僅かに熱を持つ頬を誰かに見られるより先に部屋へと急ぐのだった。



 


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