秋のお散歩デートをするヌヴィリオ。甘いホットチョコレートを堪能しながらイチャイチャしてるだけの話。
@otroom0v0
暖かい日差しと、ひんやりとした風。厚手のジャケットがちょうどいい季節になったな、とリオセスリは表情を緩める。色づいた葉が舞い散るルキナの泉は、とてもいい景色だった。絵葉書があれば一枚買いたいところだが……などと考えているうち、巡水船乗り場に通じる道から、待ち人がやって来る。 ライトグレーのスーツに紫紺のベストを合わせた彼は、珍しく髪を編み込んでいた。肩に流れるひと房の三つ編みは、緩やかなのに美しくまとまっている。その姿につい見惚れていると、目の前にやってきた彼――ヌヴィレットがふふっと微笑んだ。
「ごきげんよう、リオセスリ殿。待たせてしまっただろうか」
「いや、さっき到着したところさ。それよりあんた、今日は珍しい格好をしてるな」
「リオセスリ殿と過ごす休暇ということで、少し緩めてみたのだが……こういった装いは好ましくなかっただろうか」
ほんの少しだけ、不安そうな気配。リオセスリは声を潜めて「よく似合ってる。そういうあんたも好きだ」と素直に伝えた。するとたちまち、ヌヴィレットが嬉しそうに顔を綻ばせる。そんな彼の前に進み出ると、肩を軽く叩いた。
「立ち話はやめよう。時間がもったいない」
「そうだな」
目を合わせて互いに微笑むと、並んで歩き始める。今日は秋の行楽ということで、エリニュス島を散策しようと約束していた。といっても、山登りなどはしない。ごく普通に歩き回れる範囲で、紅葉を眺めて楽しむつもりだ。
まずはルキナの泉の周辺を歩いてみる。植木の多くは常緑樹だが、植えられている花は季節に沿ったものばかりだ。ネリネやアスターの控えめな彩りが、心を和ませる。するとヌヴィレットが口を開いた。
「フォンテーヌ廷にいると、季節の移ろいをあまり感じないのだが……こうして外へ出ると、秋が深まってきたことが分かる」
「そうだな。俺も水の下にいるから、冬以外はあまり分からない」
「冬はやはり、冷えるのか?」
「ああ、それはもう。今はパイプを利用して暖房をきかせているが、それでもかなり冷え込む。俺が管理する前は凍死するやつもいたくらいだ」
「体調にはくれぐれも気を付けたまえ。必要なものがあれば、遠慮なく申請するといい」
「そうさせてもらうよ。ありがとう、ヌヴィレットさん」
最高審判官という立場上、ヌヴィレットはメロピデ要塞に関与することが出来ない。だが、こうして何かと気遣ってくれるところは好ましいと思う。
さりげなくヌヴィレットの腰に触れると、彼の小さな笑い声が聞こえる。見れば、目が合った。その甘い眼差しが全てを物語っている。気恥ずかしくなってそっと視線を外したリオセスリは、ある売店に目を留めた。
「……お、ショコラを売ってる店があるじゃないか」
寒い季節に恋しくなる、温かいショコラ。するとヌヴィレットが懐から財布を取り出した。
「私が買おう」
「いいって、自分の分くらい買える」
「君にご馳走したいのだ」
そんなことを言われたら断りにくいじゃないか。リオセスリはふっと笑って肩をすくめると、大人しくご馳走になることにする。ショコラ売りの青年は、ヌヴィレットを見た瞬間、緊張してぶるぶると震え始めた。紙コップからこぼさないか心配したが、どうにか無事、二人分のショコラを用意してくれる。支払いを済ませて離れると、リオセスリはくくっと笑いを噛み殺した。
「いつもと服装や髪形が違っても、最高審判官の威厳は健在だな」
「リオセスリ、からかうのはやめてくれ」
「はいはい」
気持ちが落ち着くのを待って、ようやくショコラに口をつける。チョコレートの濃い甘味と、ミルクのまろやかさ。ここにマシュマロも浮かべれば、もっと美味しくなっただろう。コーヒーの粉を混ぜてもいい。そんなことを思いながら飲んでいると、不意にヌヴィレットがリオセスリの腰を抱いた。
「……いいのか?」
「人気がなくなった今なら問題ない」
「なるほどな」
そのまま静かな休憩所に入ると、ベンチに並んで座る。そうするとさらに引き寄せられて、リオセスリは笑ってしまった。
「寒いからって、俺で暖を取るなよ」
「愛しい君を近くに感じたいのだ」
ショコラよりも甘ったるいセリフに、ますます気恥ずかしくなる。
「俺を口説きたいなら、二人っきりの部屋で頼むよ」
「善処する」
ああ、これは言うことを聞きそうにないな。呆れてしまったが、いつも離れている分、余計に恋しくなるのだろう。それはリオセスリも同じだった。
そっとヌヴィレットにもたれかかると、二人きりの穏やかな時を過ごす。甘いショコラが、身も心もほっこりと優しく温めてくれた。