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「楽しんできなよ」

全体公開 1258文字
2025-11-25 00:00:08

越知

Posted by @uk_plus_



 唐突な報告と何故だか申し訳なさそうな表情をしている彼を目の前に、私は何も理由がわからずただただ硬直して一言を漏らした。

「行けば、いいのでは?私の意見、関係なくない?」

私のそんな言葉を聞いた彼は元々青髪で隠れている顔を上げて、ぽかりと口を開けていた。

「いい、のか?」
「えっ?むしろダメな理由って何?」

お互いに疑問符を浮かべた顔をしながら見つめ合い、私と月光は同じように小首を傾げた。


 事の発端はこうだった。週末も近付こうという頃に毛利君から月光へ連絡があったらしい。それは本当に急なことだったが、要はそれくらい毛利君にとっては緊急だったのだ。

「アイドルのライブへ一緒に行ってほしい?」
ああ」

どうやら元々二人でライブへ行く予定だった友達が、急用により不参加になったらしい。おまけにライブの予定も近々だったため焦った毛利君は“頼れる先輩”である月光に声をかけた、ということだった。やはりイベント事ではそういったアクシデントがつきものなのだなあ、なんて呑気に思いながら私はそれでと口を開く。

「月光は行けるの?」
「よ、予定は特に、ない」
「じゃあ行きなよ」
いいのか?」
「何故私に聞く?」

その問い返しの意味が全くわからない私は思わず怪訝な顔をしてしまった。そして思考を巡らせてみる。その日は何か月光との予定があっただろうか。それとも別の予定――または単純に月光が体を休めるつもりだったか。様々考えてうんうんと唸る私を見て、月光はおずおずと言葉を溢した。

「嫌ではないのか?」
「え?何が?」

 そして話は冒頭に戻るのである。
 どうやら月光は、私がそういった類のイベントに“彼氏が”行くことを嫌がると思ったようだった。

「別に、友達との予定なんだし、むしろ楽しんでおいでよ!」

そう言って月光の肩を叩くとそうか、と不思議そうにするので、私はすぐに毛利君へ連絡をするように促す。

「それで毛利君は助かるしさ。月光あんまりそういうの行かないだろうから社会勉強だと思って参加しといで」
「社会、勉強」
「そそ」

にこにこ笑って返事をすればわかったと月光はスマホを持って部屋を変え、毛利君に電話をしに行った。そんな彼の背中を見ながら私ははたと思う。

「私がそういうの行ったら、月光は嫌なのかな?」

そう考えて、私の動向ひとつで百面相する月光を思い浮かべるとなんだか可笑しくなってしまった。私の彼氏は存外可愛い人なのだな。なんてことを思いながら、私は月光の電話が終わるのをにやにやしながら待った。

 数日後。毛利君とライブへ参戦し、随分と楽し気にして月光が帰宅したのは、また別のお話だ。





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