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愛の影にふれる

全体公開 神無三十一受け 5 18 1897文字
2025-11-28 15:55:29

カルみと 寝落ちする話
シナリオネタバレあり

 長引いた仕事をようやく片付けて、神無の自宅へ向かったら、家主が廊下に落ちていた。

 「……神無ちゃん?」

 玄関扉を開けた途端目の前に広がった光景に、思わず心臓が飛び出してしまいそうになった縞斑は、すぐに元刑事として染み付いた緊張感のまま彼へと駆け寄る。
 廊下で丸くなった神無の口元に手をやって呼吸を確かめた縞斑は、彼が眠っているだけだということを確かめて小さく息を吐いた。

 「なんでこんなところで……

 今晩は恋人である神無と会う約束をしていた。
 しかし、縞斑の仕事が想像以上に長引いてしまい、到着が深夜になってしまうから気にせず眠っていて欲しいと伝えたのだ。
 神無と縞斑の逢瀬においてこれは珍しいことではなく、神無もいつものように『仕事お疲れ様』というメッセージと、スイーツに手足と顔が生えた不思議な踊りを踊るスタンプを寄越していた。
 ところが今夜の神無はどうやら、ベッドではなく廊下で毛布を被って丸くなっていたのである。

 「……待ってたのか」

 神無は普段から口にしないだけで、縞斑との年齢差を気にしていた。
 一回り以上歳下である自分が、子供っぽい振る舞いをして縞斑に呆れられてしまわないように。背伸びをするそんな姿も愛おしいと見守っていた縞斑だが、募った不安が溢れてしまったのかもしれない。
 物分かりが良い神無に甘えていただけなのかもしれないと反省をした縞斑は、額にフローリングのあとつけた神無の体を抱き上げる。

 「ん……ぅ?」

 そのとき、腕の中の神無が身じろぎをした。
 眠たげに目を擦った彼はゆっくりとした仕草で視線を持ち上げると、縞斑の姿を捉えて首を傾げる。

 「せんぱい……?」
 「おはよう。起こしちゃってごめんね」

 まだ意識の覚醒しきっていない神無は、謝る縞斑に向けてふにゃりと蕩けた笑みを浮かべ両手を伸ばした。

 「おかえりせんぱい」
 「ただいま、神無ちゃん。こんなところで寝たら風邪引くよ」
 「んー……ひいちゃおっかなぁ」

 寝起きの肌寒さを慰めるように縞斑に擦り寄っていた神無は、愛おしげに縞斑へ抱きつくと舌ったらずな声を上げる。

 「そしたらせんぱいのこと、ひとりじめできるから」
 「……そんなことしなくても時間は作るから、好きに甘えていいんだよ」
 
 改めて神無の我慢している感情に触れた縞斑は、罪悪感に苛まれて僅かに眉を寄せるとそう語り掛けた。
 腕の中でぼんやりとしている神無はおそらくまだ寝ぼけているのだろうが、縞斑は彼の不安を少しでも取り除けるように言葉を選んでいく。

 「君が思う以上に、俺は君のことが好きだと思うから」
 「……すき?」
 「そう。もちろん全てに応えることはできないだろうけど……多少の無理をしてでも会いたいと思ってる」

 ぱちりぱちりと瞬きをしながらその言葉を聞いていた神無は、やがて眠たいなりに意味を理解したのか嬉しそうに笑みを浮かべた。

 「ほんと?ふふ、うれしー」
 
 満足そうに笑った神無が縞斑に頬擦りをする。
 ふわふわと頬をくすぐる柔らかな髪を撫でてやれば、くわりとひとつ大きな欠伸をした神無が眠たげな瞼を落としながら呟いた。

 「でもいいんだぁ。せんぱいのこと、こまらせたくないし……きらわれたく……ないか……ら」

 神無の体がぐらりと傾いて縞斑の胸にもたれる。その体を支えて改めて抱え直した縞斑は、腕の中で再びすやすやと穏やかな眠りに落ちた神無のことを抱きしめていた。

 「……もう少し、自分が愛されてる自覚を持ってほしいな」

 恋人に恋しいと言われて面倒だと思うほど薄情にはできていないつもりだったが、神無の中で縞斑はずっと真面目な大人に見えているのだろう。
 その実、何がなんでも神無の元へ向かうために途中の仕事を明後日の自分に丸投げしたと聞いたら彼は安心してくれるだろうか。
 今度は「アサギリに迷惑を掛けるな」と怒られてしまうかもしれないが、そちらの方が何倍もましだと縞斑は小さく笑った。

 「明日起きたらゆっくり話すか」

 神無の望みの全てを叶えてやることは出来ないかもしれないけれど、話し合って丁度良いところを見つけた方が良いだろう。

 「まだまだ俺たち子供だねー」

 きっと二人の思いなんて、口にしないと何も分からないのだろう。呟いた縞斑は冗談のように笑って見せる。
 言葉は分かり合うためにあるのではなく、話し合うためにあるのだろう。そう改めて思い直した縞斑は、神無を抱えたその足で寝室へと向かうのだった。



 


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