pixivに掲載している「公爵の贅沢な誕生日」の後日談です。ヌヴィレットと1日デートをして過ごした後、恋しくなって会いに来てしまったヌヴィレットを甘やかすリオセスリの話です。
@otroom0v0
誕生日が終われば、いつもと変わらぬ日常が戻ってくる。その日もリオセスリは、メロピデ要塞と工場の管理に励んでいた。もちろん、悪巧みをしている者どもに目を光らせることも忘れていない。
――ああ、やっぱりここの暮らしは俺に合ってる。
薄暗くて湿っていて、けど、実力がものをいう世界。水の上とは異なるルールが、リオセスリにとっては心地よい。それでも、時々ふと水の上に思いを馳せてしまうのは……きっと恋人のせいだろう。先日の誕生日の思い出は、リオセスリの心を幾度も和ませた。
――今度はいつ会えるかな。
そんなことを思いながら、執務室で書類に目を通していた時。扉を叩く音が聞こえた。
「公爵様、お時間よろしいでしょうか」
「ああ。何か用かい?」
「その……最高審判官様が公爵様にお会いしたいと」
聞き間違いかと思った。あの人がここへ? 一体何をしに?
素早く考えを巡らせたが、思い当たることは何もない。だが、万が一ということもある。幸い手は空いているし、用事もない。そして最高審判官を帰らせるほどの理由もなかった。
「通してくれ」
「はっ、かしこまりました」
返事と共に、扉が開く音が聞こえる。それから規則正しい足音も。凛とした靴音は、実にヌヴィレットらしい。程なくして、予想外の客人――最高審判官ヌヴィレットが現れた。紙袋を提げているが、ブランドの刻印はない。あえて用意したものだろうか。
「ごきげんよう、ヌヴィレットさん。こんなところに来るなんて、一体何のご用かな?」
「突然押しかけてしまい、申し訳ない。仕事ではなく、個人的な用があって来たのだ」
そう言ってヌヴィレットがリオセスリのそばへ来て、紙袋を差し出す。
「これを君に」
「……どういうつもりだ?」
疑われていることを察したのか、ヌヴィレットが言葉を続ける。
「先日の誕生日についてだが、やはり私も何か贈りたいと思い直したのだ」
「なんだ、そんなことを気にしてたのか」
犯罪に関する調査かと思いきや、恋人として来てくれたらしい。嬉しいが、そこまでしなくてもという気持ちのほうが勝る。
「俺はあんたを独り占めできて満足してるよ。サプライズのお祝いも沢山貰って、不満なんかひとつもない」
ヌヴィレットの表情がわずかに曇る。そんな彼に微笑むと、さらに言葉を続けた。
「けど、贈り物を用意してもらえて嬉しいよ。ありがたくいただこう」
紙袋を受け取ると、ヌヴィレットがほっと表情を緩めた。しょうがない人だな、と思いながら中身を確認すると、クッキーの缶詰とレコードが数枚入っていた。
「私が気に入っているレコードと、評判の菓子店で購入したクッキーだ」
「こんなに貰っていいのかい?」
「もちろんだ」
「ありがとう、ヌヴィレットさん」
彼を見て礼を伝えると、眼差しが柔らかくなる。そこでリオセスリは察した。
――素直に言ってくれたらいいのに。
ふっと笑ってしまって、さりげなく口元を隠す。
遠く離れたメロピデ要塞に、わざわざ足を運んでまで、贈り物を渡しに来た理由。もしかすると、恋しく思っていたのはリオセスリだけではなかったのかもしれない。
「……では、私はこれで」
「待った」
引き留めると、リオセスリは席を立ってヌヴィレットのそばへ行く。彼の右手を握り、そっと唇を寄せると、さらに踏み込んで囁く。
「ここまで来て、さっさと帰るなんて……寂しいじゃないか。ほんの少しでも、ヌヴィレットさんの傍にいさせてくれ」
彼の瞳が動揺で揺れる。けど、口元に浮かんだはにかみが、本心を物語っていた。
「君の職務の妨げになる」
「つれないな。休憩くらい許してくれたっていいだろ?」
ヌヴィレットの右手を両手で包み込むと、微笑んでじっと見つめる。彼は少しの間迷っていたが、やがてふっと穏やかな笑みを浮かべてくれた。
「分かった。ではお言葉に甘えて、少しだけ」
そう答えると、ヌヴィレットがリオセスリを抱き寄せる。身を委ねると、どちらからともなくキスをした。ヌヴィレットのしなやかな指が、リオセスリのうなじをそっと撫でる。淡い口づけはほんのりと甘くて、少し物足りない。
「なぁ……もっと」
ヌヴィレットの首に腕を回すと、強く抱き締められた。そのまましっとりと唇を重ねて、何度もついばむ。蓄音機から流れるピアノ曲が、キスの合間に漏れる水音をかき消してくれた。心ゆくまでキスを堪能すると、至近距離で見つめあって笑う。
「あんたのこと、このまま閉じ込めたくなっちまうな」
「最高審判官をメロピデ要塞に? それは一体、どのような罪で?」
心を探るような視線。分かってるくせに、とリオセスリは目を細めた。
「たとえば、そうだな……公爵を誘惑した罪とか」
「誘惑してきたのはそちらだろう。おかげで帰り難くてたまらない」
互いに笑うと、リオセスリはヌヴィレットの手を引いてソファに向かい、彼をぐっと引き寄せた。
「じゃあ、満足するまで楽しむかい?」
「君が望むなら、喜んで」
その言葉を合図に、ソファへ押し倒される。リオセスリはネクタイに指をかけると、見下ろしてくるヌヴィレットに微笑んで挑発した。
「可愛がってくれよ?」
その言葉に応えるように、ヌヴィレットがリオセスリの唇を奪った。