@otohitoe_
「今年シュトーレン作ってみようかな」
もうすっかり毎日のように寒い日が訪れ、メディアや街中から年の瀬の気配を感じるようになった頃。テレビ放送されていた映画の合間にケーキの予約の広告が流れたあと、クロウリーがぽそりと呟いた。
「作ったことあるの?」
「おれが作ったやつ食ったことあるか?」
「ない」
「じゃあそういうことだろ」
わかりきったことをいちいち訊くな、と言わんばかりにクロウリーの脚がアジラフェルの太腿の上で組み替えられる。
「作り方知らないけど、手間がかかりそうだね」
「まあ、そんなもんだろ。菓子なんかは全部」
「何日もかかるんじゃなかったっけ」
「明日にでも始めるさ」
今年のクリスマスは平日、当然のように当日もイブの日もアジラフェルは仕事だが、もしかしたらそれを見越して長く楽しめるシュトーレンを提案してくれたのかもしれない。…というのは自惚れ過ぎだとしても、間違いないのは、クロウリーがクリスマスの準備をして待っていてくれるということ。
アジラフェルはふふ…と小さく笑い、クロウリーの腰とソファの間に腕を滑り込ませながら体を寄せた。
「今年も作ってくれるんだ。クリスマスに。ケーキ」
「生意気だぞ」
僅かに眉間を寄せて凄まれても少しも怖くなかった。何なら愛おしさのほうが湧いた。一番初め、一緒に暮らし始めて初めてのクリスマスの夜、それまでちっともそんな気配すら出さなかったクロウリーがわざわざ小さなケーキを焼いて、あんなに気まずそうに照れていたのをよく覚えているから。なのにその次の年も、去年も、やっぱりケーキを焼いて待ってくれていたから。もちろんケーキもうれしかったけれど、クロウリーがアジラフェルと過ごす日々を大事にしてくれているのが伝わるのが、伝えてくれているのが、何よりうれしいから。
「クリスマス、なるべく早く帰るよう頑張るね」
「いい、いつも通りで。おれもケーキも逃げないんだから」
「だからだよ」
それがどれだけうれしいか。