フォロワさんの素敵なイラストにインスパイアされたイルミネーション見るみずいこSS
@a_yuuzora
「水上、最近ガッコの近くにカフェできたんやって! 一緒に行かん?」
「水上、俺昨日めっちゃ美味い町中華見つけてん、食いに行こ」
「水上、あの映画観た? 俺まだ見てへんねんけど──」
「水上、週末空いとる?」
「水上、」
「水上」
いつものように生駒が誘い、いつものように水上が二つ返事で答え、二人で向かった『三門クリスマスマーケット』なるその催しは、想像以上に賑わっていた。
賑わいすぎてテーブルは常に満席・出店はどこも長蛇の列で、とても長居できそうにない。自販機でホットコーヒーを買って、会場から少し離れたところにあるイルミネーションだけ見て帰ることにした。
「なんちゅーか、ちょっと予想外やったな。人混み」
「三門ってあんなぎゅうぎゅうに人が集まることあるんすね」
「夏祭り以上やない? みんなクリスマスが近くて浮かれとるんかな」
「それ言うたら、のこのこ遊びにいった俺らもですけど」
「確かに?」
「……てか、誘うの俺で良かったんですか」
「え、なんで。良くなかったら誘わへんけど」
「他にもっと……別の誰かとでなくて良かったんかなと思いまして」
「他の誰か言うても、水上よっぽどのことがない限り断らへんし即レスでOKしてくれるやん」
「そうですね」
水上が断らないのは、自分が断ることで生駒が別の誰かを誘って遊びに行くのが嫌だからだ。いつだって自分を頼ってほしいし、ついてくるのが当たり前だと思ってほしいからだ。密かに親愛以上の感情を──恋心を寄せているひとに、一番近い存在だと思われたい、というささやかな我儘でそう振舞っている。
勝てない戦はしない主義だから、一方的に傾けている愛情と同じものを返してもらおうとは思わない。だから、生駒からの信頼をそれの代替として受け取り続けていたい。もうしばらくは。
「あー! 女の子と来んでよかったんかちゅーこと!? 俺にカノジョおらんの知っとるやろ!」
「勿論」
「でも、そういうの憧れるよなぁ、女の子とクリスマスデート。クリスマスやなくてもええけど」
いつまでも恋に恋する乙女のようなことをつらつらと述べる生駒の言葉を半ば聞き流しながら水上は思う。
あんた、ずーっと俺とデートみたいなことしてんの、本当に気付かないんですね。
そんな思考を口には出さず、自嘲気味に片頬を上げる。寒風にさらされた肌がひきつってぴりっと痛んだ。
一緒にカフェに行ったり、映画に行ったり、水族館に行ったり、ウィンドウショッピングしたり、イルミネーションを見たり。家で手料理を振舞ったり振舞われたりして、レンタルした映画のDVDを見て、時々泊って。
それだけのことをしても水上は生駒の恋人にはなれないし、そういう対象として見てもらえることはない。仲の良い後輩でしかない。
生駒はいつだってモテたいと言っているし、カノジョが欲しいとも言うし、街中で綺麗な女性を目で追っていることだってしばしばある。だから水上は今の関係を壊してまで深い仲になろうとは思わない。思わないが、空しく感じることもある。こんなことをして何になるのかと。
不意に、じわっと目頭が熱を持つ。こみ上げる感情を押し込めようとすればするほど反発するように熱くなり、ついにあふれ出したひとしずくが平静を装おうとした表情の上を滑り落ちた。
「……水上?」
いきなり黙り込んだ水上を不審に思ったのか生駒は隣を見上げて、驚きに目を丸くした。
「どうした、水上」
「いえ、なんでも」
妙な心配をさせたくないから、こんなもの見せたくないのに、涙をこらえようとぐっと瞬きをするともう一筋こぼれおちた。
「なんか嫌なもんでも見たか? 悲しいこと思い出したしたりしたか?」
悲しいことなんて思い出してないです。あんたと一緒にいるのはいつだって楽しいし嬉しい。でもその分痛くて苦しい。はなから脈なんてないのにいつまでもあんたの隣の椅子を手放したくなくて、それに執着してしまうみっともなさがあまりにも情けなくて辛い。
そんなふうに涙を拭わないでほしい。早く諦めたいのにまたひとつ好きになってしまう。あたたかな掌にすがりついてしまいたくなる。
どれだけ心を傾けても、本当に欲しい心が返ってこないのがわかっているから──
「さびしい」
震える唇からこぼれおちた本心は、雑踏に消えそうなほど小さな小さな声だった。