マジで謎時空ォョ。
このふたりはデキてない。
@kurato0o
ヒスイのサンタさん
目が覚めるのが楽しみだった。
12月25日はクリスマス。毎年、ショウの家にはサンタがやってくる。
ピンク色のベッドの縁に、大きくも小さくもない靴下をかけておく。毎年内容は違ったが、大きい時は枕元に、小さい時は靴下の中に、こっそりとプレゼントが贈られていて、ショウは綺麗に丁寧に包装されたそれを一度大事に抱き締めるところから一日が始まる。
ショウが大きくなっても、サンタはやってきた。
気恥ずかしい気持ちと、嬉しい気持ち。中身は決まって欲しいなと思っていたもので、小さい頃は欲しいものを手紙に書いていたのを思い出す。サンタの正体に薄々気付き始めても、ショウは知らないふりをした。サンタはやってくる、毎年、ショウの為に。
「さむ……」
この寒さにも大分慣れた。
ショウは敷布団の上で、調査隊服のまま大の字になって平坦な天井を見上げていた。
ギンガ団に属して大分経つ。詳細は省くが、己が世界を救ったらしいあれそれからもそれなりに時間が経った。村の発展はショウの体感的にはゆっくり、けれど着実に進んでいる。それに伴ってショウの仕事もかなり増えた。この地に降り立ってから、各地を転々とすることには慣れていたし、それなりに体力も根性もある。寂しくはないし、苦しくもない。
寝返りをごろんと打って、すんと鼻を鳴らす。
なんだか今日は妙にしんみりする。
というのも、今日がクリスマスイブだと知ったからだろうか。
凍土の厳しい寒さに耐えながらこなす任務が続き、久しぶりに帰ってきたコトブキ村では寒い中みんながお祭り騒ぎになっていて、それが別の地方から聞いたクリスマスの習慣だと気付くのに、かなり時間がかかった。おかげでショウは普段通り、久々のムベお手製のイモモチを三人前平らげて大満足だったのに、宿舎に帰ってきた途端無性に切なくなった。
今日、これから。
布団に入って眠っても、サンタは来ないだろう。
いや、来ないのだ。ヒスイに来て数年が経つが、サンタなんて会ったことがない。プレゼントもなければ、特段欲しいと思うものもなかった。欲しいものは自分で探せばいいし、作ればいい。誰かに強請ることなんてない。訴える必要もない。
自分で出来る。自分ひとりで完結できる。
世界はショウひとりで回っている。
そんな気持ちになって、流石にネガティブが過ぎるのではないかと思うが、何分寒いし疲れているのかもしれない。感傷的になるのは良くないと知りつつ、それでもせき止められない思いがあることを、ショウはヒスイに来てたくさん、たくさん知った。
「寝よ……」
こういう時は寝るに限る。
睡眠だ。睡眠が足りないのだ。とにかく疲れを癒さないと。
そう思って布団を乱雑に手に取って、頭から被った。しんと暗い視界に、どろんと思考が淀む。疲労感から一気に押し寄せる眠気に抗う理由もなく、そのままショウは眠りに就いた。
幸せだった頃の夢を見る。
クリスマス。朝、起きるとプレゼントがある。当たり前のようにそれを抱き締めて、眠気眼のまま階段を下りると、パンが焼ける匂いがする。陽光が差して、外は晴れ渡っていて、母親のおはようという声が聞こえる。抱き締めたプレゼントを無邪気なふりをして見せびらかす。その時、不意に玄関がぎしりと開いた。突然の来訪者に目を見開く。その姿は大男の形をしていて――…。
「痛い痛い痛い痛い!!」
「なにしてるんですかぁ……」
眠気眼でやってのけたのは羽交い絞めだった。
ぼんやりとした視界の下の方で、金髪の男が悲鳴を上げている。
音を立てたのは宿舎の引き戸だった。危機感の中で生活してきたショウはすぐに目を覚まして、部屋に勝手に侵入してきた人物を捕らえたのだった。そこまでほぼ無意識だったが、それが、ウォロというよく知った人物だと理解したら、一瞬で眠気は戻ってきた。
ぎろりと、暗闇の中でショウを睨む男にショウも困り眉で対応する。そんな怒った顔をされても、不法侵入されたのは自分の方なのだが。
「ウォロさん、こんな夜更けに何してるんですか? ここあたしの家ですよ」
「家と呼べるほど立派なもんでもないでしょう。というか先に離せ。どけ。ワタクシの上に乗るな」
命令してくる男にこれみよがしに溜息を吐いて、上から退く。
理由も何も不明だが、不穏な空気でないところを見る限り、悪事を働きに来たわけではなさそうだった。
そもそも、ウォロがショウの宿舎を訪れるのはそう珍しいはなしでもない。ショウが村にいる間は何かと高値で売りつけてくるあたり、カモにされている感は否めない。今日ももしかしたら売り上げが足りなくて何か持ってきたのかもしれない。
「あたしもう眠いのですが……」
「そうでしょうね。寝ているはずだから来たんですよ」
ウォロは今にも舌を鳴らしそうなほど険悪な表情を浮かべて、ゆっくりと身体を起こした。目元を擦るショウに向かって、ウォロはやはりというかなんというか、一度大きく舌打ちしてからぽいっと何かを投げた。おっと、と放り投げられたそれを掴む。小包みにくるまれているが、感触はころころとしていた。
「なんですか?」
「そりゃあ、何って、サンタさんでしょ」
ぱっと、視界が明瞭になる。
顔を上げると、ウォロがぎょっとしてみせた。なんだ、と呟くウォロにはショウの動揺は伝わっていないようだった。
「サンタさん?」
そうやって尋ねると、ウォロは眉を顰めて、ショウのおでこをこんと人差し指で突いた。
「間抜けな救世主様に贈り物ですよ。アナタのことだから、年甲斐もなく信じてそうじゃないですか。その様子を見るにそうでもなかったらしいが。からかって遊んでやろうと思ったのに、残念です」
そう言ったウォロの顔は本当に退屈そうだった。嘘を言っている風でも、虚勢を張っているようでもなかった。
「これ……あたしにくれるんですか?」
「ああ? ああ、まあ、はい。貰っておけばいいんじゃないですか? どちらにせよ誰も欲しがりませんよ」
どかりとその場に腰を下ろすウォロは、大きく溜息を吐いた。
こんな態度のでかいサンタがいて堪るか、と少し思った。
ショウは小包みをそっと開いて、中のものを取り出す。それは、いつか見たウォロの身に着けていたペンダントに似た、綺麗な石だった。
「…………」
「ね、誰も欲しいものじゃないでしょう」
そう言うウォロは自虐めいているわけでもなく、飄々としていた。何かを気にしている素振りではなかった。
ショウは顔を上げて、今はくらがりの中にある、小瓶に入った石を見た。
「大事にします」
小包みごと、ぎゅっと抱き締める。
贈り物をくれた人物は、は? と胡乱な声を上げてから、ふっと吐息だけで笑った。
「変な奴」
幸せな夢の続き。
それは幸福と呼んでいいのか怪しい寒い夜で、真っ暗な中、自分を騙した相手と過ごす、いずれ訪れる朝を待つ短い暗闇だった。