忘年会をする刑事探索者たち。🐸さん中心CP無し全年齢です。
ネタバレは特にありません。
@rikka_trpg801
また来年も
「よし、仕込みは完璧だな」
手を洗ってエプロンの紐をほどきながら、帰代は小さく自画自賛した。
カレンダーは十二月の三十日という年の瀬を示している。刑事という仕事柄、宿舎に集められた面々の大半は年末年始もシフトが組まれているものの、遠方から参加しているアキラや神無は明日から一旦帰る予定になっていた。
そんな彼らを送り出す意味も込めて忘年会をしようと言いだしたのが誰だったかは覚えていないが、帰代はそれならと半休を取ってせっせとご馳走を作っていたのだ。
鍋いっぱいの豚汁に出汁を使った和風コールスローサラダ、デザートの黒胡麻プリンは完成済み。メインの揚げ物であるカキフライにエビフライ、梅やチーズを挟んだササミフライ、レンコンのはさみ揚げの種はすでに衣までつけ終わり冷蔵庫に仕舞ってある。タルタルソースも作ってあるので、後は夕飯の時間に合わせて揚げるだけだ。
時計を見るがまだ夕方で、今から揚げ始めていたら冷めてしまう。空き時間で何かつまみでも追加するかとぼんやり考えていた帰代の視界にふと入ってきたのは、リビングの炬燵だった。
宿舎の数名が結託して持ち込んだそれは、冬の間の人気スポットである。定員四名という激戦区であり、よくジャンケンによる争奪戦が行われていた。帰代はリビングで寛ぐ機会も少なく、ほとんど利用したことが無い。
「……」
忙しい年の瀬、今宿舎にいるのは帰代だけだ。炬燵に入って一息吐いても、誰にも見られずに済む。
無言で足早に炬燵へ向かい、スイッチを点ける。真四角の一辺を持ち上げて両足を突っ込めば、まだ温まってはいないものの天板からじわりと熱が降り始めていた。
そのままじっとしていれば、やがて炬燵布団の中は体温よりも温かくなっていく。帰代は両手を炬燵の中に差し入れ、ほぅっと溜息を吐いた。エアコンのお陰である程度の室温は保たれているものの、長時間キッチンで冷たい食材を触っていた手は芯から冷え切っていたのだ。
身体の末端が温まるにつれ、疲労感がじわりと主張を始める。午前は仕事、午後は料理の仕込みとほとんど休みなく動いていたのだ。
このままでは不味い、だらしないとわかっているのに、帰代はぱたりと後ろ向きに身体を倒して寝転がってしまう。重くなり始めた目蓋を押し上げて時計を見やり、まだ一時間以上余裕があることを確認する。
「……少しだけ、だ」
温められる身体が誘う眠気に抗えず目を閉じる。
静かな夕方の眠りは、どうしようもない心地よさで帰代を包み込むのだった。
鼻腔をくすぐる香ばしい匂いに釣られるように、帰代の意識が浮上する。聞こえてくるのは何人もの話し声と、油の弾ける音――そこで、一気に覚醒した帰代は目を開けながら跳ね起きた。
「うわっ!? びっくりした~」
近くを通りすがったらしい巻が胸を抑えているのが見える。リビングのガラス戸越しの外はすでに夜の暗さで、帰代は冷や汗をかきながら慌てて時計を見上げた。
長短の針は無情にも七時過ぎを示しており、寝過ごした事実を帰代に突き付けてくる。明らかな失態だ。
「っ、悪い。すぐに準備を――――」
「あっ、帰代先輩おはよう! 料理なら心配しなくて大丈夫!」
急いで炬燵から出た所為で肌寒さに身を震わせた帰代に、キッチンから神無が声をかける。どういうことかと慌ててキッチンへ向かえば、揚げ物の鍋二つの前に聖が陣取っていた。その周りを神無や糸冬がせっせと動き回っている。
「変ちゃん、よく眠れた?」
「聖、これは――――」
「揚げてるところ。変ちゃんだいぶお疲れみたいだったし、下準備は全部してくれてたから後は俺たちでも大丈夫だよ」
引っ付かないよう間隔を空けながら種を静かに投入し、適度にひっくり返しながら揚げる聖の手際に危なげは無い。元々やろうと思えば料理の出来る人間なので、任せても問題はないだろう。
だが、最後まで完璧に仕上げるつもりだった帰代としては、気まずい思いが拭えない。
「そこまでしなくても、起こせば良かっただろう?」
不甲斐ない自分自身への苛立ちの所為で恨みがましくなってしまったその台詞に苦笑する聖の向こうから、サラダを盛りつけていた糸冬が声をかける。
「とても気持ち良さそうに眠っていましたし、心さんの言うようにとてもお疲れのようでした。糸冬たちが帰って来た気配にも気付かないくらいですから」
いけ好かない作り物めいた笑顔に普段以上に神経を逆撫でされつつも、帰代は正論に黙り込んだ。基本的に気配に敏いはずの帰代が、馴染んだものとはいえ大人数が帰って来ても気付かず眠り込んでいたのは事実である。確かに、相当疲れが溜まっていたのだろう。
渋い顔で沈黙する帰代に、苦笑していた聖が優しく微笑みかける。
「俺たちは揚げたり温めたりしてるだけ。今日の料理を作ったのが変ちゃんだってことは皆わかってるよ」
「そうそう! 帰代先輩いつもありがとう。たまには俺たちにも手伝わせて」
最年少の神無にまで言われると、これ以上意地を張るのも大人げないと帰代は肩の力を抜いた。
「わかった、仕上げは任せる」
バラバラに返ってくる返事を聞きながら、帰代は根城であるキッチンから一歩下がる。が、口出しは忘れない。
「神無、デザートはまだ冷蔵庫に入れておきなさい」
帰代に目敏く注意され、黒胡麻プリンのトレーを運ぼうとしていた神無は「はーい……」と名残惜しそうにそれを冷蔵庫に戻すのだった。
乾杯の掛け声と共に始まった忘年会は、卓上の山盛り料理の大半が消えても賑やかに続いていた。
「っぷはぁ~! 揚げ物にビールってなんでこんなに合うんだろうな?」
「ハイボールもいけるよね~」
「次はそっちも試すか。あ~本当、食い物とか飲み物とかこのまま持って帰りたいぜ」
「税関通れへんでしょ、それ」
当然酒も入っており、何人かは顔を真っ赤にしている。その中に明日の午前中のフライトでアメリカに帰るはずのアキラも含まれているが、果たして大丈夫なのだろうか。一緒に飲んでいる広大と巻は止める様子が無い。
仕事に出る前に叩き起こしておこうと、帰代はグラスに残っていたビールを煽りながら心に留めておく。
「矢先さん! 揚げ物の屑を零さないで下さいと先程から……あぁっ!?」
「むっ、やっちゃった。今拾う」
「ちょっ、拾ったのを食べないでくだ――いやぁ~!」
「机の上だし、三秒ルールで大丈夫だろ。お前いちいち細かいんだよ」
ひたすら食べ続ける的中と蒼褪める廉士、五月蠅そうな鈴風という酔っ払いとは別の意味で騒がしい一角もあるが、今は目を反らしておく。メニューをフライにした時点で半ば予想できていたことだ。後で掃除機をかければいい。
ちなみに大問題を起こしそうな最近の入居者は、飲酒組総出で真っ先に潰してある。急性アルコール中毒の危険性があるため褒められた手段ではないが、全員の貞操的な安全を守るためだ。
「えぇ~ひょんなころまれぇ~?」
離れたところのソファに転がされている件の新人こと甘美は、真っ赤な顔で涎を垂らしながらくねくねと身を捩っている。どんな夢を見ているのか、帰代は一切知りたくない。
「おいしい……」
「三十一さんは本当に甘い物がお好きですね」
「うん、好き……」
「おや、結構酔ってます? 大丈夫ですか?」
「ぜんぜんだいじょうぶ~」
あちらでデザートの至福に浸っている神無は、間違いなく酔っているので早めに回収すべきだろう。近くにいる糸冬と目が合って頷かれたので、ひとまず任せておくことにする。
「賑やかだね」
傍によいしょと腰を下ろした聖が、帰代にロックのグラスを差し出してくる。黙って受け取れば、大きな氷の入ったグラスの三分の一ほどまで琥珀色の酒が注がれた。
「あ~、疲れた。揚げるだけでこんなに大変なのに、変ちゃんいつも頑張り過ぎじゃない?」
「俺は慣れてるからな。でも、まぁ、今回は助かった」
グラスに口を付けながらの素直じゃない小さな感謝に、聖の口元が笑みを描く。
「どういたしまして」
言いながら自身のグラスを差し出してくる聖に、帰代も意図に気付いてグラスを持つ手を出す。
「ちょっと早いけど、今年もお疲れ様。来年もよろしくね」
「ああ」
殉職者がいつ出るとも限らない危険な仕事だが、宿舎に集う面々は増えるばかりだ。来年もまた、そうであり続けることを密かに願う。
グラスの合わさる硬質で澄んだ音は、宴会の喧騒の一部として吸い込まれていった。
(あとがき)
年末なので刑事探索者たちに忘年会をしてもらいました🍻 メインは🐸さんですが、一応十一人全員いるはずです。
今年も色々ありましたが、彼らには来年も様々なセッションで活躍して欲しいと願ってやみません。セッションじゃなくてもいろんなお祭り企画やら何やらも楽しみにしています☺
それでは、皆様良いお年を! 来年もよろしくお願いします✨