@tirichann
私はイコさんにカワイイと言われたことがない。年下から猫、はたまた高嶺の花の月見さんにまで「カワイイ」と言うことを忍ばないイコさんだが、私に対してだけはその言葉を使ったことがないのだ。私が髪を切ったとか、隊服の着こなしを少し変えたことにはよく気付くけれど「ええやん」で終わりである。私はイコさんにカワイイと言われたがっていることを悟られる前提で尋ねた。
「何で私にはカワイイって言ってくれないんですか?」
イコさんは真顔だった。同室にいる隠岐くんが、あちゃあという顔をしている。二人きりなら上手く誤魔化されてしまいそうなので、あえて他のメンバーがいる時にしたのだ。水上くん達も見守る中、イコさんは遂に口を開いた。
「俺が名前ちゃんに言ったらお付き合いが始まってしまうやん」
その理屈はよくわからないけれど、どうやらイコさんの中で私は他の女子とは別枠にいるらしい。私がイコさんを気になっているのを隠さなかったのと同じように、イコさんもまた私が特別であることを隠さなかったのだ。
私は礼を言って部屋を出て、元通りの日常に帰った。相変わらずイコさんは他の女の子にカワイイカワイイ言っていたし、私には言うことがなかった。その代わりに間合いや質感が他の女の子とは違うような、特別な会話をした。私達は多分同じ想いを抱いていると心の中で直感した。タイミングを見定めるような期間が続いて、イコさんは遂に私の前に現れた。
「名前ちゃん、カワイイな」
イコさんは覚悟が決まったということなのだろう。私もまた、覚悟を決めなくてはいけない。イコさんは告白の代わりにカワイイと言ったし、私は承諾する意味で「はい、可愛いです」と言った。私達だけの告白文句だが、側から聞いていれば妙な会話に思えるのだろう。水上くんが「なんやこれ」とぼやいているのが聞こえた。