カルみと 姫始めの話(えろくない)
シナリオネタバレあり
@popo_trpg_ss
「姫始めって、女の人が家事や針仕事を始める日が由来なんだってさ」
毛布に包まってわこわことみかんを剥きながらそう呟いた縞斑に、思わず神無は綺麗な二度見をしてしまった。
「……今なんつったアンタ」
「いやだから……姫始めって元々の由来は女の人が雑事を始める日のことで、年始めのセックスって意味じゃなかっ」
「わぁあああ!!?やっぱいい!言い直さなくていい!!」
顔を真っ赤にした神無が両手を振り回して言葉を遮れば、あはは、と他人事のように笑った縞斑がみかんを一房頬張る。
そんな呑気な顔をじろりと睨んだ神無は、同じ毛布に包まったまま隣の縞斑へと詰め寄った。
「まさかだけど、今のってお誘いだったりする?」
「うーん……そういう雰囲気になったらやぶさかじゃないなぁの気持ちで持ちかけた雑談?」
「なるわけないだろっ!ムードなさすぎ!!」
元旦の激務を終えた1月2日の昼下がり、週休となった神無は縞斑と共に過ごす約束をした時点でそれなりに夜の秘め事も想定していた。
今日行う情事が少しだけ特別な言葉で呼ばれることは昨年に身をもって体験したため、今年はあらかじめ翌日の午前にも休みを確保してある。
とはいえ、このきっかけはいくらなんでもムードが無さすぎるだろう。そう神無が文句を言えば、縞斑は悪びれることなくその口にみかんを一房放り込んだ。
「だって気になるじゃない?なんで姫始めって言うんだろうって」
「むぐ、それは……そうだけどさぁ……」
「秘め事と語感が似てるから江戸時代から隠語として使われたとか、そもそも姫遊びっていう性的な言葉があるらしいとか、調べたら結構歴史が深くて楽しくなっちゃって」
「いくら楽しくなったからって恋人に知識共有で振る話題じゃないだろ絶対」
「じゃあアサギリちゃんに披露しろって?」
「それはもっとまずい。スパロー追い出される」
神無の本気の心配をおいて、縞斑はけらけらとおかしそうに笑うと机の上に置かれた酒を傾ける。
思えば彼の酒のペースはいつもより早かった。酔って饒舌になっているのかもしれないと納得した神無は笑う縞斑へ体を預けると、わざと唇を尖らせて不貞腐れた表情を作って見せる。
「俺、ちゃんと期待して準備してたんだけど」
「おぉ、去年から進歩してるね」
「あれは忘れてって言ったじゃん……!」
去年の神無はというと、聖の入れ知恵で姫始めというものが何かも分からないまま縞斑に「姫始めがしたい」と頼むような命知らずだった。
その後散々、もうむり、ゆるして、とひんひん情けなく泣いて許しを乞うた神無は、当時の記憶を思い出すと気まずそうに目を逸らす。
今度はふりではなく本当に唇を尖らせて不貞腐れの姿勢に入る神無を見て、縞斑は小さく笑うと至近距離にあるその唇にそっと自らのそれを重ねた。
「ん、」
ふわりと漂う酒の香り。嗅ぎ慣れたウイスキーの香ばしい匂いではなく、ここに来る途中で買ったらしい日本酒特有の苦味だ。
テーブルに置かれた甘い酒とは比べ物にならない度数のそれは、自分なら香りだけで十分に酔えそうだと小さく笑った神無の顔を縞斑が覗き込む。
「絆されてくれない?」
「どうかなー……先輩のテクニック次第じゃない?」
「煽るねぇ」
縞斑の頬に手を当てて挑発するように笑えば、楽しげに喉で笑った縞斑が神無の唇を覆うように食む。
神無が薄く唇を開いてそれを受け入れると、彼はそのまま舌で口内を愛撫した。酒によって少しだけ熱い互いの口内は溶けてしまいそうで、神無は思わずぎゅうと彼の胸に縋る。
「ん……ぅ」
唾液を交わして舌先を絡ませているうちに漏れたくぐもった声は、神無が自分で思う以上に濡れていた。
歯列をなぞっていた舌先に上顎をくすぐられた途端、ぞわぞわと背を撫でる甘やかな快感に神無の体から力が抜ける。
「ふ……う、ん……ぁっ」
そのまま腰掛けていたソファにぽすりと押し倒された拍子に、ようやく縞斑は唇を解放した。
名残惜しそうに唇の端を食んだ彼は、そのまま神無の首筋へ舌を這わせる。ぬるりと滑る温かなその感触に小さく身を震わせた神無は、顔を上げた縞斑の頭をそっと撫でた。
「いい?」
こんなに行動は強引なくせに、最後は必ず神無の了承を得る縞斑は随分義理に堅い人だ。
いや、ひょっとすると言わせたいだけの意地悪かもしれないと小さく笑った神無は、縞斑の首に両腕を絡めてぎゅうと引き寄せる。
「いいよ」
今年は別の意味で寝正月になるかもしれない。
昨日のうちに甘いものを買い揃えておいて正解だったと自画自賛した神無は、これから迎える甘く穏やかな時間に身を任せて目を閉じるのだった。
終