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全体公開 ff14 温度差兄弟/🔥×💧 3397文字
2026-01-03 14:48:56

温度差兄弟
※性別描写、種族描写なしの光出てきます

Posted by @yohima33

 ウキィ、と小さな声がした。ディープブルーとの待ち合わせ場所に向かっていた足が、ピタリと止まる。レッドホットは辺りを見渡して、声の出処を探った。兄と呼び慕う彼がいたのなら、放っとけと腕を引かれたことだろう。だが、ディープブルーよりずっと小さなレッドホットの耳に、やけに甲高く響いたものだから。人を避け、路地裏へ進み、少し影になった場所に出て。声のした方角へ、躊躇うことなくズンズン進む。
 キィ……と更に弱々しくなった声。かなり下の方から聞こえることから、声の大きさだけでなく実際のサイズも小さいようだ。レッドホットはその場でしゃがみ、ゴミ箱の下や放置されたエアスピナーの隙間を覗き込んだ。彼を突き動かすものは、ただの好奇心。困っているのかもしれないから助けよう、なんて頭のどこにもありはしない。何の声だろう、どこから聞こえるのだろう。ただ、それだけである。
「お、ここか」
 ガシャン。積み重ねられたエレクトロープ製の機械の山を崩し、中に潜んでいたらしい小さな呼吸の生き物を拾い上げた。
「丸い頭、デカイ耳、長いしっぽ。お前、何だ?」
 首の根をむんずと掴み、体を左右にぷらぷら揺らす。レッドホットの、生まれて初めて見る生き物。この二本線みたいな部分は、目を瞑っているのだろうか。生きてはいるらしいから、視線を感じたら起きるかも。レッドホットはじっと、じーっと見つめ続けた。
……ゥ、ウキャーッ!」
 その時は、案外早かった。ものの数秒でその生き物は目を覚まし、咄嗟に短い手足をばたつかせる。長いしっぽが時折腕に当たると多少の痛みを感じるが、鍛え上げられたレッドホットの肉体には全く響かなかった。
……? お前、何付けてるんだ」
 暴れているのを観察していると、生き物の首元がキラリと光った。短い毛の中に隠されたそれをそっと取り出すと、楕円形の小さなペンダントが出てくる。銅色のそれを開いてみれば、そこには文字が刻まれていて。ご丁寧にリンクパールと、繋がる先の相手の名前が載っていた。
「つまり、迷子か?」
「うきゃ?」
 ペンダントを開けるためにとようやく開放されたその生き物は、よく分からないとでも言いたげに首を傾げた。


   ◇◇◇


……で、拾ってきちまったワケだ。オレとの約束すっぽかして」
「すっぽかしてない。遅れただけだ」
「そのちんちくりん優先してんだから、そりゃすっぽかしたっつーんだよバカ」
 チッと大きな舌打ちをして、ディープブルーはドカッと大股開きでベンチに腰掛ける。その露骨にイライラした態度に、レッドホットの肩に乗った生き物は酷く怯えた。そっと彼の頭に隠れ、髪の隙間からこっそりとディープブルーの様子を窺っている。
「で、結局なんなんだよソイツ」
「ベイビーオポオポ、だ。子猿らしい」
 埒が明かないと思ったのか、ディープブルーは大して興味も無さそうに質問した。丸い目、少ない頭身、何も出来なそうな手足。いかにも子供らしい体型の小さな子猿は、巨躯であるレッドホットと共にいるとかなり歪で。あまりにも似合わないものだから、ディープブルーは笑いが込み上げてくる。
……ハハ、ああいや、そんで? その親猿はどこにいやがんだ?」
「兄者も知ってる人だぞ」
 レッドホットの口から告げられたその名前は、ディープブルーの目を丸くさせた。
「マジかよ……って、まだここにいるってことは」
「今はキープ内にいないらしい。数時間もしたら迎えに行くから、預かっててくれって」
「オレたちはベビーシッターじゃねェんだけど!?」
 ダンッ! と思い切り地面を蹴りあげる。ベイビーオポオポはキャッと小さく悲鳴をあげ、更にレッドホットの髪の中へと埋もれていった。
「兄者、怖がってる」
「お前もお前で可愛がってんじゃねーよ!」
 ウガーッと怒りを撒き散らし、このままでは感情に任せてベイビーオポオポにも当たられてしまいそうだ。レッドホットは頭部にそっと手を添えながら、何がいい案はないかと考える。とは言っても、ディープブルーに口で勝てる訳もなく。ただひたすら困った顔をするだけだった。
「ゥ?」
 先程まで震えていたはずのベイビーオポオポが、レッドホットの首の影から出てくる。短い手を伸ばす先には、ディープブルーのサーフボード。色が剥げたから塗り直したい、と持ち出したもの。元々大きな目を更に大きく輝かせ、ぱたぱたと楽しげにしっぽを揺らした。
……んだよ、何が欲しいって?」
「もしかして、ボードじゃないか?」
「ボードォ? あいつ、サーフィンもやってんのか?」
 試しにとサーフボードを近付けてみると、ペタペタと手を貼り付けて嗅いでみせる。それは、見慣れたものへの反応というよりも……
「初めて、見たのか」
「おい、あんま触んなよ。もっと色取れちまうだろ」
 もうおしまいだとパッと離せば、ベイビーオポオポは残念そうにレッドホットに体を預けた。この短時間で、レッドホットに随分懐いているようだ。どっちかといえば、力の加減も出来ないレッドホットの方が危険人物なのだが……それを言えば、次はディープブルーの肩に乗せられることになる。そんなのごめんだと、ディープブルーは口を噤んだ。
「猿って、サーフィンできるのか?」
「いや知らねえし……は? おいまさか」
「興味がありそうだ」
 一体どこで拾ったのか。小さなポーチにベイビーオポオポを詰め、レッドホットはエアスピナーを起動させた。……確かに、子供向けに小さなサーフボードもプールに置いてある。だからってベイビーオポオポには大きすぎるし、そもそもなぜそこまで乗り気なのだろう。顔の半分を隠した弟分の考えることは、いつになっても分からない。
……お前のスピードじゃ、そいつ落ちるぜ」
 ディープブルーは深くため息をつき、レッドホットに全く似合わないポーチごとひったくる。改造済みのエアスピナーで、レッドホットが自分以外の生き物を考慮しながら走れるわけがない。ベイビーオポオポの主のことを考えれば、何かあった場合自分たちはどうなることやら。それなら、プールに行く以外の選択肢がないのなら。
「オレが連れてってやる。お前は先飛ばしてろ」
「いいのか、兄者」
「そもそもオレの意見聞く気もねえだろ」
 全く理解は出来ないが、どうやらこの大柄な男はこの子猿をかなり気に入っているらしい。ポーチの中で意外にも大人しくしているベイビーオポオポの頭のてっぺんを、レッドホットはツンツンつつく。良かったな、なんて小さく微笑みながら。……ディープブルーは、身内にかなり甘かった。
「いいか? 連れてくだけだぞ。そっからはお前が面倒見ろよ。こっちはボードの手入れしたかったんだからな!」
「ああ、分かった。ありがとう、兄者」
 会話を理解しているのかいないのか、ベイビーオポオポは楽しそうにキャッキャッと笑う。 ギャイギャイ口では言いつつ、ディープブルーは気付いていた。……結局自分が、ふたりまとめて面倒を見ることになるのだろうと。だって、レッドホットがベイビーオポオポの小さな体のことを考えながら教える、なんて出来るはずがない。そこまで先を見据えた上で、なお連れて行こうと言うのだ。ディープブルーは、身内にとことん甘かった。
「ッだァもう、とっとと迎えに来てくれ……
 ぽつりと呟かれた小さな嘆きは、エレクトロープのあたたまる音にかき消された。


   ◇◇◇


……で、思ったより猿って器用なモンでさ。結構乗りこなしてたんだけど、やっぱボードがデカくて」
「こいつに合う、小さいサーフボード。その辺の材料かき集めて作った」
「あとは色キメたくてさァ。どれがいい?」
 冒険者は、瞬きを何度も繰り返した。今朝方盗み食いをしに勝手にどこかへ旅立っていたベイビーオポオポを迎えに来たはずが、何故かその子はサーフィン体験をしていて。びっしょりと濡れた毛皮もそのまま、インクを前に真剣な表情をしている……ような気がする。
……仲良くしてくれて、ありがとう?」
 大きく疑問は残るが、まずはこの言葉から。それを聞いた兄弟は、同時に顔を見合わせる。
「仲良くなってねェよ」
「ああ、仲良しだ」
 ベイビーオポオポが、嬉しそうにウキィ! と鳴いた。


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